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音楽戦隊ソウルジャー  作者: 影林月菜
第二曲 リーダーの自覚とエースとは何か
9/71

第一楽章 銀河 鈴星学園高等部中庭にて

 宇宙侵略組織・アルマイナが学校襲撃したあの事件。校長先生の言葉通り、巨大な穴が開けられた第二グラウンドは言うまでもなく使用禁止どころか立ち入りも禁止となった。普段ラグビー部や陸上部などがこの場所を使用していたが、使用禁止になった今ラグビー部と陸上部は近辺にある運動公園で部活動を行っているという情報を耳にした。

 またあの事件以来、全校生徒がいつもより大騒ぎになっていた。音楽戦隊ソウルジャーが現れ、謎の組織・アルマイナを駆逐したという噂が瞬く間に広まった。だが、俺等の家族、青原(あおばら)兄弟と幼馴染である影入(かげいり)姉妹以外の他の生徒は俺等の正体を知らない。何故なら俺等こそ音楽戦隊ソウルジャーなのだから。

 事件が経った翌日の昼休み。俺と親戚関係にあたる宇宙(そら)と幼馴染の月夜(つきや)は中庭で昼食を摂っていた。

 「それにしてもびっくりやわ~。昨日の事件でソウルジャーが記事になるなんてな~」

 月夜が感心しながら箸で胡瓜(きゅうり)の漬物を取った。

 「月夜、その発言はこれで十回目です。一体今日だけで何回言うつもりなのですか」

 宇宙は無表情のまま呆れていた。

 「おい、お前数えてたのかよ!」

 思わず宇宙に突っ込んでしまった。確かに月夜は今日だけで何回もそのような言葉を口にしている。

 そんなことより俺はあの日アルマイナの最高幹部であるフィーネントが口にした言葉について考えているばかりであった。


 『だが次はそうはいかんぞ。覚えておくがいい!!』


 このまま何事も無ければいいが、もしかしたらまた襲って来るかもしれない。その時はまた俺らが変身して戦うしかないと思えば、最悪の場合複雑な感情ばかりが俺の心に浸透するかもしれない。

 「ギン。あの事件以来考えたのですが、あの戦いがすべて片付くまでに僕らの正体を他の生徒達に隠し通そうと思うのですが…」

 片手に野菜ジュースを持った宇宙が小声で突然の思い付きを口にした。

 「確かに。知られたら生徒指導されそうやし、下手したら退学とか有り得るからな。そうしようや、ギン」

 月夜も宇宙の意見に賛同した。

 「…そうだな。そのことは彼方(かなた)(ひかり)、セイちゃんに後で伝えるか」






 「ハーイ!話題の情報をこの手で掴め!皆にも私にも教えて!新聞部のお出ましだー!」

 俺らの背後から可愛らしい女の声がした。慌てて振り向くと、身長は月夜よりやや低めのポニーテールがよく似合う女子生徒が仁王立ちしていた。彼女に驚かされた月夜はいかにも『またこいつだ』というような顔をしてしかめていた。

 「これはこれは、新聞部に所属し次期部長に昇任するであろうと一部で噂されている高等部一年D組出席番号三十五番の類田(るいだ)麻依(まい)さん。僕らに何かご用ですか?」

 宇宙は俺らとは違い平然として彼女の紹介を流暢に言った。

 「へへっ、三人は昨日の事件のことは知ってるでしょ?何か変な組織のアル何とかって奴がいきなり襲って来て、それを蹴散らした音楽戦隊ソウルジャーが有名になっちゃったってやつ!」

 思った通り、こいつがいたら毎回厄介なことになるのがもはやお決まりのようだ。

 宇宙の言う通り、類田麻依は高等部新聞部の一員で後に部長になるであろうと一部の生徒の間で噂されている。彼女は生徒が握っているあらゆる情報を聞き出そうとする迷惑な人物だ。聞きたい人をターゲットにして現れるのだが、神出鬼没で何時(いつ)何処(どこ)に現れるかは予測不能である。

 「要するにその情報を生徒全員に聞き出して真相を記事にするんやな?」

 月夜が溜め息をつきながら解釈をした。

 「そう、そのとーり!流石浪花(なにわ)のイケメン女子のムーンちゃん!というわけで、貴方方にも情報に協力させて頂きます!」

 類田が持っているボールペンを月夜に指し、中庭に響くような大声を出した。

 この展開はまずいことになったな…。真相を漏らせば俺らがソウルジャーだってことがばれてしまう!ここは誤魔化せるように早く手を打たなければ…。

 「まず、この質問かな…。貴方達は音楽戦隊ソウルジャーの正体は誰だか知ってますか?」

 ド直球来たーーーーーーーーーーーーー!

