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「でも、それを君には教えない!」


 エフェクトが発生する。

 魔法か!?


「気付かせるわけにはいかない!」


「くあっ!?」


 盾を構えたってのに、背中に叩きつけられた。


 マジックアローか!?


 マジックアローは初期に覚える魔法だけど、その効果はレベルに合わせて上げることができる。

 属性というものがなく、純粋に、魔力や、魔法に関するパラメーターが、素直に反映されるものだからだ。

 レベル70のPTが挑むことを想定されていたドラゴン。

 そのドラゴンの上位変身体のパラメーターが、俺以下ってことはない。

 魔法に対する防御能力や、耐性数値なんて、意味を成さなかった。


 だけど、後ろからって!?


 魔法自体が転移した?

 それとも、発動地点と発動方向が、自在なのか?


 まずい、まずい、まずい。

 後ろから当てられ、ノックバックで奴の前へ。

 そこには当然、奴の攻撃が待っている。


 引き絞られた槍の先が待っている。


 槍が光を放っている。


 盾を前に出すように身を捻る。

 そこに衝撃。

 閃光は、槍の一撃と共に弾けた、なんらかの魔法のエフェクトだろう。


 壁に叩きつけられた。


 二度目だ、くそ。


 ダメージが酷い。

 ただの衝突として処理されてない。

 ノックバック効果に、壁に対する激突の衝撃ダメージ。

 正直、この衝撃によるダメージが、魔法によるものとして加算されているものなのか、それとも単なる激突として処理されたのか、俺にはわからなかった。


 それくらい、一気に体力を削られたからだ。


「つまらないな」


 壁から外れて、俺は地面にキスをするハメになった。


 まずい、なんかの状態異常を食らってる。

 視界がぐにゃりと曲がってる。

 立てない。

 四つん這いになるのが精一杯だ。

 力を入れても、手足は震えるだけで、立ち上がれない。


「レベルを上げて、出直してこい……、と言いたいところだけどね」


 やつが、横合いから飛んできた何かを、見もせずに横殴りの拳で弾いたのがわかった。


「二度はないのが、今だからね」


 それは、ことらんだった。

 ことらんのレベルは……。


「おっと」


 ことらんは、壁まで飛ばなかった。

 届くことなく、その途中で失速して落ちて……。


 何度も、何度も、跳ねて……。


「しまった」


 死……。


「あの子がいなくなると、君は」


「うわぁああああああああああ!」


 マクロを起動し、妖精を呼び出す。


「ポーション補給かい?」


 BOT妖精は、出現した瞬間に、狂ったようにポーションを使い始めた。


 だけどこいつは、俺にしか対応してない。

 周囲のキャラクターを、対象としては認識しない。

 それでも、ことらんのために、盾になるためには、HPを戻さないと。


 俺は、必死に立ち上がり、奴を睨んだ。


「まだ動けるのか……、不思議だな」


 奴の目がことらんを見る。


「死んでない。HPは0になったのに。あるいは、僕の推論が間違っていて、既にメインサーバーからは、完全に独立してしまっている? 基本プログラムを無視しているのか? HPという、根幹に関わるシステムから、離脱している?」


「うるせぇ!」


 槍を突き出す。


「無駄だよ」


 奴は、盾で受け流す。

 くるりと一回転して、俺を背後へと流した。


「本当に、不思議だよね。つくづく思うんだ。魂って、何だろう」


 たたらを踏まされ、振り返る。


「なにが!」


 そこには、余裕綽々の奴がいる。


「僕たちの感情や思考が、ただの電気信号に過ぎないって言うのなら」


「知るか!」


 槍を繰る。しかし、届かない。


「宇宙人のテレポート技術は、体を量子分解して遠隔地で再構成するものだ」


 片手間に、俺の攻撃は弾かれる。


「人の記憶や思考が、単なる電気信号の働きに過ぎないものなのだとしたら、テレポートマシンによって作成されたコピーには、量子的に物体が再構築されただけではなくて、全く同じ配置で、全く同じ動きで、全く同じ速度で、全く同じように流れている電気信号すらも、再現されていなければならないはずだ。彼らの言う精神体って言うのは、実は、この信号の再現具合のことなんじゃないかって、思うんだけど」


 同じ技術が、この擬体にも使われているのだという。


「電子信号が一つでも間違った配列、速度で転写模倣されたなら、その存在はバグ持ちになる。壊れるか、死ぬかだ」


 そして、医者のカウンセリングとは、この不一致の修正を行うことらしい。


「なにが言いたい!」


「宇宙を作るという話だよ。そこにこの宇宙とまったく同じ世界を構築したとしても、未だナノ世界に到達したばかりの僕たちじゃ、ピコ世界を覗くことすらままならない僕たちじゃ、目に見えない領域のものを想像し、創世することができない僕たちでは、スタートの火を入れることができないんだ」


