第八楽章 彼方改めソウルイエロー 鈴星学園高等部中庭にて
音楽戦隊ソウルジャーとして変身した俺らは、高等部の中庭へと急行した。近くにある茂に着いた時には今朝とは違い、変わり果ててしまった中庭の光景と、そこで暴れ回っていたドルチャーヌの姿が見られた。中庭の中央に聳え立つ一本の木は真っ二つに折れており、花壇の花やベンチも何もかもがめちゃくちゃになっていた。
「なんて酷いことを…」
その背景にショックを隠せないソウルピンク(輝)が唖然としていた。
「そんなことに気を取れれないで下さい!早く行きますよ!」
ソウルグリーン(セイちゃん)がピンクに一喝した後、隠れていたその場から離脱した。
グリーンに続いて俺、ソウルレッド(兄貴)、ソウルブルー(宇宙)、そしてピンクもドルチャーヌの前に現れた。
「またお前達かぁ!!」
ドルチャーヌが叫ぶと、レッドを筆頭にお決まりの台詞と決めポーズを披露した。
「情熱のハーモニー!ソウルレッド!!」
「シビれるメロディー!ソウルイエロー!!」
「華やかなリズム!ソウルピンク!!」
「麗しのアンサンブル!ソウルブルー!!」
「豊かなセッション!ソウルグリーン!!」
「「「「「奏でよ!!我らの音楽魂!!音楽戦隊ソウルジャー!!」」」」」
「小癪な!全員まとめて地獄へと叩き落としてやる!」
興奮状態のドルチャーヌは沢山の下衆を呼び出し、俺等にかかろうとした。
「行くぜお前ら!ステージ・オン!」
レッドの掛け声で一斉に駆逐し始めた。
戦士達はソウルタクトで切り倒したり、ビームで光線を放ったりして幾多のマイナリーを倒していく。気が付けば残る敵はドルチャーヌただ一人だけだった。
「おのれソウルジャー!だが、俺様を簡単に倒せるとでも思ったのか?」
ドルチャーヌは余裕な表情で笑みを浮かべていた。
「意地でもお前を倒してみせるぜ!」
レッドが宣言したその時だった。高等部の窓から見ているのは幾多の生徒と一部の先生方の姿であった。それだけではなく、校内からも生徒達が窓越しでこちらを見ている。
「…?何これ…すごく怖い…」
ピンクが思わず身震いをした。
周りを見ると、皆の目が虚になっていてどこか心なしの表情をしていた。そして暗く不気味な声でその言葉を繰り返していた。
「黒野彼方は薄情者…黒野彼方は薄情者…」
生徒全員が俺に恨みがあるかのように、何度もその言葉をコールしていた。
「ど…どうなってんだよこれ…」
「落ち着いて下さい、イエロー。僕の推理が正しければ、皆さんは恐らくドルチャーヌに洗脳されているだけであると思います。中等部の生徒全員が知っているとしても、初等部と高等部の生徒はあなたのことを知らない人が多いはずです!惑わされないで下さい!」
ブルーが周囲を警戒しながら発言した。
確かにその通りだ。ここの生徒や先生全員が俺のことを知ってるわけではない。だが何故あいつは、ここまでして俺のことを憎んでいる?それってただの奴当たりをしているもんじゃねーのか?落ち着けソウルイエロー。もう一度よく考えてみるんだ…!
ドルチャーヌは江本の悩みのせいで…………!!そうか!そういうことか!
薄情者コールが聞こえる中、俺は一人数歩前へ出てドルチャーヌに向き合った。
「何だソウルイエロー、もうお終いか?」
ドルチャ-ヌが嘲笑っているのには目もくれず、大きく一息ついて語りかけた。
「よく聞け!江本邦紀!」
「無駄だ!どう叫んでも江本には届かぬわ!」
「お前は黙れ!ドルチャーヌ!用があるのは江本だけだ!」
また一息ついて話を続けた。
「江本!あの時お前の気持ちに気付けなくて悪かった!『許してくれ』とは言わなくていい!だがこれだけは分かってくれ!この前の練習試合でわざと外したのは、お前の左膝が故障していると知ったからだ!」
また一息付けながら俺は続けた。
「お前は確か…左利きだったな!サッカーは足が何よりも一番大切なのはお前だって知ってるだろ!?例えほぼ完治していてもその足じゃ悪化するだけだと俺はそう考えた!だからそうしたんだ!自分の体調管理が出来ないお前は、エース失格だぁぁぁ!」
息を殺すまでしてここまで思いをぶつけたのは初めてだった。これでよかったんだ…。例えこの思いが届かなかったとしても、悔いはない。
「ぐあああああああ…!」
ドルチャーヌが呻き声を上げている。どうやら俺の思いは届いたようだ。
次の瞬間、ドルチャーヌは突然緑の光に包まれたと思いきや、しばらくするとドルチャーヌの服装を纏っており、ハロウィンでよく見かける大きな蒲を持つ死神の様な仮面をした何者かと、江本本人の姿に分裂した。
「おい!何だあれは!」
レッドが幽霊(仮)を指すと、どこからともなく女神様の声が聞こえた。
「それはアルマイナの部下の魂です。ソウルイエロー、これで止めを刺すのです!」
俺の目の前に現れたのは、小さな黄色い光であった。やがてそれは今使っている物とは違って、Ⅱ-Ⅲと書かれた橙色のソウルベルであった。
「これ…もしかしてイエローの新しい力ですか!?」
戦士全員がこれに注目する中、グリーンは女神様に尋ねた。
「その通り。これはソウルイエローのみが使用出来る武器・ソウルトランペットです」
「なんかかっけー!よし、これでいっちょ使ってみるか!」
新たな武器を手にした俺は、ソウルタクトの底に新たなソウルベルを差し込んだ。嵌めた瞬間、ソウルタクトは形を変えていき、やがて黄色のトランペットになった。
「悩んでいる人の心を利用するなんて…絶対に許さねぇ!」
そのトランペットで吹いた途端、レファラの三和音が高らかに鳴り響き、黄色に光る稲妻がドルチャーヌに襲い掛かった。
稲妻を浴びたドルチャーヌは呻き声を上げて消滅した。ドルチャーヌの洗脳にかけられていた生徒や先生は正気になり、ざわざわと騒ぎ始めた。
「ふぅ…。これにて一件落着!そこの女よ!江本を安全な場所に連れて行け!」
俺はカッコつけながら陰で傍観していた姉さんに台詞を残し、ソウルジャー一同はすぐに立ち去った。