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第19話 「この外道がっ!!」

※鬱回注意!

「っしゃああ!!

 初っ端からジャイアント・オレでいくぜええええええよ!!!」

「光で攪乱するよ!」

「2,3人なら浮かせます! 指示を!」

「ずっと回復よ~!」

「飯食いねえ!!」

「ストオオオオオプ!! 落ち着け!!」


 プロメテウスの待ったで全員能力を停止。


「「「「「なんでええええええええええええ!!?」」」」」


 ハデスを除く五兄弟は息を揃えて叫んだ。


(息ピッタリだな!)

「盛り上がってるとこ悪いが、別に俺たちは戦いたい訳じゃないだろ?」

「「「「た、確かに……!」」」」

「え? ちがうの?」

(またお前か、ポセイドン……)

「まだ、ティタンの連中だと決まった訳じゃないし、何が目的かもわからん。

 まずは様子を窺うべきだと思うが? リーダー」


 促されて、ゼウスは「えへへ」と頭を掻きつつ前に出た。


「えっと、僕はプロメテウスの意見に賛成だけど。

 どうかな? みんな」

「いいと思うぜぇ!」


 ハデスと女性陣も頷く。


「よし、ではまず俺とポセイドンで偵察。

 ヘラは連絡の為ついて来てくれ。

 他の皆は待機で頼む。

 これでいいか? ゼウス」

「えっとさ、わざわざ僕に了解取らなくていいよ」

「……いいのか?」

「勿論さ。

 だって君以上に機転が利く人はいないだろ?」


 プロメテウスはそれぞれの顔を見た。

 みんな信頼の眼差しを向けている。


(……こりゃ、応えてやらんとな!

 だが、俺よりもハデスの方が……。

 いや、この局面ではあいつの合理主義がアダとなるかも知れん)

「よし! 任せろ!!」


 ヘラを背にポセイドンとふたり、プロメテウスは麓の方まで降りた。

 茂みに潜み、辺りを見渡す。


(やはりティタンの兵士達か……。

 大方コイオスの私兵といったところだろう。

 さあ、どう切り抜ける?

 俺ひとりで交渉するのがベターか……)

「おい! アレ!」

「ん? な―――!?」


 ポセイドンの指差す方向。

 ティタン兵のひとりが、異形の一人を連れていた。


「オイオイオイ!! ヤッベエ! 助けねえと!!」

「待て! 俺に考えがある!」


 ポセイドンを制すると、プロメテウスは茂みから出た。

 だが―――。


「ヒヒーン!!」

「コラー!! モロスをはなせー!!」

「な! 何だ!? こいつ!!?」


 別の茂みからケイロンに乗ったヘパイストスが飛び出してきた。


「バッ! クソッ!!」


 プロメテウスは慌てて駆け出すも、馬の脚を持つケイロンには追い付けない。


「モロスー!! あっち!!

 わっ!?」


 ヘパイストスのお陰で異形の人モロスは逃げおおせた。

 しかし、兵士に阻まれケイロンが驚き、ヘパイストスが投げ出されてしまった。


「このガキ!」

「わ! なにをする! はなせー!!」


 兵士に捕まり、ジタバタするヘパイストス。

 しかし頭を掴まれ帽子をはがされた。


「ひ!? ひやあああ!! なんだガキは!!?」


 ようやくプロメテウスが追い付く。

 しかし、遅かった。

 ヘパイストスは捕えられ、今まで隠していた素顔を露にされていた。


「な!」

(なんだ!? あの顔は……!?

 …………あれが子供の……!)


 普段ハデスや異形の人々を見慣れているプロメテウスでさえ、絶句した。


(……ハデスはともかく、異形化した連中は既に人とかけ離れてしまっている。

 だが……この子は、人の顔が、ひしゃげて(・・・・)しまったかのように……!

 …………ク!)


 プロメテウスはショックを受けていた。

 ヘパイストスの素顔に。

 そしてそれを見て衝撃を受けてしまった自分自身に。


(ざっけんなよ!? 俺!!

