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第17話 「俺を、殺すかい?」

 ついにハデスの瘴気と恐怖の体質を解決したプロメテウス。

 彼は嬉しくて嬉しくて堪らなかった。


「行くぞ!」

「どこに?」

「決まってるだろ? 兄弟の所にさ!」


 ハデスの手を取り、急ぎ集落を目指し走り出した。


「はは! こんな風に手を取り合えるとは思わなかったぞ!

 お前、身長は俺と大差無かったんだな!」

「気付かなかったのか? 君ともあろう者が」

「ああ気付かなかったさ! 俺ともあろう者がな!」

(そんな余裕は無かった。

 お前と向き合うのに必死でな。

 お前という存在の大きさが、俺の目を曇らせていたんだ)

「とにかくめでたい!

 もう独りで引き籠らんで済むぞ!

 これからは兄弟一緒に暮らすんだ!」

「……一緒に」

「何だ? 不安なのか?」

「私という存在が変わった訳ではない。

 受け入れて貰えるだろうか?」

「ハ! そんな怖い顔で何言ってやがる!?

 あいつら、テメエの兄弟だぞ?

 見くびるなよ? おにーちゃんよお!?」

「……そうか?」

「そうだ!!」


 いつにないハイテンションで山を下り、集落に到着したプロメテウス。

 しかしいつもと違うのは、彼らだけではなかった。


「おい! どうした!?」


 デメテルが倒れていた。

 ハデスが抱き起そうとする。


「待て! 触るな!

 ……原因がわかるまでは動かさん方がいい。

 息はあるな……。

 やや熱っぽく、息が荒い」

「プロメテウス。

 彼女の下を見てみろ」

「―――ッ!?」


 デメテルのいる地面を中心に、青々と草花が生い茂っていた。


(なんだ? この、急に咲いたとしか思えないものは!?

 ……まさか!)

「ハデス! 以前、お前の記録で彼女たちは、お前に対抗する為に生み出されたと言っていたな?」

「如何にも」

「お前への恐怖に対して影響を受けないとしても、お前の“力”に対してどう対抗する?」

「特殊能力か」

「……おそらくそれが、ティタンの連中が思い至ったお前に対する切り札だったんだ。

 だが何故今になって……」

「おそらく、私が原因だろう」

「エネルギーの効率化か!」

「今の私は効率化したエネルギーを完全に制御している。

 しかし、その過程で僅かな時間、私の肉体は最大限にまで活性化した」

(……あの時、こいつに対する恐怖が蘇ったのはそのせいか)

「おそらくそれが引き金となり、彼等の能力が発現したのだろう」

「……目覚めた、ということか」

「ん…………?」

「デメテル!」


 デメテルが目を覚ました。

 特に問題はなさそうだが――。


「光ってる!?

 光ってるぞ!?」

「なに? うそ!? やだ!? ちょっと!?

 ナニコレー!!」


 デメテルの身体が光り輝いていた。

 その光に呼応して、地面から草木が生えていく。


「落ち着いて」

「ハデス……?」

「落ち着いて、落ち着いて、息を整えてごらん」

「フーフーフー」

「落ち着いたなら、利き手に意識を集中して」

「こう?」

「その調子だ。

 プロメテウス、こちらに」

「お、おう!」

「義手を外してデメテルに」

「こうか?」


 ハデスに言われるまま、彼は義手を外してデメテルに差し出した。


「彼の手に、意識を注ぎ込むイメージで」

「えっと……えい!」

「な……に?

 …………手が? 生……えた?」

「上手くいったようだ」

「え? え? え?」


 困惑するデメテルは、自分が何をしたのかがわからない様だった。


「彼女には癒しの力が備わっていた様だ。

 以前からそれは片鱗となって観測できたが、私の活性化に伴い覚醒したのだろう」

(成る程な……)

「あ! ハデス……兄さん、なの?」

「ああ、私だ」

「ハデス兄さん! あれ? なんだか白くなった?」

「確かに肌の色素に変化が確認できる。

 しかし、もっと重要な事に気が付かないか?」

「え? ……あ! 苦しくない!?」


 デメテルに気を取られていると、後ろから光が差してきた。

 眩いばかりの光が溢れる。

 その中心には――。


「ゼウス――」



 ゼウスは光を纏って真っ直ぐハデスに駆け寄った。


「兄さん――!」


 ゼウスは全てを理解しているのか、落ち着いた様子だった。


「もう、大丈夫なんだね? 兄さん」

「彼のお陰だ」

「君が兄さんを!?

 ありがとう! プロメテウス!!

 ああ! 今日は何て良い日なんだろう! 他の皆は!?」

「急ごう! 目覚めているかも知れない!」


 プロメテウス達は手分けして他の兄弟たちを見つけ、介抱した。

 幸い、全員無事だった。

 ポセイドンに至っては、発見時からスヤスヤ眠っており、気付いたら覚醒していた様だった。


(フ。つくづく、あいつらしい)


 その日、盛大な宴が催された。

 といっても、身内だけの質素なものではあったが、それでも大いに盛り上がった。

 今回プロメテウスは最大の立役者として皆からもてなされた。


「プロメテウス! 何とお礼を言ったらいいか!」

「なに、俺は大した事はしていない。

 お前たちと、ハデスの頑張りだ」

(そう、俺は結局の所、何もしちゃいない。

 こいつら全員が互いを思いやり、諦めなかったからこその今がある)

「おうよ! 大将!

