第四楽章 彼方 鈴星学園中等部Ⅱ年D組にて
翌日の朝。今日は珍しく朝練が無かったので、兄貴達と同じ時間に登校して来た。冬の真っただ中なのにこんな清々しい朝を迎えるのは何時のことだろうか。こんな冷たい風に当たりながら俺の教室であるⅡ年D組の教室へと入った。
「ようカナちゃん、今日は珍しく早いんじゃねーか?」
教室には一人の小柄な男子が黙々と窓拭きをしていた。
「おう村上、相変わらず掃除してんのか。いつもご苦労さん」
机に辿り着いた俺は肩に掛けていたエナメルバッグをどさっと下し、その中から教科書や筆記用具を出しては机の中にしまい始めた。
「いやいや、こういうことは学級委員長として当然だろ?」
村上は俺には目を向けず、別の場所でも窓を拭き続けた。
その時、遠くからバタバタと駆けて行く音が廊下だけでなく俺の教室まで鳴り響いた。その音はだんだんと近づいていき、鳴り止んだ時には一人の男子がハアハアと息を切らしながら教室前のドアに立っていた。よく見るとその人は俺と同じサッカー部の一人であり、セイちゃんと同じ学年の後輩であった。
「おう、誰かと思えば小林じゃねーか。どうした?」
俺が小林の元へ歩み寄ると、彼は何の問題もなく一枚の紙を差し出してきた。
「?俺に?どうした急に?」
尋ねた途端、小林が顔を顰めてこう言った。
「主将、俺…本日をもって退部させていただきます!」
えっ…?タイブ…?
あまりにも唐突過ぎて何が何だか混乱してしまった。
「退部だと!?どうしてまた急に!?」
驚きを隠せない俺に対し、小林は顔色を変えず容赦なく答えた。
「主将のやり方に不満があるからです」
その瞬間俺の怒りが爆発し、誰にも止められないくらいの勢いで問い詰めていた。
「おい!不満があるだけで退部することはねーだろ!?何があるのか言えば俺だって直すとこは直せるし、第一そんなことで簡単に辞めれると思ってんのか!?」
その時、また一人の部員が小林と同じく退部届を俺に差し出してきた。また一人、そのまた一人と後輩に関係なく同学年まで退部届を持って来ては「俺に不満がある」という理由だけで辞めてしまう人が次から次へと現れるばかりであった。俺は何も出来ず、ただ部員に囲まれて立っていられることがやっとのことであった。
これでは収拾がつかない…!!早くこの状況を何とかせねば…!
「いい気味だな黒野彼方主将。これでお前はリーダー兼エースを下りてもらうぞ!!」
どこからともなく聞き覚えのある声がした。だがすぐに消えてしまった。…これは俺らと同じ部員の江本の声だ!!
俺はすぐにその場から離れて外に出た。
江本は俺に恨みでもあるのか!?そうだとすれば話をつけなければ!!