 見た目がどうした!? それであいつが変わるのか!? んな訳ねえだろが!!)


 プロメテウスは怒りの形相で走り出した。

 彼に気付いた兵士達が気圧される程の怒気を孕んで。


「プ、プロメテウス殿!?」

「どけ!!」

「は! ははっ!!」


 反射的に、兵士たちは敬礼した。

 構わずヘパイストスをひったくると、外された帽子を被せる。

 そして心配そうに抱きかかえた。


「大丈夫か?」

「う、うん……!」

「……いい子だ!」

「これはこれは、プロメテウス殿、でしたかな?」


 プロメテウスが睨みつけると、隊長らしき男が馬にまたがりやってきた。

 見覚えのある顔だった。


(こいつは確かコイオスの屋敷にいた――)

「クレイオス殿でしたか。

 この様な成りで失礼致しました。

 しかし、何の騒ぎですか? これは。

 まるで遠征にでも出かける様だ」


 まくし立てるようクレイオスに食って掛かる。

 作り笑顔ではあったが、目は笑ってなかった。

 対してクレイオスは、余裕の表情で大仰に手を振る。


「まさか! 我らはこれから狩り(・・)に興ずるところ。

 いかがかな? 卿も――」

(……狩りだと? あいつらを何だと思ってやがる!?

 チッ! ボンクラ貴族がふざけやがって……!)

「それは大変光栄ですが、なにぶん不器用でして……」

「まあ、そんな事を言わず」

「私如き恥を晒すだけでございます。どうかご容赦を――!」


 プロメテウスは伏して乞うた。


「ふむ……。

 時にプロメテウス殿?

 そちらは貴殿のお知り合いか?」


 クレイオスは蔑むような目でヘパイストスを見た。


「ええ、偶然出会った少年です」

「部下に聞けば、人の顔ではないとか。

 例の化物とやらではないのか?」

「さて、私にはただの子供にしか見えませんが?」

「ほう? ならば見てもよろしいな?」


 クレイオスが手を伸ばしかけたと同時に、別の手が遮った。


「お戯れを――」

「ふむ……。

 ところで、貴殿は我が兄コイオスの命を受けていたと聞く。

 かような地で我らとまみえたのは偶然であろうか?」

(こいつ、奴の弟だったのか、どうでもよ過ぎて知らなかった)

「密命ゆえ、お答えしかねます」

「おお、それはあいすまぬ事を言った。許されよ。

 では、貴殿は引き続き密命に沿われるがよろしかろう。

 我らは狩りを続けるゆえ」

(……そうきたか。

 だが、帰ってもらうぞ?)

「実はその、既に命は達成しておりまして」

「ならば帰られればよかろう?」

「ただ、その、いやはや困りましてな」

「……何だ? はっきりなされよ!」

「実はここだけの話、密命というは他でもない。

 その馬でおりまして」

「うまぁ? な――!?

 へへへ! 陛下ァ――――!!?」


 ケイロンの顔を見たクレイオスは慌てて馬から転げ落ち、土に頭を擦り付けた。


「皆! 控え! 控えい!!」


 クレイオスの号令で兵士たちが一斉に平伏していく。

 プロメテウスは表情を変えぬまま、ヘパイストスに「見ろよ、あれ」と指差した。


「卿? クレイオス卿? 何をされておられるのです?」

「なんと! 陛下の御前であろう!?」

「いえ、陛下はおられませんよ?」

「何をバカな!! 現に!

 …………………やや?」

「気付かれましたか?」

「……陛下の神々しさを感じぬ。

 ぬ! よく見れば裸ではないか!?