 「大変申し訳ございませんが、僕はそのような情報は全く存じません」

 宇宙はここでも顔色を変えず平然として応答した。

 「え~…、あの時他の生徒がいなかったか確認してたみたいだから、副会長なら絶対真実知ってると思ったのに~…」

 類田はがっくりして持っていたボールペンと小さなメモ帳をうっかり落としてしまった。

 「類田さん、いくらこの僕でも全てを知っているわけではありませんので…」

 宇宙が類田が落とした所持品を拾い上げた。

 「そんなぁ~…。ムーンちゃんは!?あの時の被害者だったし、何か知ってるでしょ!?ほらソウルジャーの正体とか!!」

 所持品を受け取った類田はすかさずと月夜に尋ねた。

 「えっ…せっ、せやなぁ~…。ウチが言えることは…確か宇宙侵略組織アルマイナが女神の暗殺のためにここに現れたということと、地球を制圧するために侵略を企てるってことぐらい…やな…」

 突然の質問に突き付けられた月夜はしどろもどろになりながらも答えを導き出した。

 「ちょっとぉ!!これじゃあ他の生徒の答えとほぼ一緒じゃん!ムーンちゃんは被害者なんだから他の情報を知ってるでしょ!?本当にソウルジャーの正体を知らないわけ!?」

 他の生徒の目撃情報がほぼ同じであることに呆れた類田は、ご立腹で「このまま引き下がらないわけにはいかない!」と思わせるような意志を見せつけた。

 「し…知らんわ!!ソウルジャーの正体知りたくてもウチはフィーネントに捕まってからずっと気絶したまんまやったんや!」

 「ホントに?」

 「ホンマやて!これまでウチが嘘言ったことあるか?」

 本当のことを言えば月夜は俺等の正体を知る第一目撃者である。あの時の月夜は気絶したわけではなく、拘束されていたフィーネントから解放されようともがいてばかりいた。その事実を話せば公にも伝わるであろう。

 「…そっ、そうね。初めて会ってからムーンちゃんが騙すような人ではないわね。本当にごめんなさい」

 類田の興奮が収まり、気が動転したのか頭を深々と下げた。

 「けっ、全く人を疑うなんていい迷惑だぜ」

 俺がぼそっと呟くと、類田の鋭い視線は俺の方に突然向けられた。

 「そんなことよく言えるわねギンちゃん。そう言えばあんたもあの時体育館にいなかったわね。どうしてたか教えなさいよ!」

 「んなこと何だっていいだろ!!大体俺はソウルジャーのことしt」

 言いかけたその直後、俺の左肩に宇宙の手が置いてあることに気付いた。振り向くと宇宙だけでなく傍に立っている月夜の姿もあり、二人は恐ろしい顔をして俺を睨みつけていた。

 「ギン、情報は正確にお願いします」

 宇宙の低い声が俺の耳に入った。この恐怖感を漂わせる空気を俺は察することが出来た。宇宙は周りからどう聞いても違和感の無い発言をしているが、実際は「真実を告げたら殺す」と言うような目で訴えていた。

 うっ…何てこった!何で俺までこんな目に遭わなければならねーんだ…。

 「ギンちゃん、何か知ってるの?」

 この空気の状況を(恐らく)読み取れない類田はさりげなく再び俺に問いかけた。

 「い…いや~、俺も実は知らねーんだよ~…。けど、あの事件から俺はソウルジャーの虜になっちまってな~…」

 一応俺なりに空惚けたものの、月夜と宇宙からの視線は痛く感じた。恐らく二人は『どういう誤魔化し方してんだよ』と内心思っているであろう。

 「そうなの!?じゃあ何か教えてよ!!何でもいいから!!」

 「え」

 ここで類田が食いつくとは俺には予想もしていなかった。二人に助けを求めるよう視線を送ったが、どちらも責任をとれと言うような状況であったので、仕方なくお決まりのポーズを披露することにした。

 「え…えーっと…じゃあこれはどうだ!?『情熱のハーモニー!ソウルレッド!』」

 周りはしーんとしてしまった。そしてまた二人の視線が痛く感じる。

 「すっ、すごいよ!ソウルレッドの決めポーズを早くも覚えるなんて!ギンちゃん完璧!よし、これを記事にしよう!それじゃまたねー」

 突然上機嫌になった類田は『これは特ダネになりそうだー!』と叫びながらスキップして校内へと去ってしまった。

 「麻依はん…あんなんでええんやろうか…」

 白けた顔をした月夜は類田の背を見てぼそっと突っ込んだ。

 「まあ、彼女が納得すればよしとなるのではないのでしょうか」

 宇宙も同じく冷静に呟いた。

 「まあとにかく、これにて一件落着でいいんじゃねーのか?そろそろ昼休みも終わるし教室戻ろーぜ」

 俺がこの話を締めた途端、月夜が俺の背に手を当て呟いた。

 「ギン…ホンマにアホやなぁ…」

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