真相の六部公開。
もしこのような世界があったとしたなら、地球人というものは、どのようなストレスを受けるのか?
あるいは行動を取るのか、反応をするのか。
一人であった場合には?
多人数であった場合には?
自分以外の存在が作り物であると知っている場合には?
実はそうではないと知ったときには?
そのようなデータを取るためには、実際に地球人を存在させてみることが早道であると考えたのだ。
「彼らがNPCと呼ぶキャラクターたちについても、練り込みが足りないことがわかりましたからね」
じつに有意義でしたという紳士の言葉を、レイドは意識の端に引っかけた。
「あの子か」
紳士は、それだけでもないと言ったが、その返答については、些末ごとでしかなかった。
NPC相当のキャラクターは他にも大勢居るのだし、接触して、貴重なデータを提供、記録させているプレイヤー共も、フラグたちだけでなく、この世界中に多々存在させられているのだとは、容易に想像が付いたからである。
追求しようと思うほどの返事ではなかったのだ。
「この星系は良いですな。彼らの惑星の他にも、我々の技術力であれば、十二分に居住可能惑星へと改造できる星が二つもあるのです」
衛星ではなく、惑星であると強調する。
いずれはその一つをもらうつもりだと、紳士は言った。
レイドは、軌道上へ退避させているシルフィード本船が、この星系の情報を収集できているのだろうかと思い浮かべた。
一応は、修復が完了するまでとして、手の届かない軌道へと退避させたつもりであったのだが、もしフィールドから出られずに捕まっているのなら、判断材料に困っているかもしれない思ったのだ。
シルフィードは、判断材料さえあれば、かなり勝手にする船である。
電子精霊とは、そういう勝手な真似を、船長も船員もなしに行うからこそ、精霊とされているのだ。
まあ、わからないことは聞けば良いかと、レイドはたずねた。
「んで、ここは、どの位置にあるんだ?」
親切にも、紳士は太陽系の概略図を表示した。
「ここですよ。彼らの住む太陽系の外周。……彼らの光学観測技術では、発見できない位置にある小惑星。その一つを、フィールドによって隠匿し、改造しました」
紳士の目は笑っていない。
そのことに、レイドはひくりと目尻を動かす。
ゲームブレイカー。
確かに、外側からこの世界に介入することができる自分は、破壊者であろうと考えたのだ。
概略図から察するに、この程度の小惑星、シルフィードを持ってすれば、フィールドごと破壊するこが可能である。
いや、別段シルフィードでなくとも、一般的な空間戦闘艇であれば、十分に可能であろう。
そしてまた、彼らが計画を本実行している惑星についても、調べはすぐに付くであろうし、なによりフラグたちの中身が存在しているのだという惑星にだって、容易に干渉できるだろう。
レイドという人間は、彼らの計画を破綻させた上に、成り代わることができる存在だった。
しかし、同時にも思いもするのだ。
(もしも、こいつらの作ってる別の世界ってのが、どこかに完成した時は……)
この実験場を、彼らはどうするつもりなのだろうかと。
この小惑星上に構築されている仮想世界は、テスト場に過ぎないのだと言う。
ならば、マスターアップの際にはどうされるのか?
このまま放置されるのなら、まだ良い方だ。
消去でも、かまわないだろう。
だが、施設や設備を停止した上で、放置されたら?
ナノマシンの恩恵を受けることもできなくなった時、いまこの世界に生きている彼らは、どうなってしまうのか?
レイドは自身の船にフラグたちを招き入れたとき、どういうことになったのかを思い浮かべた。
この世界のすべての生き物たちが、あの時の彼らのように、毒をまかれたように、もがき苦しみながら、屍をさらすことになるのだとしたら?
いや、そもそも、システムが停止されたとき、彼らの記憶領域や思考能力も、同時に演算されなくなるはずである。
ある瞬間を境に、立ち尽くす人形ばかりに……、ナノマシンという名前の、砂の固まった人形ばかりが立ち尽くす、異形の世界に成りはてるのだとしたら。
フラグの言葉がよみがえる。
「余計酷いことに、か……」
体を作るというのなら、この世界に依存しない、オリジナルを作らなければならないだろう。システムの恩恵を受けられずとも、影響も受けないようにしなければ。
それでいて、この世界のものたちに劣らない力を持った存在に仕上げてやらなければならないだろうか?
少なくとも、関わってしまった以上は、ある程度気持ちの良い終わり方をさせてやりたいとレイドは思った。
まあ……、だとしても、それを伝え、実行するためには、シルフィードと合流し、さらにフラグたちに追いつかなければならないのだが。
しかし。
(こいつ、俺をあいつらに合流させない気か?)
紳士は会話を引き延ばし、レイドを離そうとしないのだ。
レイドは危機感を募らせていった。