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(2)

 そもそも、シルフィードという船は船ではなく、超時空連続体への干渉を目的とした、時空圧壊装置として誕生した、ただの実験機械であったと、レイドは語った。


「科学講釈は勘弁な。別の宇宙……、あー、この場合は、あいつらの言ってる、こことは違う世界だな。そっちのことなんて考えてもいなかったらしい。ただ、時空を沈み込ませるだけ沈み込ませて、圧壊させたらどうなるかって実験をやりたかったらしいんだが」


「危ないことを……、下手をすれば宇宙が崩壊していたでしょうに」


「小宇宙が一個くらい滅んだところで、周囲の幾つかの宇宙が影響を受ける程度だろうとかな~~~、キチガイ集団だったらしいよ」


 空間の自己修復能力によってどうのこうのという話を聞かされたらしいが、レイドは理解できなかったので聞き流したと告げた。


「ところがだ、予想外の事件が起きた。空間は壊れず、底が抜けたらしい」


「は?」


「抜けたんだよ。この宇宙……、世界の底が。あるいは穴が開いたってのが正しいのかな? それで、こっちのものが吸い出されるかと言えば、そうはならなかった。逆に向こう側を吸い込んだらしい」


「吸い込み?」


「あいつらの話にもあったろ? 外にあるまだ何にもなってない『なにか』を、俺たちの世界は俺たちを構成するものに変換しながら広がってるって。それが、世界の端っこじゃなくて、どこかの宇宙で起こったんだ」


「いえ、待ってください。世界はそうして広がっている。ですが、どこかというのがどこであったのかは知りませんが、そこで宇宙創成レベルの変換現象が起こったと?」


「ま、そうらしい、としか言えないのが辛いんだけど、吸い込んだ何かは、拡散も崩壊もせずに、凝固したって言うんだな。

 水の中に油とか落とすと、混ざらずに玉になるとか説明されたけど、そんなもんらしいよ。だけどそれだけでもなかったんだな、これが。

 なんでもそれは、刺激に対して、反応をして見せたらしい。そこから、『あいつ』の戦いが始まった」


「…………」


「それを話すと長くなりすぎるんで省略な。とにかく、ビッグバンどころじゃないエネルギーの凝縮体だ。そんなものがなんの補助も受けずに安定しているとか、わけがわからないだろう?

 『あいつ』はそれを、さも機械が作り出して安定させているように擬装した。そして技師だった俺のところにやって来たんだ。動くための体と、話すための口を与えてやって欲しいってな」


「船と、電子精霊ですか」


「そうだ。というわけで、あのシルフィード姿は、ぶっちゃけ、擬装なんだよな。電子精霊の姿は俺たちとコミュニケーションを取るための、翻訳機を通した姿に過ぎないんだ。その力を全解放すれば、きっと世界を突き抜けられる」


「ですが、それでは、船は」


「船としての形は保てないだろうな。というか、誰もつきあえないし、なにかを載せて持って行ってもらうってことも、できない。あいつの力を、100%受けとめられて、振るえる船なんて、誰にも作れねぇよ」


 男は呆れを隠さなかった。


「よくもまあ、そんなものを、戦闘艦として用いていますね」


「落とされなきゃ良いんだよ」


 あまりの言いぐさに、男の頬はひくりと引きつった。

 まかり間違って、そのようなものが解放された場合、宇宙創成レベルのエネルギーが解放されるのである。

 その結果は、ただの破壊に留まらず、世界の崩壊を導くかもしれない。

 だがレイドは、そんな反応を見せた男のことを笑ったのである。


「この小惑星のエネルギー膜を突き破ったの、知ってるんだろ?

 大気を安定させるために、どれだけの出力で張ってる? それを、通常運航レベルの、浮遊してるガスや隕石を弾くのに使ってるレベルのバリアだけで、突き破ったんだぞ?

 惑星破壊を目的とした砲撃の直撃を食らったって、びくともしねぇよ」


 ともかくと。


「シルフィード……、ってのは、超生命体の一種なわけだ。この世界の法則に従ってないから、互いに干渉できる領域は限られてる。けれど、逆に言えば、ほんの少しは法則が重なってるらしいんだ。たとえば、意思、意識、魂とかな。

 そういった部分を見つけて、完成させた体と翻訳機が、あの船体だ。

 つまり、シルフィードって船の方については、あくまでもこちら側の世界の法則に則った形で構成しているんだよな。あいつら風に言うのなら、神様や悪魔が神力や魔力で動かす代理の体、ゴーレムとかそんなのか?

 そういうもんに過ぎないんだよな。この世界で作られたこの世界の物に過ぎない。だから、この世界の法則自体は超えられない。この世界の法則に縛られているんだ……、多分、だけどな」


「多分、ですか?」


「ああ。俺はやっぱり、代理の船長に過ぎないからな。シルフィードには乗せてもらってるだけで、あれは俺の船ってわけじゃない。俺が作った船だったのは、もうずっと昔の話だしな。今はもう、シルフィードが勝手に改造しちまってるし、全てを知ってた奴はもういないし……、シルフィードも、全部を俺に明かしてるってわけでもない」


「…………」


「あと、この星を、改造予定惑星の地軸安定に使うって話だがな……。協力はできないな」


「やっぱりですか」


「さすがに、感情移入が進んじまったよ」


「見捨てて去るというオプションはないと?」


「そうだな」


「困りましたね。わたしたちも、この星を捨てることはできない」


「母船があるからか?」


「そうです。そして、この星を維持し続けるには動力源に限界がある」


「惑星を改造したいのは、地核エネルギーが欲しいからか?」


「それほど大仰なものは必要ありませんが、母船を修復するためにも、大がかりな施設を建設できる大地は欲しいのです」


「それもあって、話に乗ったってわけか」


「彼の話に乗って、契約したのは、一人二人ではないのですよ。それぞれに考えや思惑がある」


「……お前、個人じゃないのか? 統合人格? 思念?」


「代表体です。合議制統合人格のね」


「ふん……? お前たちが欲してるのは、母船を修復できるだけの施設と、エネルギープラントってわけだ。さしずめ、この星も、最初はその辺りのことで迷走して出来上がったものだとか、そういうことか?」


「……さて、あなたは見捨てることができず、わたしたちも協力を願いたい。そこで提案です」


「提案?」


「賭けませんか?」


「あいつらにか?」


「ええ」


「お前らは、どっちに賭けるんだ?」


「それはもちろん……、フラグ君にですよ」


 レイドは吹いた。


「賭けになんねぇよ」


 だからとレイドは提案する。


「あいつの選択に賭けるってのは、どうだ?」

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