 互いに槍と盾をぶつけ合い、鍔ぜり合う。


 いや、向こうが俺にあわせてるだけだ。


 圧倒的に、向こうの方が、膂力は凄いはずだから。


「光よ。……有名な言葉だ。これが電気信号をスタートさせるって意味合いなら、合図を入れようとしている僕は、確かに神になろうとしているのかもしれないね。でも、誰かが神になってくれるのなら、それが一番でもあるんだよ。僕が作った世界で、僕が無双をしてしまうんじゃ、ただの自作自演になってしまう。それじゃあ、僕が希望していた話とは、違ってしまう」


 スリルを味わいたいのだと。

 死ぬかもしれない、絶望の中で、立ち上がりたいのだと。


「若者としちゃあ、あんたみたいなのを、老害って言いたいんだけどな!」


「だから、誰もいない世界で、一人寂しく、独りよがりに、やり直したいって……」


「だったら、俺たちに迷惑かけてんじゃねぇよ!」


「君はコピーだ。誰の迷惑にもなってない。モノでしかない」


「んじゃあ、レイドさんたちはどうなんだよ! 宇宙人は!?」


「彼らには彼らの思惑があるさ」


「だったら勝手にやってろよ!」


 ふむ、と奴は怪訝そうに小首をかしげた。


「何故憤る? 言ったはずだよ。君はコピーで、本物じゃないと。この星がどうなろうと、地球の君たちには無縁のことだ」


 ああ、こいつはと……。

 俺は唐突に理解する。


「お前は、ジャパニメーションとか、オタク文化を研究してこい!」


「なに?」


「有名な台詞だよ! 生きてるように見えるものは、生きているように思ってしまうってな!」


「そんなの、あったかな?」


「NPCに感情移入できなきゃ、ゲームもシナリオも味気ないだろうが」


「そういうものだろうけど」


「そのために、作り物の俺が、作り物のために頑張っちゃいけないのかよ」


 ふむ、と、奴は顎に手をやって、考える仕草をした。


「そう考えれば、これは僕が、人道に目覚めるまでの物語と考えることもできるのか」


「そしてチート転生して、今度は良い奴として生きていくってか?」


「それもありかもしれないね」


「あんたは、地球の自分に、下克上でもやってろ」


「作り物の僕が、生身の人間に生まれ変わるか。作り物の世界から、本物の世界に。うん、悪くないね」


 だけど、と。


「本物の世界のつまらなさを知っているのに、そこに転生したいとは思わないな」


 ですよねーっと。


 ちらりと、奴に気付かれないように、ことらんを確認する。

 ことらんのHPが、徐々にだけど回復している。

 ことらんが無事だったことに関しては、一応、心当たりがあった。

 アルフレッドとやり合った時に、姉さんにかけてもらった復活魔法だ。

 それが消えてる。

 俺と繋がってるらしいことらんが、俺にかけられている魔法を自分のものとして使ったのか。

 それとも、俺にかけられている魔法は、ことらんにも作用するのか、それはわからなかったけれども。


 使える、か?


 俺は、力押しで槍を弾き合い、ことらんの元へと飛び下がった。


「うにゃ……」


 ことらんは顔だけ上げると、「うにゃあ……」と、鼻を突き出すようにして小さく鳴いた。


 昔、飼ってた猫が、死ぬ間際に見せた仕草によく似てた。

 俺は槍と盾を捨てて、ことらんを抱き上げた。

 首元に鼻をすり寄せてくる。

 その体にヒールをかける。


 また、間に合わなかった。


「怖い思いをさせたな」


「うにゃあ」


 間に合わなかった、けど。


 取り返しが付かないって、ところでもない。


「やるぞ、ことらん」


 そうさ、まだ、そこまで酷いわけじゃない、だから。


「獣王に任されたんだ」


 この世界は、あんたにはもったいないから。


「宇宙人にだって、話を付けて、回ってやるよ」


 俺はことらんの首根っこを持って、頭に装着した。

 もちろん、ヘルメットは外した。

 竜の気配は、盾を捨てたところで消えている。

 もういいやと、装備も変える。

 いつもの、なんてことない、皮鎧と、安手の剣に。


 ヒールだけじゃ足りなかったのか、まだだるんとしていたことらんも、俺にくっついたことでBOT妖精の恩恵を受けているのか、ぎゅーっと、頭を締め付ける四肢の力を増し始めた。


 いや、違うな。


 構築したのか、俺とのラインを。

 魔法効果の共有ラインを。

 あるいは、HPの共有ラインを。


 俺は苦笑してしまった。

 ほんと、こいつが、チートだな。


「悪い奴に剣を突き立てるのは、主人公と、お姫様だって、相場が決まってるんだよな」


「古い物語だね」


 奴は悠々と槍を構えた。


「古典って言えよ! 行くぜ!」

 

 その姿に、考え方に、言い放つ。


「今時の文学ってのはな、ライトノベルであって、ハードカバーじゃないんだよ!」


 俺たちの戦いは、まだ始まったばかりってこった!

ちゃんと続きます。

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