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音楽戦隊ソウルジャー  作者: 影林月菜
第一曲 選ばれた少年少女
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第四楽章 ??? 鈴星学園中等部三階廊下にて

 僕は職員室までひたすら走る。生徒会の資料や所属しているサッカー部のユニフォームやスパイクなどが入ったバッグを抱えながら。

 早く用事を済ませないと部活が終わってしまう…。

 「すみませーん、資料落ちましたー」

 振り向くと、大事な生徒会の資料の一枚が高等部の男子生徒の手に渡っていた。どうやら急いでいる時に落としてしまったらしい。僕は慌てて資料を確認し始めた。何枚もめくってみると、男子の言う通り一枚足りないことに気が付いた。こんな急いでいる中、男子の元へ駆け寄った。

 「はい、気をつけてね」

 資料を受け取った後、僕は一言も答えず会釈だけして立ち去ろうとした。

 「あぁ、ちょっと君」

 再び男子に呼び止められ振り向く。苦の表情を見せず、ただ何の変哲も無い無表情でその人の目を見た。

 「君、どっかで見たことがあると思ったら副会長の弟だったのか!相変わらず似てんなぁ~」

 またこれですか。これは悪魔で噂だが、僕の兄はかつて初等部・中等部時代に鈴星学園ここの革命を起こしたとして有名となっている。弟である僕の存在を知った兄の同級生は、『(生徒あるいは副)会長の弟』として兄のおまけのような扱いにされる始末である。

 正直のところ、僕はこの扱いように関しては特に何も感じないが、おまけ扱いされているせいか徐々に呆れている。そのため、眉間にしわを寄せ迂闊(うかつ)な表情を男子に見せつけた。

 「…!悪い悪い、そんな扱いは御免ってか。確か生徒会の一員だったよな?頑張れよ」

 気が動転したのか男子はすぐにその場を立ち去った。

 …僕が生徒会の一員なんて一体どこで聞いたのでしょうか。

 彼の言う通り、これでも僕はここの中等部の生徒会の一員であり会計を担当している。かなりの頭脳明晰で有名な兄とは違い、こんなそそっかしく無口な僕が生徒会にいるのには訳があった。

 簡潔に述べると僕は兄を尊敬し、同じ立場にいたい。ただそれだけである。私生活での兄は何でも出来る出来杉君並のイニシアチブを持っており、学校生活でもそれを生かして学校をよりよく変えてきた。

 …僕も兄のようになりたい。今はそのことばかり考えているのかもしれません。

 「…ちゃーん、セイちゃーん!!何そこでつっ立ってんだよ!早くしねーと部活に間に合わなくなっちまうぞ!」

 …しまった!こんなことをしている場合ではありませんでした!早く部活に行かなければ…!

 同級生で同じ生徒会書記の男子に声を掛けられたお陰で、僕は再び職員室へと駆けて行った。

 「おい待てよ、随分と重そうだから半分持ってやるよ」

 そう言って彼は抱えていた資料の半分をさっと僕の手から奪った。

 これ、元々僕の仕事でしたのに…。

 「そんな顔すんなって!困った時はお互い様だろ?」

 確かに彼の言っていることは妥当ですが…。まぁ仕方がございません。部活と生徒会という二足の草鞋(わらじ)を履いていることもあり、急いでいるからこそ要領を軽くしなければなりませんものね。












 あのギャップがある少年…、面白そうだな。

 強い音楽の源を感じるし、宇宙を救ってくれそうだ。












 …?何でしょうか?空耳でしょうか…?音楽の源ってどういう事ですか?

 「どうしたセイちゃん、急に立ち止まったりして」

 彼の言葉に気が付いた僕は慌てて首を横に振り、再び職員室へと走っていった。

 だがうっかり右足がもつれてしまい、バランスを崩してしまった。それと同時にどこからかは定かではないが、突然僕を襲って来たのは睡魔だった。僕はその場に倒れ込み意識を失った。











 気が付くと、僕は見覚えの無い真っ白な空間にいた。

 ここは…何処(どこ)なのでしょうか…?

