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第18話 「君なら楽勝だろう?」

 しばらく集落に留まる事になったプロメテウス。

 ハデス暗殺を断念した彼に最早隠し事は無く、屈託のない休暇を過ごしていた。


「デメテル、頼む」

「……ええ!」


 現在プロメテウスは、デメテルの治癒能力を検証していた。

 彼女の力で、異形化した人々を治療できると考えたのだ。


「……変化は見られんな」

「ゴメン、失敗しちゃった?」

「いや、失敗というよりは不発に終わったのか?

 ……そうか」

「え? なになに?」


 思案するプロメテウスの顔をデメテルが覗き込んでくる。


「既に変異した彼の身体は、今の状態で定着しているのだろう。

 怪我じゃないから治癒が発動しなかったとみえる」

「あ、そっかぁ~!

 先生あったまイイ~!」

「そうでもないさ。

 もっと早く気付くべきだった。

 お前に無駄な体力を使わせてしまったな?」


 すまなそうな顔をする彼に、デメテルは首をブンブンと振った。


「そんなことないわ!

 だって私も彼らには良くなってもらいたいもの!

 ……それに、先生の役に立てるなら、私――」

「よー! 大将!!

 オレ様の新技見せてやんぜええええええ!!?

 ん? どーした? ねーちゃん?」

「ななな、何でもないわよ!」


 プイッとデメテルはふてくされた。


「おう! ヒマだったら丁度イイ!

 兄弟全員でお披露目といこうぜえ!?」


 ポセイドンの一声で目覚めた能力の披露する事になった。


「じゃートップバッターはオレからいくぜい!!」


 ポセイドンが大げさにファイティングポーズを取ると、みるみる内に巨大化していった。

 最終的には十メートル程にまで大きくなった。

 古いティタン族も顔負けである。


「おお! すごい!!」


 ゼウスがパチパチと手を叩く。

 それに続いてゼウスの胡坐に座っていたヘパイストスもそれに倣う。

 実に仲の良い親子である。


「へへ! これならにーちゃんにだって負けねえぜえええ!!?」

「おいおい!?」


 ポセイドンがハデスに殴りかかる。

 しかし――。


「おう!? おおお!!? うをおおおおおおおお!!!」


 なんとハデスは巨岩の様なポセイドンの拳を受け止めると、そのまま一気に押し返した。

 反動でバランスを崩し尻もちをつくと、ポセイドンはシオシオと元の大きさに戻った。


「つーててて! やっぱつえーなあー! にーちゃんはよー!!」

「ゴメン! やり過ぎたかな?」

「ダハハ! ぜんっぜん!!」

(あいつ、ハデスの前だと強がるのな)

「はいはーい! 次は私ー!!」


 プロメテウスがポセイドンにホッコリしていると、デメテルが間髪入れずに名乗りを上げた。


「いくわよ~! それ~!!」


 デメテルが祈る様な仕草で大地を踏むと、彼女を中心に地面から花が咲きだした。


「わ~キレ~!」


 辺り一面お花畑になると、デメテルは満足げにプロメテウスを見た。


「どう?」

「いったいどういう理屈だ?

 大地に生命力を与えたにしても、種も無いのにどうやって?