 ついでにもうひとつ、おまけがあっただろぉ~!」

「ああ、あの事か。

 皆聞いてくれ!

 ヘパイストス! こっちに!」


 呼ばれてヘパイストスはトコトコと寄ってきた。


「これを見てくれ!

 これは、このヘパイストスが作った義手だ!

 これを応用すれば、異形化した兄弟の不自由を補えるかも知れない!

 どうだろう? この世紀の大発明を使ってみないか?

 性能は俺が保証する!」


 異形化したひとりが近づいてきた。

 片腕が足りない個体だった。


「丁度これが使えそうだな……よし!

 ちょっと痛むぞ?」


 義手をはめ込むと、カチャカチャと動かし始めた。


「これを持ってみろ」


 プロメテウスの差し出したのは、林檎だった。

 何度か失敗したが、義手で林檎を掴み、そしてかぶりついた。


「よっ―――!」

「うをおおおおおおおおおおお!!!」


 プロメテウスが言う前に、ポセイドンが咆哮した。


「やったぜ! なあ!? 兄弟!!」

「ああ……! ああ!!」


 バシバシと、痛いぐらいに叩かれつつも、プロメテウスは満ち足りていた。

 痛みがそのまま嬉しさに変わる。


「よし! 今から全員分の義手を作るぞ!!

 それまで祝宴はお預けだ!!」

「おっしゃあああああああああああ!!

 また宴ができるぜえええ!!!」

「流石はポー兄。

 良いこと言うねぇ!

 僕にも作り方を教えてよ、ヘパ!」

「うん! 一緒に作ろ! お父さん!」


 義手の製造は次の日の昼食まで夜通し続けられた。

 その数総勢13名分。

 流石の彼等も疲れ果てていたが、作り方を覚えたハデスが残り半分をひとりで作ってしまった。


(……本当にこいつのスペックは計り知れない。

 それも、所々に改良が見られる。

 これは……ヘパイストスに見せん方がいいな)


 そしてその夜。

 改めて宴が催された。

 異形化した人たちは全員義手義足をはめている。


「お疲れ様」

「ああ。

 ……ハデス、お前……その口調……」

「ゼウスの口調を真似てみたんだ。

 みんなゼウスが大好きだからね。

 僕には似合わないかな?」

「プハッ! その顔で僕はないだろ!!」


 プロメテウスは必死に笑いを堪えた。


「お前、相変わらず顔は怖いんだから少しは自覚しろよな!」

「そうか、じゃあ何がいいかな?」

「だから自分の好きにしろよ。

 いつも言ってるだろ?」

「なら、俺で」

「いいんじゃないか?」

(まあ、本当は私口調が一番しっくりくるが、それだといつまでも緊張するからな。

 それぐらい砕けた喋り方のほうが打ち解けるだろう)

「プロメテウス。

 ちょっといいかい?」

「何だ? 改まって」


 ハデスに促され、人気の無い所へと移動した。

 例の火口付近である。


「で? 何の内緒話だ?」

「君は、俺を殺しに来たんだよね?」

「―――――ッ!!?

 ……気付いていたのか」

「察しはついていたよ。

 君はティタンの一員で、俺を暗殺する為に派遣されたのだと」

「…………」

「俺を、殺すかい?」

「……いや、殺さない」

「ふうん、何故?」

「俺はお前が、世界を脅かす邪悪な存在だと思っていた。

 だが、それは間違っていた。

 実際に会ったお前は、高い知性を備えた、理性ある人間だった。

 確かに未だお前は世界に対し脅威である事に変わりはないのだろう……。

 だがそれは、お前がその力を振るい、世界を滅ぼさんとする意志があればの話しだ。

 だから、今こそ確認したい。

 ハデス!

 お前に、この世界を滅ぼす意志はあるか!?」


 プロメテウスは確信を持って問うた。

 絶対に、ハデスにそんな意志は無いと。

 しかし、闇夜に染まる彼の顔はやはり不気味に映っていた。

 油断すれば、その恐ろし気な視線に目を背けたくなってしまう。


「俺に世界をどうこうするつもりは無いよ」

「そうか……!」


 彼は心底ほっとした。

 その答えを信じていた筈だが、大きく溜息をついた。


「なら、俺がお前を殺す理由は無い」

「いいの? 君にも立場があるだろう?」

「俺に汚れ仕事を押し付けて踏ん反り返ってる奴らなんぞ知ったことか!

 そんなものは気にしなくていい。

 なに、お前たちはここで平和に暮らせばいいだけだ。

 何もやましい事などない」

「……そうか」

「そうだ!

 これで俺もお役御免というやつだ」

「帰るのかい?」

「……そうだなぁ。

 ………………。

 帰るのもいいが、別に急ぐ訳でもない。

 しばらく厄介になりたいのだが、いいか?」

「勿論、大歓迎だよ。

 さあ戻ろう。皆の所に――」

「フ、待てよ!」


 ハデスを追う、プロメテウス。

 その足取りは軽く、肩の荷も下りた様だった。


(……これでようやく俺の使命は終わった。

 いや、まだ残ってるか。

 コイオスの説得……面倒くさいが、なあに何とかなるだろ。

 何たって俺は、こいつ(・・・)を変えちまった男だぞ?

 コイオス如き小物、どうってことは無い。

 待っててくれ、クリュ、アトラス。

 いい土産話ができそうだ――)

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