真相の三部公開。
──FPS. フラグ
「フラグじゃ……ない?」
きょとんとした様子で小首をかしげる。
意味がわからない、ってんじゃなくて、それが? って感じだった。
なぁんかやりづれぇな。
「俺は別の世界の人間で、今はフラグの体を借りてるんだ」
「…………」
「けど、フラグは消えたわけじゃない。俺が出て行くためには、ちょっと行かなきゃならない場所があるんだけどさ」
「…………」
「ええと……」
どうすんの? どうするの!? この空気!
「まーしょーがねーよなー」
そんなもんだと告げられる。
「誰もが彼もが|なりきり《Roll Playing》ごっこを楽しむってわけじゃないからな。そういうところを深く考えたりはしないように、思考がブロックされてるんだろ」
「なんかそれ……」
「不憫だとか、不自然だとか言うなよ? そういうところが、作り物なんだってことなんだからさ。キャラクターは、プレイヤーのために存在してる、偽物なんだよ」
ディーナへと目を戻す。
やっぱり、きょとんと首をかしげたままで……、でも、微笑は止めないディーナに、俺は……。
「ふふふふふ、ふらぐっ!?」
思わずディーナを抱きすくめて、後頭部を撫でまくってしまった。
「うしっ!」
突き放すように距離を開けて、決意する。
ディーナは頭を鳥の巣のように爆発させた状態で、目を白黒させてる。
そんな姿に、口にする。
「フラグを返そう」
「良いのですか?」
「仕方ないッスよ」
ですがとシルフィードさん。
「新しい体……、キャラクターを作成した場合、レベルは1からとなってしまいますよ?」
「うっ……、し、しかた、無いッスよ」
ぽんぽんと肩をたたかれた……、ねえさんに抱き上げられた、ことらんに!
「レベル上げ、手伝ってくれるってさ」
にししと笑うねえさんに、俺はがっくりと頭を落とした。
「お願いします」
ねえさんは、ことらんの肉球を取って、ふるふると振った。
「まかせろって」
「ねえさんは返さないんですか?」
「正直、うちのは、あんたのディーナみたいに、親密な関係だってわけでもないからねぇ」
そのままでも問題ない程度の思い入れしかないってことか。
「このゲーム、基本的に狩りゲーだから、倉庫キャラって、普通はほとんど使わないでしょ? 実際、あたしんとこの子、レベル1のままだしね」
普通は、それでも多少のレベル上げを行う物だ。
なぜなら、インベントリの最大収容能力の拡張クエストなんかがあるからだ。
最低限、それらをクリアする程度には、キャラクターを動かすもんだけど。
ホームも倉庫代わりにはできるけど、やっぱ生産職にとって、出し入れはきついからな。
鞄に放り込んでる物からさくっと出して作れる方が便利だし、そうなると、ある程度の収容能力は欲しくなる。
もっとも、ドラゴンレジェンドってゲームにおいては、生産職の存在意義なんて、ほんとに微妙なもんだったけどな。
原因の一端は、ねえさんみたいなチート組にあったんだ。
いらんことばっかりやるもんだから、生産職のバージョンアップなんかが後回しにされて、修正ばっかり行われたんだ。
それに、強い武具よりも、スキルや魔法を、チート的に駆使した方が、強かったしな……。
ぶっちゃけ、初期装備でも問題ないって言う、な。
酷い話だ。
普通のゲームは、プレイヤーのレベル上限について、ボスクラスのモンスターよりも高くなるなんてことはないように、設定されているんだろう?