 この花も見たことのない品種の様だが?」

「…………ええええ」


 ブツブツと独り言を続けるプロメテウスに、デメテルは肩を落とした。


「素敵な贈り物をありがとう! デメテル!!」

「とってもキレーだったよ!」

「……ありがとう、ゼウス、ヘパちゃん。

 優しいのね、あなた達……」

「じゃあつぎー! お母さんの見たーい!」


 ヘパイストスは甘える様にヘラを見た。


「え? 何だか恥ずかしいわ……」

「僕も見たいな」

「……あなたがそう言うのなら」


 夫に言われてやる気が出たのか、ヘラは割とノリノリで準備を始めた。


「ヘパ、来なさい」

「うん!」


 ヘパイストスの手を繋ぐと、軽やかに宙に浮いた。


「わあ! 飛んだあ!!」

「お父さん! ボク飛んでるよ!!」

「楽しそうだなぁ。

 よし! じゃあ僕も!」


 そう言うと、ゼウスの身体が輝き出し、妻子のもとまで飛んで行った。


「お父さんも飛べるんだ!?」

「僕だけじゃないよ。

 それ! みんな一緒に!」

「おおお!?」


 ゼウスが指を鳴らすとその場にいた全員が宙に浮かんだ。


「きゃ! やだちょっと! こわーい!」

「大丈夫だ、俺に掴まれ」

「……う、うん!」


 突然の事にジタバタ暴れるデメテルの腰にプロメテウスが手を回した。

 彼の腕にしがみつくデメテル。

 彼女は頬を染めながら彼を見ると、恥ずかしくて目線を逸らした。

 逸らした先に目をやると、ゼウスが親指を立ててウインクした。


「なんだ? ゼウス」

「いや、なんでもないよ~。

 それより、ホラ!」


 視線に気付いたプロメテウスをはぐらかすと、ゼウスは空に虹を映し出した。


「わあ! キレー!!」

「すっげー! おい! ゼウス!!

 なんかもっとこう! ドカンと一発無いんかよお!?」

「う~ん。

 あ! そうだ!」


 ゼウスは何か思い付いたのか、ひとり上空まで飛ぶと大きな光の玉を生み出し一気に爆発させた。


「シュッゲエエエエエエエエエ!!! ゼウス! サイコーだぜえええ!!」

「お父さんスゴーイ!!」

「見事なものだな」

「ええ、ウットリしちゃう……」


 歓声が飛び交う中、ゼウスはゆっくりと降りてきた。


「流石に疲れたよ~。

 そろそろ降りようか」


 ゼウスが言うと、ゆっくりと地面へと降りていく。


「あれ? ハデス兄さんだけ飛んでなかった?

 おかしいなぁ?

 結構強めに浮かせてたのに……」

「そうなのか?」

「うん。

 ハデス兄さんは重たいからねぇ」

(やっぱ重いのか、あいつ)


 地上に戻るとハデスが手を振って来た。


「ゴメンね、兄さん!

 てっきり兄さんも浮かしたものだと……」

「気にする事はないよ。

 俺は重たいだろうからね。

 それより、調子はどうだい?」

「大丈夫! まだまだいくらでも飛べそうだよ!」

「それは何より」


 ふたりのやり取りを眺めるプロメテウスは、まだデメテルの腰を離していなかった。


「そろそろ離れても大丈夫なんじゃないかい?」

「おお! すまん!」

「きゃあ!? 姉さん!?」

「そんな所にいたのか? ヘスティア」


 慌てて離れる二人にニヤニヤしながら声をかけたのは、プロメテウスの頭の上にいたヘスティアだった。


「いつからそこに? 小さくて気付かなかったぞ」

「あんたらがイチャついてたところからさ!

 小さいから気付かなかっただろうけどね!」


 ニッ! とヘスティアがグーサインで茶化す。


「もう! 姉さんったら!!」

「あんたってばホンット乙女だねぇ~!

 見てらんないから、哀れな妹に姉ちゃんが教えたげるよ!

 そこの男前、奥さんいるよ?」

「…………え?」


 デメテルは凍り付いた様に固まり、首だけプロメテウスの方を向いた。


「だ・か・ら、結婚してんのよぉ彼!」

「…………え?」

「で、奥さんの名前、なんだっけ?」

「……クリュメネ」


 彼が「クリュメネ」の名を言った時の声でわかった。

 少し照れくさそうな響き。

 今ここにいない悲しさと愛おしさの哀愁の色。

 乙女だからこそ、わかる。


「ごめんなさああああああああああああいいいいい!!!」


 デメテルは、全力疾走で逃げ出した。

 一面に見事な花木が咲き乱れる。


「……ひどくないか?」

「ヒドイのはアンタさ!」


 フン! とヘスティアは彼の頭から飛び降りた。


(……何故アンタまで怒るんだよ?

 茶化したのはアンタだろうに……)

「ともかく! 私、捜してきます!

