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 ドラゴンの目が、面白いものを見ている風に細まった。


「懐かしいものを」


「今じゃ揃える奴も居ないよな」


 ドラゴンレジェンドにおけるドラゴンは、非常に特殊な位置にある。

 普通、魔王と口にされるものこそが、このゲームにおけるドラゴンなんだ。

 神や悪魔なんてものはいない。

 生物的なものとして多様な種族が生息している。

 その頂点に立つ種族がドラゴンだ。

 それがドラゴンレジェンドの世界というものだった。

 生態系の頂点として、ドラゴンがいる。


 まあ、もちろん、いないとか言いつつ、イベントで出て来るんだけどな、神様とか、悪魔さんとか、いろいろと。


 それでも、最初のレベルキャップが解放されるまでの間、この盾はレアものとしては、最上級のものだった。

 作るためには鱗がいる。

 つまり、生きているドラゴンを倒し、素材のドロップを期待する必要があったんだ。

 そして初期のドラゴンレジェンドにおいて、ドラゴンは最後のボス的な存在だった。

 たどり着くことも困難な場所に棲みついていて、リポップは待つこと32時間。

 その上、倒したからと言って、必ず欲しいアイテムをドロップしてくれるわけじゃない。

 こうなると、ポップと同時に、同じく狙ってる連中と取り合いだ。

 レベルキャップが解放される前、最大レベル70の頃は、パーティどころか、クランとかレギオンとかアライアンスとか、とにかく、大多数の集団を組まなきゃ、到底討伐できる相手じゃなかった。

 なのに、竜を前にして、殺し合い(PK戦)だ。

 最後の一撃の、奪い合いだ。

 竜にダメージを与えつつ、しかし竜の関心をひかないように、ヘイトを調整して他人になすりつけつつ、あげく、倒した後のお宝を手に入れるために、最後の一撃を入れるために、プレイヤー同士、背中から傷つけ合って、ドロップアイテムの取得率を操作する。

 最後に倒したプレイヤー、あるいはプレイヤーの所属しているパーティに、アイテムはドロップするからだ。


 そんなことが、当たり前だった。


 当然だ、一匹の竜が落とすアイテムの量は少なく、そして、取りっぱぐれると、また32時間待ちぼうけだ。


 しかしながら、どれだけマゾくても、みんな竜の鱗と、竜が落とすアイテムによってクリアできるクエストの、レアアイテム欲しさに超頑張っていたという……。


「まあ、俺がドラゴンレジェンドをやり始めた頃には、もっと良いアイテムがいっぱいあって、ドラゴン狩りなんて、もう誰もやろうとしてなかったけどな」


 あげく、レベル70ではつらかったドラゴンも、レベルが150もあれば超余裕だ。


 それこそ、僕が考える超厨二的プレイが可能なくらいにだ。

 具体的に言うと、あれだな、防御力よりは回避力、攻撃力よりは連打力。

 黒い軽装備に、両手剣の二刀流w


 奴もそれを嘆いてくれた。


「おかげで、インフレのあげく、真龍とかわけのわからないものを出さざるを得なくなってね」


「神とか悪魔とかも、後からだったよな」


「裏設定しておいて良かったよ。追加シナリオで本当に出さなきゃ行けなくなった時には情けなくて仕方なかったけどね。僕としては、この世界はあくまで普通の星としての基本形にしたかったんだ。だから生態系として存在していても許せる範囲の存在だけにおさめたかったのに」


「超次元的な存在とか、目的からは外れてた、ってか?」


 確かに、人の手の及ばない高位次元の存在が、好き勝手に介入して引っかき回してるような世界なんて、いつ丸ごとひっくり返されちゃうか、わかんないもんな。


 竜製品で固めた今の俺は、竜の纏う魔力の膜に覆われている。

 攻撃力、防御力を極端に向上させ、魔力も増え、あげく、体力、魔力の回復も、通常の三倍の速度で行われていく。

 それも、回復姿勢や、状態を取ること無く、行動中でも、回復状態が維持されるんだ。


 チート過ぎる、と言いたくなるが、それでも欠点はある。

 重いんだ。

 フル装備である。軽快にとはいかない。

 跳ねるような真似はできない。足は常に接地状態で、盾を前に、剣を引いて戦うことになる。


 しかしこの状態、現実として見た場合は、どうだろうか?


 相手は、頭から尻尾の先までで、軽く二、三十メートルはある怪物だ。

 ひょいと頭を引いて、前に出すだけで、五メートルくらいは射程が変わる。

 横に回ろうにも、どたどたとした動きの印象があるのに、巨体故に歩幅が広く、一歩で変わる角度が大きい。それ故に動きが素早く感じる。

 五メートルの物体(くび)が根元から三十度角度を変えてみ? 外輪部は何メートル移動する?

 ぶおんと、丸太ん棒が振り回される以上の迫力だ。

 ぶつかればそれだけで圧死できる。人間が耐えられるもんじゃない。


 だからって、死角を狙うのは無駄だ。PT(パーティ)ならともかく、一人じゃどうしようもない。

 つまり、剣装備じゃどうしようもない。

 外で全滅しそうになってた連中を見ればわかることだ。

 遠距離戦を挑むしかない。

 それが結論として存在している。


「さあ! こういうとき、君ならどうする?」


 なんか期待してやがる。

 っていうか、こっちもわかってるんだけどさ。


「古典……、だよなぁ」


 俺は剣を消して、代わりの武器を抜いた。


 手にずしりと来る重み。

 穂先は長く、そして手元を覆いが隠し、それは長く、二メートルを超えて先端にまで一体化している。


 長柄の槍(ランス)だ。


 竜骨を繋げて圧縮し、ひとつなぎのものとして削り出した、長大で、最強硬度の、初期における最終兵器。


 竜の槍(ドラゴンランス)


 制作側の人間が目の前にいる。

 俺は言わずには居られなかった。


「一応、作りとかに独自設定作ってるけど、これパクリだろ?」


「原典じゃ、竜に乗って使うんだけどね。大きさとかも違うし。でも、僕はわくわくしたなぁ」


「憧れの武器で貫かれたいって、あんた、どんだけマゾいんだよ」


「竜装備で身を固めたときに、チート的に能力値が上昇するって設定も、それを扱うために作ったものだからね」


「んじゃ、遠慮無く、行かせてもらうわ!」


 背中側、肩胛骨にあたる部分の竜骨が持ち上がるように開かれる。

 そこから吹き出すのはドラゴンのオーラだ。

 それはまるで翼のように、光を振りまき、俺の体を押し出した。

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