 立ち上がって辺りを見回した。が、先程までいた中等部の内玄関前やその周辺の物など何も無い。一体何が起きているのか、予測不能だった。

 「やあやあ、やっと君に出会えたことが嬉しいことだ!」

 背後から聞き覚えの無い男性の声がした。振り向くと、眼鏡をかけた男性の姿が目に映った。

 この男性はどなたなのかはすぐに把握しましたが、まさか…そんなことが本当に…

 「私はフランツ・ペーター・シューベルト。君の様な音楽の愛する心と才能を持つ人に会うのを待っていたのさ!」

 シューベルトと名乗る男性は喜びを(あらわ)にし、ぐっと僕を抱きしめた。混乱していて抱きしめられているという感触が伝わっているのかそれすらも分からない。

 そもそもシューベルトは188年前にいなくなったはずなのに…。

 「おっと失礼、才能ある君に重大な依頼があることを忘れるところだった」

 重大な依頼とは…もしや空耳で聞こえた『宇宙を救ってくれそう』という言葉と何か関係があるのでは…?

 「私はこの世を去る数ヶ月前、『未来では音楽が滅亡する世界が訪れるでしょう。それを阻止するには、貴方の意思で2016年にいる音楽の愛と才能を持つ人を捜し、共に戦って下さい』という神様のお告げがあってですな、私の意思でこの時代に来てみたら君に出会えたのです」

 それで僕が…。

 「君なら宇宙を救ってくれることを信じている!勿論共に戦って頂けますよね?」

 「それはっ…!!」

 僕は慌てて口を押えた。

 「?どうしたのかね?」

 シューベルトが僕の顔を覗き込む。僕は何事も無かったかの様に顔を横に振ったが、彼を誤魔化すことは無理だった。

 「もしかして、自分の声が気にしているのかね?」

 まさに図星、僕は黙るしか出来なかった。するとシューベルトは僕の手をそっと口から引き離した。

 「実は私も小さい頃に通っていた学校に礼拝堂のコーラス隊の養成の特別教室に所属していたが、声変わりのせいでやむを得ず十七で辞めてしまったんだ。あの時はとても悔しかった。けどそれは新たな道を踏み出す第一歩、人には誰でも困難に立ち向かわなくてはならないことが沢山あると思うが、それを乗り越えた分だけ自身の成長が見えてくるものなのだ」

 確かに彼が言う言葉は正論ですが…。

 「そんなに気にすることは無い。君の声は素敵だと思う。いつかは皆も認めてくれる。そう信じて共に戦って行こう!」

 ずっと悩み続けていたコンプレックスを尊敬している偉人の言葉に救われたことが嬉しかった。例えそれが夢だとしても。

 「おっと、そろそろ別れの時か。最大の困難にぶつかってしまったらまた私を呼ぶがよい!」

 シューベルトは僕の手を離し、後退りをしながら消えていった。













 ……………………。












 「セイちゃん!?おい大丈夫か?こんな所で寝てたら日が暮れちまうぞ!」

 気が付くと、僕はさっきの衝撃のせいか完全に寝落ちしていた様だ。手に持っていた資料もバラバラになっていたかと思いきや、生徒会書記の彼によってすでに回収されていた。中にも資料が入っており、バッグがクッション代わりとなったお陰で一部がくしゃくしゃになっていた。僕がバッグを抱えながら起き上がろうとした時だった。腹とバッグの間からカランと落ちた音がした。そこでしゃがんでみると、長さは大体五十センチの(つるぎ)のような物と緑の色をした鈴のような小さな物体が二つ。












 何故こんなものが落ちているのでしょうか?と言うより、いつからあったのでしょう?












 「セイちゃん!全くお前って奴は…。ほれ、資料はこれで全部だぞ」

 その声に反応した僕は、慌てて奇妙な物体を無理矢理バッグに詰め込んだ。他の人に見られてしまっては、僕が玩具を持ち込んだと疑われてしまうと思ったからだ。

 何事も無かったかのように彼の方へ振り向き、ばら撒いてしまった資料全てを受け取った。

 「?何かあったのか?」

 変な物は決して持ち込んでなどいません!

 このことは誰にも知られたくない。と僕は勢いよく首を横に振った。焦る表情を隠して無表情を彼に見せ付けて。

 「そうか。まぁ、とりあえず心配させんなよ」

 彼はそう言って僕の右肩に手を乗せた。軽く頷くと手元にあった残りの資料を拾い上げ、再び職員室の方へ急いだ。

 …けどさっきの玩具といい、何が起きているのでしょうか?

 無口だが決して喋られないわけではない。そんな僕、鈴星学園中等部生徒会会計の一年生・青原(あおばら)(せい)は今日も慌ただしい日常を過ごす。

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