(1)
──FPS.
まあぶっちゃけ姉さん無双があったわけで。
その辺り、特別に語るようなこともなく。
「レベル上げてくから」
先、行っといて、っと。
……ま、いっスけどね。
そんなわけで、俺、ディーナ、ことらんの三人で先行とあいなりました。
つってもスニークミッションなんだけどさ。
この魔物の谷は、正直、最奥に魔王でもいるんじゃないかってくらい、モンスターのレベルがハンパない。
基本、ボスクラスって、どんなだよ?
大きさも凄まじい。VRMMORPGで感動を覚えることの一つって、間違いなくこれだろう。
今は現実なんだけど。
下から見上げれば首が痛くなり、同じ高さに潜めば眼前を壁のような皮膚が横切っていく。
視界を埋めるほどの巨大な肉壁が、ゆっくりと、こちらには気付くことなく、通り過ぎていくんだよ。
四本足の巨獣だった。高さで二十メートル、前後は頭から尻尾までで三百メートルくらいはあるだろう。
まさしく、怪獣、だ。
戦闘時には、こんなのが大顎開いて迫ってくるんだ。
視界を覆う顎。その牙だけで俺たちより太く大きい。口腔には野太い舌が踊ってる。
顎は地に突き、地面をえぐるエフェクトと共に、襲い来る。
巨木や土ごとすくい上げられ、ぐちゃりぐちゃりと咀嚼され、飲み込まれる恐怖に、ひっと声を上げるなんて普通のことだった。
もちろん、ゲームだから、ほんとには飲み込まれずに、真っ暗になるだけだけどな。
……ここでそれを試そうとは思わないよ。さすがにさ。
ゲームだと、踏まれてもどうってことはなかった。ただダメージを食らうだけだった。
だけど、あんな足が頭の上から落ちてくるとか、そらびびるわ。
鉄骨が落ちてくるどころじゃねぇよ。車が落ちてくるより怖いわ。
あっと言う間にずしんと圧縮。
あ、あれ、死んだな。
はい、そうです、なんか果敢な冒険者諸君が戦ってます。
それを崖の途中にある横穴から覗き見てます。
なにやってんだ、あれは。
ボスモンスターに近距離戦とかありえねーだろ-。
うん十メートルの巨体に、一メートルちょいの鉄の塊振り回して突貫とかさー。
勝てるわけねーじゃん。
ゲーム脳が抜けてねぇな?
そんなのでダメ食うのなんてゲームの世界だけだろう……、ってここもゲーム準拠ではあるけどさ。
足の太さだけで、一回り十メートルは超えてるんだぜ? そんなもんが巻き起こす風圧を考えたことがあるのかと。
そもそも、剣じゃ、足か、尻尾くらいしか、切っ先の届く部分がないだろうが……。
なんで、遠距離の火力戦を選ばないんだよ。
まあ、おかげでこっちは気付かれることなく、通り過ぎて行くことができるわけだけどさ。
でもあれ、プレイヤーなのか、こっちの人なのかわからんな……。
「いいか、ディーナ、切らすなよ? 切らすなよ? フリじゃねぇからな。違うからな?」
ディーナに切らすなと言ったのは、隠形系の魔法だ。
姿が見えないようにするインビジ。
音を聞かれないようにするためのスニーク。
臭いでばれないようにするためのデオドラ。
魔法感知系のモンスターもいるため、基本的には同等の効果を得られるアイテムを使用して進んでいる。
切らすなよ? 切らすなよ?
だからことらん、マーキングしようとすんな!
……はい、手遅れでした。
これ、俺たちが離れたら、モンスターが反応すんのかな?
そそくさと離れて、奥を目指します。
なんかモンスターが、地面にできた染みに向かって寄ってく影が見えたけど、きーにーしーなーいー。
最初は、平原から突然切り立った崖にぶつかり、そこに開いている亀裂を奥へと入り込む。
んで、ちょっと広くなったり、分岐したり、谷間だけど緑があったり、滝があったり川とか池とか。
オークやゴブ系のモンスターが要塞を築いてたりとか。
まあ姉さんの良い餌になりましたが。
爆熱炎熱魔法一発ってなんだあのチートッぷりは。
効果範囲とかどうなってのかね? ナパームみたいに舐める炎が、ずーっと奥まで波となって流れ込んでいって、「おー!」って姉さんが喜んで。
相当経験値が入ったんだろうな……どんだけ殺っちゃったんだよ?
なんかもう、範囲魔法ってレベルじゃねぇよ、あれ。
でもこっちは中レベルですので? こうやってこそこそと進んでるわけですよ。
谷の奥まで来ると、そこからは洞窟だ。
モンスターが拓いてる坑道とか、モンスターが掘り抜いた穴とか、自然の洞窟とか、いろんなのが結合してる。
そうやって、俺たちは、奥へ奥へと降りていた。