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#2.赤い剣の女の子2


「何かっこつけてんの?さっきの男があたしを見てる間に後ろから攻撃すればスキル使うこともなかったのに。あんた馬鹿?」

 賢壱の顔をジロジロ見ながら女の子が悪態をつく。

肩にかかるくらいの黒髪で整った顔をしている細身の体型だがおそらく【重戦士】なのだろう。守備力の高そうな変わった胸当てをを着こなし炎火の剣を背中の鞘にしまっている。

「堂々と戦って勝たなきゃ意味が無いんですよ。さっきみたいやヤツには特にね。」

 確かに戦闘中によそ見をしてる奴が悪いのだから女の子の言うとおりなのだが。

「私は片葉舞羽。必要はなかったけど助けてくれたお礼は言わせてもらうわ。ありがと。」

黒髪の女の子は笑顔もなく賢壱と木戸に軽く頭を下げた。

そのままこの場を立ち去ろうとする舞羽を木戸が呼び止める。

「なぁ、まだゲームプレイするなら一緒に足利学校に行かないか?一人よりはパーティを組んだほうが楽しいと思うぜ。」

「あたしはソロプレイが好きなの。それにあたしはこれから織姫神社に向かうの。目的が違うんだからパーティは組めないわ。」


織姫神社

1200年以上の伝統と歴史をもつ足利織物の守り神であり織姫山の中腹に建つ朱塗りの美しい神殿は足利名勝のひとつともなっている。

2010年より実施されている「萌えおこし」というアニメ好きな者達が集まる「あしかがひめたま」は現在も人気のイベントだ。


「だったら俺らも織姫神社に目的を変更しようぜ。いいだろ!賢壱。」

木戸が目を輝かせながら聞いてくる。なんで元々パーティを組んでいる俺より初めて会ったプレーヤーに合わせなきゃならないのか理解に苦しむ。

「俺は反対だよ。βテストの時に織姫神社には火竜が配置されていて誰も倒すことが出来なかった。正式版だからそんな無茶はないと思うけどあそこは絶対に特別なモンスターが配置されてるはずなんだ。この時間で死亡ログアウトすると明日はプレイできなくなるから嫌だよ。」

 舞羽が初めて笑顔になって賢壱を見ている。明らかに馬鹿にしている表情だ。

「何あんた、プレイ時間を親に制限されているの?お子様ね。」

 賢壱は現実の世界でも女の子が苦手だ。もともとコミュニケーションを取るのが苦手な賢壱は学校のクラブ活動にも参加しないで自宅に帰るとパソコンでネットを閲覧したりソーシャルコンソールでゲームに没頭する毎日を過ごしている。女の子に興味が無いわけではないのだが何を話していいのかわからないし必ずつるんで行動して無駄なおしゃべりが多い女の子の行動が理解できない。

「君も同じくらいの年に見えるけど普通は時間制限あるほうが自然でしょ?今は22時だからこの後ゲームオーバーになると明日はダイブ出来たとしても少ししかプレイできなくなる。」


 2055年 バーチャルコンソールを介した仮想現実ゲームは年令によるプレイ時間の規制は無いが最近になって子供が深夜に遊んでいる環境が良くないと問題視され始めている。しかしバーチャルコンソールは基本的に自宅で遊ぶ端末なので親の監督責任問題だとされている。その為現時点では国が規制をかけるのはおかしいと言う事になっている。


「ゲームに1日入れないくらいどって事無いだろ?それにそんなこと言ってたらゲーム楽しめないだろ?」

 木戸はあくまで織姫神社に行きたいらしい。賢壱としては足利学校のアイテムはどうしても欲しいものではないので後回しにしても構わないのだが舞羽とパーティを組むのが気に入らない。だが、舞羽の持っている炎火の剣は興味深いし仲間になれば心強い。

「何処で手に入れたの?その炎火の剣・・・・課金アイテムで1万円はするはずだけど。まさか自分で買ったんじゃないよね?」

 賢壱は今一番気になっていたことを素直に聞いてみた。

「あなた・・・・やっぱり詳しいね・・・このゲームの事。」

 舞羽は再び賢壱の側まで来ると全身を舐めまわすかのように見定める。その仕草が少女なのに妙に色っぽく見えてしまった。

「そこそこのレアソードに通常の武具店で置いてあるライトアーマー。特別変わったアクセサリも付けていない。髪型も黒髪の短髪でオシャレ度も低い・・・・でもさっきの戦いやあたしの装備品に関する知識・・・興味深いわね。」