 それに――うまぁああ!!?」

「ヒヒーン!」


 ケイロンのいななきに驚き尻もちをつくクレイオスを尻目に、プロメテウスはしれっと語り出した。


「実は方々で陛下をお見かけしたとの報告がありましてな。

 私はその真偽を確かめる為に、各地を転々としておりました」

「し! しかし! その様な話は聞いておらぬ!」

「ですから、密命なのです。

 もし陛下に瓜二つの者がいたとすればなんとしましょう?」

「そ、そのような事があれば大混乱を招くわ!!」

「そうです。

 この様な大事、私の様な者には荷が勝ち過ぎます。

 故に、どうすれば良いかと困り果てていたのです。

 ですが、私は運が良い。

 なにせ卿にお会いできたのですから」

「な、なにゆえ……?」

「卿はコイオス公の弟君にあらせられる。

 そこで、もしよろしければ、兄君に口添え頂けないかと」

「お、おぬし、儂を利用するつも――」

「滅相もございません。

 私はただ、あなた様にお縋りしているに過ぎません。

 無論、あなた様の一存にございます」

「儂の、一存? お主が、儂を?」

「我が命運は、その手の中に――」

「……フフ! フハ! フハハハハハハ!!

 かの天才プロメテウスが! この儂を頼るか!!

 ククク! 面白い! 面白いぞ!!

 ハーッハッハッハッハ!!!」


 クレイオスは上機嫌で呵々大笑。

 プロメテウスがほくそ笑む。


「して、お主の手柄だが――?」

「そっくりそのままお譲り致します」

「ほぉう!? それはなんとも殊勝な心掛けよ!

 では早速都に――!」

「しかし、ただこのまま都に戻れば要らぬ混乱を招きましょう」

「うむ! 確かに!

 誰ぞにこれを見られるのは面倒であるな!」

「そこで思いついたのですが、このまま兵団ごとお帰りになるのがよろしいかと」

「なに? 兵団ごと?」

「たかが馬一頭、兵団に紛れ込ませれば、人目に付く事無く帰還できると愚考致しましたが」

「流石はプロメテウス! 噂に違わぬ知恵者っぷりよ!

 皆の者! 退けえええぃ!! 全軍都に戻るぞ!!」


 クレイオスの号令で兵団は一人も漏れず帰路についた。


(チョロ過ぎて泣けてくる)

「どうした!? 感激のあまり泣いておるのか!?

 苦しゅうない苦しゅうないぞ! ハッハッハ!!」


 プロメテウスは必死に笑いを堪えていた。

 目論見通り、無事都の大通りを抜け、コイオスの屋敷にと辿り着いた。

 突然の兵団の帰還にコイオスは慌てて屋敷から飛び出してきた。


「これはどうした事か!?

 クレイオス!! クレイオオオオオオスウウウウウウ!!!」

「は! ここに!」

「ここに! では! なああああああいいいいい!!!

 なにゆえ何の知らせも無く戻った!?

 狩り(・・)を終えたとでも言うのか!?」

「いえ、それは未だ……。

 しかし! これをご覧ください!!」


 揚々と、クレイオスは兄の前にケイロンを引き連れた。


「な――――!!?」

「驚かれたでしょう!? 兄上!!

 このクレイオスめが兄上の探し物を発見したのですぞ!」

「探し……物、だと……!?」

「それについては私から」

「な! プロメテウス!!? 何故そなたが!!?」

「お恥ずかしながら、公の命を果たせず困っていた所を、クレイオス様に助けられたのでございます」

「…………そういう事か?」

「そういう事です」


 コイオスは苦虫をかみ潰した様に歯ぎしりをすると、一瞬で顔を綻ばせクレイオスに向かった。


「流石は我が弟よ!

 此度の事、大儀であった!

 ゆっくりと休むが良い!!」

「有難きお言葉!

 で? 兄上、その……」

「わかっておるわかっておる!

 後で遣いを送る故、屋敷で待っておるが良い!」

「ははっ!!」


 クレイオスは喜んで屋敷へと帰っていった。

 その姿が見えなくなるのを確認すると、コイオスは「こっちに来い」と促してきた。

 連れられて来たのはコイオスの自室。

 ポセイドンの家がまるまる収まる程の広い部屋だった。

 既に人払いは済ませてあるようで、彼の他はプロメテウス、ヘパイストスとケイロンだけだった。


「まったく! 我が愚弟には呆れたものよ!

 そなたの甘言に嵌り、まんまと兵を引き上げるなどと!