じゃあどうやって倒すんだと言えば、パーティ組めやと、そういう話なわけで。
一対一では、当たった、当たらないのランダム判定で、被弾数ゼロだなんて、そんな非現実的なことは起こりえない。
ゲームバランスってのは、そういう風になっている……もんだろう。
だけどドラゴンレジェンドはそうじゃない。
組み合わせ方によって、新しい効果を生み出せるってことは、被弾率をゼロにしてしまう方法だって、編み出せるってことなんだ。
同時に、防具を着けなくても、防具を着けている以上に身を守れる方法を、考え出せるってことでもあったんだ。
そりゃあ……、生産職なんてやってられないよな。
ちまちま素材集めてもの作ってるよりは、スキルとか魔法とかで、遊んでる方が楽しいし。
この辺りのことで、まあ、おかしなことにはなってたけども。
このゲームでは、組み合わせによって、新種の魔法を生み出すことが出来る。
とは言っても、効果、ダメージ、エフェクト、そういった物は共通で、組み合わせの結果が無限大、新種や亜種に見えると言った感じだった。
ファイヤーボール、ファイヤランス、ヘルファイヤ、ファイヤウォール、ちょっと思い出すだけでもまだまだ出てくる火系の魔法だって、エフェクト、効果、ダメージ、範囲、……プログラム的に見た場合、組み込まれてる土台っていう名前の変数についてはみんな同じだ。
形となった時の、名前と数値が違うだけ。
ってことで、勝手に名前が付けられて、魔法やスキルは、もうなにがなにやら、訳がわからなくなってしまっていた。
自由度が高すぎるってのは、こういうことが起こりやすく……、また、バグりやすくて、酷すぎた。
おかげで、後発のゲームについては、そんなドタバタを反面教師にした他メーカーが、良いもの送り出してくれましたとさ。
「あれ?」
「なに?」
「……後発のVRMMORPGって、通信回線どうしてんのかなって思ったんスよ」
「……ドラゴンレジェンドについては、宇宙人の技術ありきだったとして?」
どうなんだろうと、ねえさんと首をひねっていると、レイドさんが口を出してきた。
「ハードとソフトについての話を、一緒くたにするこたはないんじゃないか? 通信は通信、この世界用のはまた別個かもしれんしな。実はお前らみたいなのが、別のゲームでも発生してたりするかもしれんし」
工工エエエエ(´Д`)エエエエ工工
「実は、お前らのアバターには、移動について、制限が設けられてるのかもしれんしな。その範囲外には、別のゲーム用の世界が構築されてて、そこではまた、別のプレイヤーが、酷い目に遭ってたりするのかもしれないぜ?」
「だから、話を広げないでくださいよ」
「わりぃわりぃ」
んじゃ、そろそろ動くかと、レイドさんが言い出した。
「俺たちは船に戻る。お前たちはこのまま進め」
「別行動ッスか?」
「さすがに、本体とのリンク切れはまずいからな。それに、新しい体のこともある。作るのなら、シルフィードが持ってるプログラムを使った方が安全だ」
「そうッスか」
「けどな、どのみち、こっちの擬体製作システムを押さえんことには、手が打てん。そのためには、これから行く場所の攻略が必要っぽい。となると、別に行動した方が早いだろ?」
「俺たちだけでやるんスか」
何言ってんだって顔された。
「落とせるんだろ?」
「そりゃま、できますけどね」
まあ、ぶっちゃけねえさん一人で大丈夫なわけだが。
「あんたも、やるのよ」
見透かされた。
「へーい」
俺は、ことらんを抱き上げると、よいしょっと肩車した。
「んじゃ行きますか」
はいはいとねえさんが着いて来る。
そしてディーナもだ。
フラグを返して、二人にしてやったら、こんな不自然な感じじゃなくて、もっと自然な感じになるんだろうか?
で、そこにいる俺、神様タダオ。
そんな俺を尊敬と憧れの目でもって見るディーナ。
嫉妬するフラグ。
やべ、寝取りフラグ?
「……そしてどっちも中身俺って、どんなだ」
なんかげんなりとしてしまった。
ちらりとレイドさんとシルフィードさんを見ると、んじゃなと手を振ってくれていた。
……あの人らの調子を見てると、たぶん、ちゃんと体を返せるんだろうなって思えるんだけど、だけど、やっぱりちょっとだけ不安なんだよな、だってさ。
別のキャラへ移動するために、スタート画面を出すために、アルフレッドは自殺って方法を使ったんだぜ?
もしそれが唯一の方法だったとしたら、どうなんだ?
俺は、ディーナを見てしまった。
ん? って、くりっとした目を向けてきた。
……俺は、ちゃんと、フラグから抜け出せんのかな?
やっぱり不安になってくる。
別キャラに、この世界に縛られないキャラに移動できたとしても、フラグが死んだら意味が無いんだ。
ねえさんを返したいって考えてたみたいに、フラグだって、フラグのまま、存在させたい。
完全に俺だってわけじゃなくて、俺の行動をベースに生み出されただけのフラグだって知ったから。
今まで、ディーナと生きてきたってんなら、その二人に戻してやりたい。
フラグとは……、気が合うんかね? それとも同族嫌悪を起こすんだろうか?
俺同士ってことで。
……そんなことをつらつらと考えて、自分のことでいっぱいいっぱいになってたもんだから、俺は、レイドさんとシルフィードさんの、不自然な距離感に気が付いていなかったんだ。
いつもくっついてるあの二人が、微妙に距離を開いていたことに。
ぴりっとした警戒心を、互いが壁として持っていたことに。
このとき、俺は気付くべきだったんだ。