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#4.ゲームマスター

もう一度、対象者に触れてスキャンしたデータを冷静に確認してみる。


名前 立石舗道

レベル 72

クラス 竜使い(ドラゴンテイマー)

HP1280 MP780 攻撃力120 守備力380 敏捷値80

武器 過剰の鞭(130)

防具 黒棺の法衣(75)・黒棺の手袋(40)・黒棺の具足(40)

道具 赤魔石・青魔石・ハイポーション


ファーストスキャンできたデータはこのくらいだ。


対して現在の自分

名前 斗真賢壱

レベル 30

クラス 軽戦士

HP320 MP40 攻撃力65 守備力48 敏捷値69

武器 ロングソード(32)

防具 銀の胸当て(22)狩人の靴(12)皮の小手(10)

道具 ポーション・千眼の秘石


 現時点ではトッププレーヤーの一人だと言う自信があっただけにこの差は驚きだ。いや、ありえない。そもそもこの【SRO】の現バージョン(1.1)では最高レベルは30でカウントストップになっている。舗道のステータスはあり得ないのだ。自分と一緒にパーティを組んでいる舞羽も【炎火の大剣(250)】だけは規格外の強さだが個人ステータスは大差ない。と、言うことは輔導はチーター(ゲームのプログラムを不正に改造しプレイする)の可能性もある。


「君のその大きな赤い剣は【炎火の大剣】だね・・・・・β経験者のなかでも撰ばれた者のみに与えられる褒賞アイテムだね。」

 舗道が舞羽の背負った剣を指差しながら話し出す。舞羽はすぐには答えずにしばらく輔導を睨んで唇を真一文字に閉じている。

「褒賞アイテム?なんすか・・・・それ。」

 いいタイミングで木戸が割り込んでくる。β経験者の褒賞アイテムの事は賢壱も知っていたが輔導の能力のこともあるし【炎火の大剣】がそのアイテムだという事を知っているのも気にかかる。だが、逆にそのことが輔導がどういう立場のプレーヤーなのかをはっきりさせてくれた気がする。


 彼は、輔導は、GMゲームマスターの1人だ。


 GMゲームマスター とはゲーム制作側の者でソフトウェアの制作やオンラインゲームの場合はゲームの管理やセキュリティなどを行うものを指すことが多い。ゲームの進行役とか特殊なイベントの説明係として実際に登場することも少なくはない。



 そう考えれば現在は存在しないクラスとレベルに納得がいく。だが、なぜGMがわざわざゲーム内にプレーヤーとしているのかが解らない。


 輔導は木戸の素直な質問に親切に答えようと整った顎髭に右手を当て落ち着いた口調で語りだす。

「β経験者でもあまり知っているものは少ないのだが、β版のセカンドリアルオンラインではフォーカルポイントと言う開発者が参加プレーヤーのプレイスタイルを識別するための特殊ポイントを付けていたんだよ。単純なレベルだけではなくプレイの仕方やログイン時間や細かい動きなど様々な観点から計測する特殊なポイントだ。」

 輔導は一度言葉を切ると賢壱の顔を確認するように見てから話を続ける。

「そしてテスト最終日にフォーカルポイントの高かった上位10名に特別なレアアイテムをGMがプレゼントしたんだ。その一つが舞羽くんの持っている【炎火の大剣】だ。それから賢壱くん・・・君も褒賞アイテムを貰ったプレーヤーの一人だね。」

 輔導は笑みを浮かべながら嘘は見逃さないよというような視線で賢壱を凝視する。賢壱は輔導の質問に対しこの場で嘘を言うリスクを考え素直に答えることにした。

「はい・・・・確かにその女の子と同じで僕もβ版サービス終了の時に褒賞アイテムを頂いています。あなたはすでに解っているんでしょう?」

 輔導は満足そうに頷き、話を続ける。

「やはり君は頭の回転が速く賢いね。あとの二人は話がよく分かっていないみたいだから解りやすく言っておこうかな。」

 舞羽と木戸は輔導とは少し距離を置き目を離さず身構えている。

「私はこのセカンドリアルオンラインのゲームマスターの一人だよ。本来は一般のプレーヤーと同じようにこの世界を歩きながら変なバグが無いかをチェックするのが仕事なんだ。」

 輔導が話している間に舞羽が割り込む。

「だったらなんで自らあっさり正体を明かしちゃうの?そう言うのって一般のプレーヤーにはわざわざ教えない物じゃないの?」

 舞羽が素直に質問すると輔導は賢壱の様子をうかがいながら話し始める。

「もちろん私もいつもなら自分の素性を明かすなんて事はしないよ。しかし今回はそこにいる賢壱くんに私自身の特殊パラメーターがばれてしまったので変な考え方をされるより素直に自分の素性を伝えた方が良いと思ったのさ。」

 話の内容が理解できない舞羽が賢壱をにらむ。

「どういうこと?さっぱり解らないんだけど・・・・ちゃんと説明してよ。私はチームのリーダーなんだからね。」

 賢壱は短い付き合いだが舞羽の性格は十分理解しているので、回りくどい言い方は面倒になると思いありのまま話すことにした。

「僕も舞羽といっしょでβ版終了時に褒賞アイテムを貰っているんだよ。『リンクリング』と言って触れた相手のステータスを解析する指輪なんだ。だからさっき輔導さんと握手したときに通常ではあり得ないステータスっていうのが解ったんだ。」

 賢壱の説明に顎髭に手を這わせていた輔導が大きく頷き舞羽と木戸の反応を見ながら補足する。

「握手した後の賢壱くんの反応を見た事とこの場所のフォーカルポイントが高すぎたことで彼が『リンクリング』を所持していると確信し私のことをチーターと誤解されるのが困るので正直に話したのだよ。」

 輔導の言葉を遮るように舞羽が割り込んでくる。

「あんたがこのゲームのゲームマスターなら聞きたいことがいっぱいあるんだけど。」

 輔導は舞羽の割り込み質問も想定内だったようで嫌な顔もせずに答える。

「そうだろうね。質問をしたくなるのは当然だね。でも、だからこそ本来はゲームマスターは素性を明かさないものなんだが、それくらいのことは殆どのプレーヤーが解っているものなんだけどねぇ。」

 輔導のとぼけた回答に舞羽が食ってかかろうとすると、賢壱が間に入る。

「止めといた方がいいよ。まともに戦っても勝てないし輔導さんからは何の情報も得られないから無駄だよ。」

 賢壱と舞羽がお互いの意見をぶつけ合っている間に輔導は木戸の側に立ち位置を変え微笑んでいる。

「別に質問に答えないとは言っていないよ。条件付きで一人一問ずつ回答してあげようじゃないか。」

 輔導の側にいた木戸がおそるおそる輔導の顔を見上げる。

「ほ、本当にいいの?俺も・・・・聞きたいことがあったんだけど・・・。」

 輔導は木戸を見下ろし微笑んだまま答える。

「もちろんだよ。でも、さっき言ったように君たちが私の出す条件をクリアできたらだ。ゲームなんだからその方が盛り上がるだろ。」

 輔導は豪快に笑い出すと右手に持っていた鞭で地面を激しく叩いた。


 突然、奥の階段の上にそびえる織り姫神社の屋根の上に赤い大きな生物が現れる。β版の時に何人ものプレーヤーを絶望の淵に追いやっていたモンスター・・・


 赤い鱗を纏った巨大な竜がそこにいる。


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