 たっぷりと褒美をとらせてくれるわ!!」

(フ、ざまあ無いな)


 ひとしきり怒鳴った後、コイオスは大きく溜息を付いて目を鋭くした。


「……何を企んでいる?」

「企んでいるとは?」

「とぼけるな。

 ……賢しいそなたの事だ。

 儂に言いたい事でもあるのであろう?」


 コイオスは忌まわしげにケイロンを見た。


「やはり、彼に心当たりがあるようですね」

「……どこまで知った?」

「あの施設で、陛下の御子を、意図的につくっていた(・・・・・・)そうですね」

「…………ハア。

 知ったところで何とする?

 そなたの使命は変わらぬであろうが?」

「ええ」

「では何故戻った!?

 まさか、既に“あれ”を屠ったとでも言うのか!?」

「私の使命はこの世界の脅威を取り除く事!

 彼の者は脅威足りえません!」

「馬鹿な!! そなたが陛下に進言したのであろう!?

 “あれ”は世界を滅ぼす邪悪そのものであろうと!!」

「あなたこそ言われた! 我が妄言であると!

 その通りだった!!

 あれは私の勘違いだった!!」

「勘違い、だと!?」

「私は“彼”を暗殺する為に近づき取り入った。

 確かに恐ろしい男だった。

 しかし、実のところそれだけだった。

 ただ恐ろしいだけで、何ら我らに仇成す存在ではなかった!」

「そんなこと!

 ……そんな……馬鹿なことが……!?」

「私の方こそ、あなたに聞きたい。

 彼らはどこから生まれた?

 どうやって生み出された?

 あの、異形の者たちは……」

「………………………………」


 コイオスは押し黙った。

 その表情は混乱と狂気が入り混じっていた。


「私が答えよう」

「―――!?」

「……ケイロン?」


 不安げなヘパイストスを降ろし、ケイロンはプロメテウスに向き合った。


「1号……!」


 コイオスが恨めしそうに呟く。

 それをプロメテウスは聞き逃さなかった。


「……やはり、お前が」

「そう。

 私が被験体ナンバー1号。

 最初の、人工御子だ」

「……人工、だと?」

「“あれ”に対抗する為、研究者たちは様々な実験をした。

 私やゼウスたち兄弟は、その研究の成果として生み出された」

「おい!?」

「来たまえ、我が誕生の地へ」


 ケイロンの案内で例の施設へと連れられた。

 コイオスの書斎から隠し通路があり、そこから直で繋がっていたのである。

 通路は使われておらずススだらけだったが、抜け道として問題無かった。

 観念したのかコイオスも、黙って後に続いた。

 ケイロンは、隠された施設の最深部に先導した。


「私が生み出される遥か以前。

 ティタンには、大いなる闇が蠢いていた。

 それが、彼らだ」

「――――っう!!?」


 それは墓標だった。

 何体もの異形の屍が無造作に積み上げられた、死体の墓。


「彼らは、元は普通(・・)のティタン族だった。

 ただし、彼らにはある共通点があったのだ」

(まさか嘘だろ!? そんなこと(・・・・・)で!?)

「嘘だ!! そんな筈が無い!!」


 プロメテウスは必死に拒絶した。

 ケイロンが答える前に、思い至った自身の予測を、是が非でも否定したかった。


「嘘ではない。

 彼らは、美しく無かった(・・・・・・・)