 こちらの質問に全く答える気のない舞羽から少し距離をとり再び問う。

「僕の質問に答えてもらえませんか。その剣は何処で手に入れたんですか?」

 舞羽はニヤニヤしながら髪の毛を左手でかき上げ余裕の顔で賢壱を眺め続けている。相変わらず年齢に似合わず色っぽい。本人は意識していないのだろうけど男性が好む仕草というのを自然とわきまえているのかもしれない。

「この剣はもらい物よ。それ以上は答える気ないから詮索しても無意味よ。」

 女の子は話は終わりという感じで賢壱と木戸を一瞥すると織姫神社がある織姫山の方に歩き出した。

「さっきも言ったように織姫山には協力なモンスターが配置されている可能性が高い、なんで危険を犯してまで1人で行きたいの?」

 余計なお世話と思われるのは解りきっていたが賢壱は聞かずにはいられなかった。舞羽は再び歩みを止めて振り返る。

「織姫神社の階段の上から眺められる景色が好きなの。この仮想空間でもその景色が再現されてるのか興味があるの。理由はそれだけだけどいけない?」

「景色を見たいって・・・・それだけの理由で危険なところに行くの。」

「危険と言ったってゲームの中での話でしょ。それにゲームの楽しみ方は人それぞれなんだからいいじゃない。」

 舞羽は賢壱の目を真っ直ぐ見ている。賢壱は舞羽の力強く美しい瞳に見入ってしまい何も言えなくなり口ごもる。

「それにあたし・・・・・強いし。」

 舞羽が自信を持って言うようにレアアイテムの炎火の剣は圧倒的に強い武器で鉄よりも硬い鱗で覆われている強靭な守備力を誇るドラゴンでも手痛いダメージを追わせることが出来るだろう。その上、舞羽は【重戦士】として攻撃力だけ特化させる変わった成長をさせているようだ。

 この【SRO】では武器や防具を装備するのに規定数値を超えていないといけないのだ。もちろん強力な武器である「炎火の剣」は高い腕力パラメータが必要になる。

「そういうことだからあなた達は危険の少ない場所で楽しく遊んでればいいんじゃない。」

 再び歩き出そうとした舞羽の手首を賢壱が強く掴みその歩みを止める。あまりにも急な大胆な行動だったので舞羽は大きく美しい整った瞳を一度は見開きそのまま細めて賢壱の右手におとしそのままゆっくり上昇させ賢壱の顔を睨む。

「まだ何か用?」

 賢壱は舞羽の手首を握っていた手を大げさに離すと申し訳なさそうに一歩下がる。

「やっぱりパーティーを組もう。君は回復アイテムのたぐいを持ち合わせていないだろう?戦闘を補助できる仲間がいたほうが安心して遊べると思うけど・・・」

 賢壱の提案を聞いて木戸も無言で頷いている。どうやら木戸は自分は余分なことを言わないほうがこの場はスムーズに話が進むと考えているようだ。

 実際その選択は正しい。

 舞羽はしばらく顎に右手を添えて考え込んでいるようだ。木戸と賢壱を見比べるような仕草を繰り返し納得したように何度か小さく首を縦にふる。

「いいわ。そっちのとんがり頭は役に立たないだろうけどあなたは使えそうね。一時的だけどパーティを組んであげる。」

 役立たずと言われて落ち込む木戸を脇目に賢壱が答える。

「じゃあ、パーティー編成サインを出すから承諾して。」

 賢壱が人差し指を伸ばし右手を真正面に突き出してそのまま水平に腕を右に動かす。すると指のラインに複数のアイコンの様なものが浮かび上がる。賢壱はそのアイコンの一つをタップすると手慣れた感じで次々と出てくるアイコンをタップする。

「あんた馬鹿?何勝手にパーティ編成を行おうとしてんのよ。」

 舞羽が必要以上に大きな声で文句を言い出す。

「パーティ・・・組むのを承諾してくれたものだと思ったんだけど・・・。」

 舞羽が呆れた顔をして賢壱を見ている。舞羽からこの後に発せられる言葉を聞いた賢壱は自分の今回の選択は間違っていたと確信させてくれた。


「あたしがリーダーに決っているでしょ。」


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