(4)
「んじゃ、遠慮無く」
「どうぞ」
「この星は、誰が作ったの?」
「宇宙人」
「なんで?」
「僕が頼んだから」
「なんのために?」
「刺激的に生きたくて」
「気に入ってる?」
「いまいち」
「どこが?」
「君は、レベルやスキル制についてどう思う?」
「どう……、って言われても」
「ドラゴンレジェンドについて」
「他のゲームとはちょっと違う?」
「どこが?」
「エディット機能かな? カードの組み合わせ次第じゃ、レベルとか意味がなくなるような、魔法やスキルが作れるって、ゲームバランストルの難しいでしょ?」
姉さんのチートとかなー。
素人でもわかるのに、そういうの導入してるとか。
チャレンジャーだわぁーって……。
んで、この人は、なんでそんなにうれしそうかね?
「そこに気がついてくれるとは」
やたらっと手をすりあわせて、そわそわし出した。
照れてんのか?
「僕はね、常々、不満だったんだ。レベル、経験値、種族にジョブ。アビリティにスキル。ステータス……。ゲームのキャラクターの成長って、あれは成長って言えるのかなってさ。だってそうだろう? 技も魔法も、レベルアップして手に入れるって言うのはさ、逆に言えば、あらかじめ素質や素養として、それらはインプットされているってことじゃないか。経験を積むことで、それが開眼していくんだ……、って言えば聞こえは良いけどさ、そうじゃないんだよね。結局は、そういったものを扱える強さや賢さを手に入れたと判断されると、レベルアップという形の認証を受けて、プロテクトが解除され、新たな力としてスキルが解放されていく。そういうことなんだよね。授かるんでも、手に入れるんでも、編み出すんでもない、元々織り込まれていたものが、使えるようになる、それだけなんだ」
なにを言ってるんだ、このヒトは。
俺は、きょとーんとしてしまった。
「だって、ゲームって、そういうもんだろ?」
「でもさ、それが現実だったとしたら? あらかじめチート的能力を仕込まれた上で誕生させられて、魔王の討伐に出かけさせられて、戦ってるうちに能力が解放されていって、魔王を倒しやすくなっていくんだ」
「勇者って、そういうもんだろ」
「でも、それって、結局は、そこに住まう村人に比べたらチート的なだけで、能力については、あらかじめ必要なものを提供されているんじゃないか。新しい力を振り回せるようになる楽しみはあったとしても、自分から努力して編み出したり、生み出したりしてるわけじゃない……。それって、チート?」
予定調和。
「最初から、倒せるようになる形を与えられているってのは、どうなんだろう? 最終的には、倒せるようになるから、そこまで頑張りなさいってのは、意味のあることなんだろうか?」
言いたいことは、なんとなくわかる。
チートってのは、あり得ないことを成しているから、そう口にされるんだ。
だからこそ、持ち上げられて、畏敬の念を向けられるんだ。
ただレベルをコンプリしただけの強さじゃ、カンストって評価しか受けられない。
それは時間さえかければ、誰にだって到達できるものでしか無い。
魔王を倒せるほどの努力を積んだとしても、それはただ、モンスターを倒すって言う、作業を済ませただけに過ぎないんだよな。
倒し続ければ、誰にだって到達できる高さなら、自分──プレイヤーの操るキャラクターでなければならない特別性は、ないことになる。
努力の果てに、なにかを得たって感動も、達成できた喜びも、元々用意されていたものだってわかっていると、ちょっと萎えるよな。
だってさ、下手すりゃ、事前情報が入って来ちゃってるわけだよ。このレベルになったら、こんな力が手に入りますよーってさ。
んじゃ、そこまでレベル上げてからにすっかーって、作業的にもなるじゃんか?
「そんな世界を用意されてだよ? それが、これから君が新しく生きていく世界になるだ、なんて言われたって、それってどうなんだろうって、思わないかい?」
だから、ちょっと違ったことをしてみようって、思ったんだろうか?
でも、それは。
「人……、宇宙人に作ってもらうんだから、しかたないだろ? システム的とか、ゲーム的になるのはさ」
「そうなんだけどね、そうなんだけど」
なんか、嫌な笑い方するなぁ、この人って。
「そこで、ちょっと考えたことがあってね」
「ん?」
「最初は、ちょっとした科学番組を見ていたときのことだった。そこから始めて、僕は可能性に至ったんだ」
「宗教的な話?」
いやいやと。
「もっと現実的な話だよ。荒唐無稽ではあるけどね。手段がちょっと乱暴で、困ってたんだけど、これがなんとかなりそうで、我慢できなくなっちゃったんだ」
ふわふわと浮いていた椅子の正面をこっちへと向けて、両手を広げた。
「だから君たちを巻き込んだ」
「うおい?」
「怒らないで欲しい。……この世界で動いているのは、キャラクターと呼ばれる存在だけだった。彼らはプログラムに準じて反応し、反射的行動を行っているだけの存在なんだ。メインサーバーによって統括されている存在に過ぎないんだよね。だから、予定外のことは行わないし、反応もしてくれないんだよ。全て予想通り、想定通りに、予定範囲内に収まるように、物事を調整するように思考し、活動するんだよ。そこには偶然を装った失敗さえあるんだ。でもね、それって、パターンさえ確定してしまえば、予測が付いて、結末が選べてしまうってことなんだよね。それじゃあ、僕が望んだ、刺激的な世界には、ほど遠いじゃないか」
「刺激ってのは、先がわからないから、面白いって?」
「うん」
「だから、俺たちを巻き込んだ? どう動くかわからない存在が欲しかったから?」
ぴんと、こいつは指を弾いて俺を指した。
「君はその中でも、特別だった」
「あ?」
「だから、ここまで通したんだ」
なんだろう?
こいつ、表情は笑ってる、けど。
俺を見る目は、嫉妬で酷く濁ってた。