 プロメテウスは崩れ落ちた。


「……クッ!」


 力が抜け、膝が笑う。


「原初の時、神々は地上にひとりの“王”を遣わした。

 “王”は全ての生命の超越者として、完全なる楽園を創ろうとした。

 黄金郷。覇者が治めるべき、世界の中心点。

 しかし、黄金郷に住む者全てが完全ではなかった。

 生まれつき、美しく無い者たちだ。

 “王”は大層嘆き悲しんだが、時がその悲しみを癒した。

 しかし、“王”が嘆いた事実そのものが、消えぬ悲しみとなって全ての民に刻まれた。

 民は二度と“王”を悲しませぬよう、醜き者たちを排除していった。

 それがティタンの成り立ちだ。

 そして、それは今でも連綿と続いている。

 プロメテウス。

 君も“王”に選ばれし、美しき黄金種のひとりなのだ」

「ハア……! ハア……! ハア……!」


 彼は息をするだけで精いっぱいだった。

 心臓が張り裂けそうになる。

 しかしケイロンは、死人の様な目で続けた。


「“王”が悲しみを忘れた頃、ひとりの妃を娶った。

 妃は“御子”を産み落としたが、それが“王”に知らされる事はなかった。

 それは“御子”が醜かったからではない。

 恐ろしかったからだ。

 既に醜き者の排除が、ごく一部の者があずかり知る様になっていた当時。

 その一部の者たちは、“御子”を亡き者にしようと企てた。

 しかし、“御子”への畏れから、彼らは手を出せなかった。

 そこで、醜き者たちを使った。

 はじめは“御子”を殺すよう強要した。

 あらゆる手段、あらゆる人員が投入された。

 しかし、その何れもが失敗に終わった。

 そこで彼らは、その畏れに抗える者を生み出そうとした」


 ケイロンが指差す。


「―――――ッ!?」


 プロメテウスは顔を逸らした。

 だが、見なければならない。

 己にそう言い聞かせ、恐る恐る見た。

 そこには、干からびた死体があった。

 首輪に“ニュクス”と書いてある。


「これが、彼らの母だ。

 君の見た、異形の者たちのね」

「…………ッ!!」

「彼女は優れた肉体を持つ、美しい黄金種だった。

 行き詰った彼らは、ついに“選ばれし者”にまで手を出したのだ。

 彼女は子を孕んだまま“御子”と共に暮らした。

 成長と共に増加する、“御子”の瘴気に侵されながら。

 そして生まれ出た子供たちは、畏れへの耐性を手に入れた。

 ヒトとしての姿を代償として。

 しかしそれでも、“御子”に対抗する手段足りえなかった。

 そこで――」

「もういい! もうやめてくれっ!!」


 プロメテウスは耳を塞いで叫んだ。

 ゆっくりと耳から手を放し、消え入りそうに口を開く。


「コイオス……。

 全部テメエの差し金か?」


 プロメテウスは、邪悪なものを見る様な目で睨みつけた。


「……フフ。

 フハハハハ、ハハハハハハハハハハハ」


 コイオスは壊れた様に笑った。

 プロメテウスの顔が更に険しくなる。

 「何がおかしいんだ!?」と。


「儂は、間違ってなど、おらん」

「テッメエ!!」


 プロメテウスはコイオスに殴りかかった。

 体格は優に三倍はあったが、そんなものは関係なかった。

 地面に叩きつけ、馬乗りになる。


「この外道がっ!!

 陛下の御身さえも保身の道具に使うか!!?」

「全てはティタンの為!!

 延いては陛下の御為ぞ!!

 我が命なぞ! どうでも良いわ!!」


 プロメテウスを跳ね除け、コイオスが立ち上がる。

 その目には狂気が宿っていた。


「儂は選ばれたのだ!!

 神に――!!

 陛下をお守りする代行者として――!!

 ……何も知らぬ愚か者よ!

 貴様こそ! ティタンに!

 陛下に仇成す大罪人!!」


 狂気に走るコイオスを見て、プロメテウスは普段の冷静さを取り戻していた。

 この悪党に、裁きの鉄槌を下す為に。


「それを決めるのは陛下御自身。

 アンタが奸臣か、俺が間違っているのか。

 そのご採択を仰ぐ。

 それが、選ばれしティタンの運命(さだめ)、だろ?」

「ぐぬううう……!!」


 コイオスは反論できなかった。

 ただの保身ではなく、あくまでティタンの安寧を願う狂信者であるがゆえに。


「さて、行こうか? ヘパイストス」

「う、うん……!」

「ケイロン。

 テメエには、まだ聞きたい事が山ほどある」

「ああ」


 プロメテウスは、コイオスの屋敷を後にした。

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