表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/74

(8)

 仲間がどうだとか、友達がとか、帰る場所が、なんて歌詞の出てくる曲を聴くたびに、いじめか! と叫びたくなるのがぼっちというものだ。


 いじめられたり、はぶられたりしてるわけじゃない。


 ただ、なんとなしに、どこのグループにも所属することなく、居ても居なくても、関わることになってもならなくても、毒にも薬にもならず、適当な扱いを受けて、受け流されて、そのまま忘れ去られてしまう存在。


 それがぼっちだ。


 そういう意味じゃ、俺がぼっちだったのは、姉さんに絡まれるまでだった。


 割と地雷なんだよな、姉さんのことは。


 いろんな意味で感謝してる。

 いい大人が、自分の子供ほどの子に、なに思ってんだって話だけどさ。

 姉さん、と呼ぶのも、照れ隠しだ。

 今更、──ちゃん、なんて呼べるわけもない。


 そういえば、昔、僕、から、俺、に変えるのが恥ずかしくて、儂とか、意味不明な言葉使ってたっけな……。


 関係ねーけど。


 姉さんが今でも俺に構いつけてくるのは、きっと、強いからだと思ってる。

 どうすればいいのか、どうしたらいいのか。

 それを自分で考えられる子なんだろう。

 俺にも覚えがある。

 このままじゃいけないって思ったことが。

 でも、俺は結局、その泥沼からは抜け出せなかった。

 姉さんは違う、今より、なにかを、探してる。

 自分から興奮できるなにかを求めて、動いてるんだ。

 それはきっと、俺があの子のヒーローじゃないから。

 あの子を連れだし、支えていくのは、俺じゃないから。

 姉さんもそれをわかってるんだろう。

 俺と姉さんじゃ、本質からして違うって。


 姉さんはきっと、その内にゲームなんてやめるだろうな。

 そして表に出て行くだろう。

 お日様の下を歩き出す。


 一方で俺と言えば、ずっと引きこもって、オタク臭のする部屋の中で、相も変わらずって状態だろう。


 そういう卑屈な想像をして、その想像に胸をうずかせて、だけどそれがちょっと気持ちよかったりする。


 そんなのが俺だ。

 そんなだから俺なんだ。


 俺は、俺が本物の英雄でも、勇者でもないって、わかってる。


 本物ってのは、ピンチの時に現れて、颯爽と解決するもんだろう?


 どんなに遅くても、結局は間に合って、ハッピーエンドにしてしまう。


 そんな存在のはずなんだ。


 でも、俺が関わることになった姉さんはと言えば、客観的に見れば、いまでも十分、不幸なままで。

 姉さんが、それで良いって思ってたとしても。

 だから俺も、だったら、良いかな? なんて思って、それ以上に踏み出せない、俺なんて人間は。

 きっと、間違ってる人間だって、わかってる。


 ──だけど。


 俺には、勇気も英気も足りないから、怖くて、その間違いを、正せないんだ。


 そんな俺が、(ドラゴン)を前にして、立ち向かえるのは、きっとここにいるのが、作られた存在ばかりだからだ。


 本物は居ない。ゲームの延長。ヒーロー的な瞬間に酔ったとしても、誰も笑う人がいないからだ。


 だから、俺は、戦える。

 でも、それはなんのためなんだろう?



 ドラゴンが五メートルはある首を縮めるように軽く持ち上げる。

 それに合わせて息を吸い込む。

 頬袋と喉が膨らむ。

 首が持ち上がったことで見えた胸元も、膨脹していた。


 肺活量が並じゃない。

 吸い込むことによって生まれた、空気の流れは、人間一人の体重なんて、簡単に無視して動かそうとする。

 俺たちは対抗するために、踏ん張るしかない。


 バインド効果。足止めだ。


 その場に釘付けにされてしまう。踏ん張っていないんと、ドラゴンの元へと、強制移動させられる。

 懐へと誘い込まれたら、その強靱な前足の一撃にさらされるだけだ。

 だけど、耐えたからと言って、安全ってわけじゃない。


 ──ドラゴンブレス。


 内臓に火袋を持っているだとか、魔力的ななんかだとか、パターンはいろいろあるだろう。


 だけど、今、あいつが放とうとしているものは、そんな複雑なものじゃない。


 あれだけの巨体を動かしているために発生している熱エネルギー(カロリー)を、一括して、吹きだそうとしている、それだけだ。


 それだけだけど、その熱量は、人なんてどろどろに溶かしてしまうくらいに、ただ、熱い。


 ゴウ、と、炎の固まりが、漏らされた。

 口を開き、首を伸ばし、吹きかけるように、竜は泥のような火を吐いた。


 トカゲ独特の口。上顎と下顎は、膜のようなもので繋がっている。

 その膜が、左右に無駄に広がるのを防ぎ、ブレスに真っ直ぐな指向性を与えていた。


 そのくせ、不揃いで鋭い牙の列が邪魔をして、歯の隙間から漏れるような流れをうんで、不規則性を与えている。


 俺は竜の鱗──盾を前にして、それを耐えた。


 やや上に傾けて、傘のように身をかばう。


 竜の鱗は長盾だ。タワーシールド。身を丸くすれば、体をすっぽりを覆い隠すことも可能だった。


 竜の鱗を貼り合わせて作られているこの盾は、魔力を帯びていて、竜の息吹(ドラゴンブレス)くらいは受け流せる。

 なによりも、竜を倒せるのは竜だけだという発想から来ているのが、ドラゴンシリーズと呼ばれる装備品だ。


 熱の固まりは同時に質量も持っていた。

 落ちてきた炎は盾に重くのしかかり、俺を押し潰そうと降り注ぐ。


 しかし、装備一式が放つオーラは、俺から後ろへ炎を通すことはない。

 そこにはことらんと、未だ固まったままのディーナがいる。

 あいつの話が本当なら、ことらんの鯖としての処理機能(リソース)は、俺に割いている分で、いっぱいいっぱいになっているのかもしれない。

 ディーナに回す分は無いんだろう。


 ……ディーナが強力な魔法を使えたのは、ことらんのおかげなのか?

 でもことらんは、そんなにディーナとくっついてたっけ?


 やばい、思ったより熱くて辛い。こんな時に考えごととか、集中してない証拠じゃないか。


 炎の量が臨界点を迎え、徐々にだが終息していく。


 シールドの守護光の向こうにドラゴンを見る。

 肺から全ての空気を吐ききったのか、首を下げていた。

 顎が地に突きそうだった。

 その顎を、のび上げるように、持ち上げる。そうして改めて俺を見て、ふしゅると鼻から、残り火を吹いた。


 その目は俺の装備を見ていた。

 口元が歪んで、苦笑を浮かべているように感じられた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