 このままでは、山の地形が変わってしまいます!」


 言うとヘラはかなりのスピードで飛んで行った。


(……ありがたい。

 ここはヘラに任せておこう……)

「やーい! 泣かせてやんのー!」

「俺が悪いのか!?」

「まーまー! 落ち着こうよ。

 お腹も減ったことだし」

「お! 言われてみりゃあ腹ペコじゃねえか!

 姐さん! 飯にしようぜー!

 ねーちゃんたちもそのうち戻ってくんだろ?」

「まったく、しょうがないねぇ!

 じゃあ今度はアタシの番だね!」


 意気揚々と自身の数倍もの大きさを誇るフライパンを掲げ、ヘスティアは宙を舞った。


「オイオイ! 姐さん!?

 砂なんかすくい上げてどーしたよ!?

 砂遊びじゃ腹ァ膨れねーぞ!?」

「まあ! 見てなって!!」


 ヘスティアが砂を炒めていると、見る見るうちに食べ物に変化していく。


「な! なんだーこりゃ!!」

「これがアタシの目覚めた力! どんなもんでも食いモンに変えちまう能力さ!」


 ヘスティアは誇らしげに「どうだい?」と、胸を張った。


「スゲーうめえ!

 ん? 姐さん食わねーのか?」

「…………食うよ!!」


 無神経なポセイドンの態度に心が折れかけるも、諦めきれないのかプロメテウスをチラ見した。


「いったいどういう理屈だ?

 物質を変換するにしても限度があるだろう?

 いや、だが、待てよ?」

「…………食うもん!」


 これまた無神経なプロメテウスの態度に、ヘスティアは半べそでヤケ食いし始めた。


「凄い能力だよ! ヘスティア!

 これで作物が採れない時でも皆お腹いっぱいだよ!

 それと、いつも美味しいご飯をありがとうね!」

「すっごくおいしーよ!」

「ゼウス……ヘー坊……アンタたち……!」

「ん? 帰ってきたみたいだね」


 ハデスがヘラの姿を見つけたようだったが、プロメテウスには見えなかった。


(相変わらず、どこまで優れた視力をしてるんだ?

 いや、視力とは限らんかも知れん。

 こいつには、まだ秘めたる能力がありそうだな)


 などと考えていると、ヘラとデメテルが戻って来た。

 ただどういう訳か、慌てた様子だった。


「おかえり、ヘラ、デメテル」

「ええ、あなた……」

「ん? なにかあったのかい?」

「……麓に人がいるの。それも大勢の……!」

「……まさか!?」

「どうした? プロメテウス」

「すまん! 俺のせいかも知れん!」

「どういう事だい?」

「俺がティタンの人間というのは話したよな?」

「ああ。ちゃんと覚えているよ」


 ハデスに暗殺計画がバレた後、プロメテウスは自分の素性を全員に話していた。

 彼らは全員快く受け入れてくれた訳だが。


「どうやら連中。

 俺が一向に連絡をよこさんと見て、シビレを切らしたらしい!

 俺とした事が迂闊だった! すまん!!」

「いや、君が悪い訳じゃないだろう?」

「だが……!」


 頭を下げるプロメテウスに、ゼウスは優しく微笑みかけた。


「もう君は僕たちの家族だ!

 家族の失敗はみんなでフォローする!

 そうだろ? みんな!!」

「ゼウス……!」

「ヘッ! んなアタボーなことイチイチ聞くなっつーの! 恥ずいだろお!?」

「ポセイドン……!」

「ようやく、あなたを助けられるのですね。

 あなたは抜け目が無いので、半ば諦めていたのですよ?」

「ヘラ……!」

「疲れたら言ってね! 先生!」

「デメテル……!」

「腹ア減っちゃあ戦はできねえ! 飯ィ食ってからにしな!!」

「ヘスティア……!」

「ボクも手伝うよ!」

「ヒヒーン!」

「ヘパイストス……! ケイロンまで……!」

「君なら楽勝だろう? 食後の運動にはうってつけさ」

「ハデス……!

 ……みんな! ありがとう!!」

(こいつらと一緒なら、何も怖くない!

 こいつらの居場所は! 俺が守る――!!)

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