one scene ~chinese cafe~ vol.3
メニューの豊富なこの店だが、注文する料理はだいたい決まっていた。
二人で来る度に冒険を繰り返しては探し出し、最終的に落ち着いたお気に入りの料理だった。
彼女が昔どおり注文しくれた後に
「他にまだある?」
と僕にたずねたが
「大丈夫」だった。
しかし注文した料理の中に彼女の好きだった「辛め」のメニューが入っていない事が気になって、ふと
「辛いもの系はいかないの?」
と聞くと
「うん、今日はいい」
「まさか妊娠中?」
「・・・」
昔どおりの冗談のつもりで切り返した僕の言葉に、彼女は返答をためらった。
「そんなんじゃないけど・・・」
「そっか・・・」
冗談のつもりの会話が、普通に成立してしまったことで、完全に僕は目を覚まし、理解することが出来た。
辛いものが妊婦には悪いのか?も知らないままに口にした質問の真偽などはもとより、本当に妊娠中ではないのかの真偽さえも、もう・・・どちらでもよかった。
一年前と少しも変わらない彼女だが、もうあの頃の彼女ではないし、まして僕の彼女でも決してないのだと、知った。
今日ここまで控えてこれていたつもりであったが、彼女との一年ぶりの再会を約束した先週から、ときめきみたいなものを抱き続けていたことを始め、馴れ馴れしく不器用に接し続けていた今日の自分の態度、そしてついには彼女に目線を下ろさせる様な質問をしたことにおいても、自分に腹が立った。
そんな自分自身の全ての思いが、「気持ち悪い」とさえ感じた。
彼女と別れることを決めた一年前のあの日のことをまた、思い出しながら・・・
to be continued