真相の一部公開。
なんだ、あれだ。
思った以上に長くなってるんで、先に裏の一部公開です。
よく見れば、空の赤は壊れていた。
0とか1とか、パターンめいた数字も見える。
ってどんなでかさだよ!?
『メインシステムのログが、エラーメッセージで埋め尽くされてます。狂ったみたいにアラートが』
「イベントってわけじゃないんだな?」
みんなの目が痛い!
「……お、俺じゃないッスよ?」
つつっと横を向いてしまう。
みんなが一斉に嘆息したんで、すっげぇでっけぇ、ひとつのため息みたいに聞こえた。
レイドさんがシルフィードさんへと尋ねてくれた。
「で、実際、どうなんだ?」
『くぁwせdrftgyふじこlp』
「シル……!?」
「うわぁ!?」
急にシルフィードさんの姿がノイジィになってぶっこわれた!?
テクスチャが完全に破壊され、その一部は空の彼方にまで真っ直ぐに伸び、あるいは原色の小さなブロックがパターンとなって固定され……。
その姿で固定され、まったく動かなくなったかと思ったら……。
「失礼しました」
「のわっ!?」
背後にもシルフィードさんって、ええ!?
思わずあっちもこっちも見ちゃったけど、新しく現れた方のシルフィードさんは、すました顔で、何事もなかったように話し出した。
「バグの発生により、フリーズしたため、再構築を実行しました。なお、現在、惑星上の帯域が占有されてしまっているために、本体との交信は不可能な状態となっております。応急処置として、一時的な擬体化を選択しました。処理能力は二千万分の一となります」
レイドさんが苦々しげに口にする。
「痛いな。なにがあった?」
「先ほどの彼が、ログアウトを敢行しました」
俺たちは声を失った。
できるのか!? ログアウトが!
「そして消失しました」
できねぇのかよ!?
「ですが、そのおかげで、多少なりとわかったことがあります」
シルフィードさんは、俺たちを見て言った。
「ここに居るあなたがたは、本人ではありません。意識体のコピーです」
断言来た!
「じゃあ、本当の俺たちは……?」
「地球という星で、今も無事なのではないのでしょうか?」
ねえさんが眉間にしわを寄せる。
「そっちは確定じゃないのね」
「現状の影響が、プレイヤー側に出ていないという補償はありませんから」
なんだか、びみょうだ。
シルフィードさんの話は続いてく。
「それから、この星は、みなさんのゲームとリンクしているわけではないようです」
「はい?」
「そちらのゲームは、こちらの星の状態維持のシュミレーションモデルとして配布されたもののようですね」
「モデル? 配布?」
「はい。アクターやキャラクターは、設定されている以外のことについては、良くも悪くも思索しませんし、できません。そのような思考ルーチンを持ち合わせてはいないからです」
馬鹿なんじゃなくて、現状に不満とか、疑問とか、そういうのを持たないって意味らしい。
そりゃあまあ、そういうのを持たれちゃうと、興業としては成り立たないもんな……。あくまで、プレイヤーが楽しむための世界なんだし。
「ですから、そこで、ゲームとして、そちらの世界に配布し、プレイヤーの行動や行為をサンプルとして収拾し、キャラクターの強化、バージョンアップを行おうともくろんだようです」
俺は思わずディーナを見てしまった。
「夢……」
シルフィードさんが頷いた。
「ですね。夢という形で、あなた方の行動をこちらのアバターやキャラクターへとフィードバックしていたということのようです」
「ちょっと待って」
ねえさんです。
「していたって、どういうことなの?」
「失敗したということです」
あなたたちがその証拠です、だと。
「証拠?」
「先ほどの彼の件でわかったことなんですが」
ねえさんが目を細める。
「ログアウトしようとしたって言ってたけど」
「はい。……何を思ったのかはわかりませんが、自殺しました」
俺たちはきょとんとしてしまった。
「は?」
「毒を飲みました」
「毒……?」
「自前の毒です。毒ポーションです」
いや、確かに、あるよ?
毒ポって。
たとえば、眠りを誘うような特殊攻撃とか、魔法とかに対抗するために、服用するんだ。
何秒かに1のダメージを受けるんだけど、ダメージを受けると眠りから覚めるってのを逆利用して、スリープ系の特殊攻撃を持ったモンスター相手の対策として、事前に服用しておくんだよ。
だけど……。
「なんで?」
なんの必要があって?
さあ? というのがシルフィードさんの答えだった。
「わたしには、ゲームでの利用法についてはわかりませんから……。ただ、彼の最後の言葉は、「なんでなんだよ、この間は、ログイン画面が出たじゃないかよ、キャラクター選択……」でした」
なにかわかりますかと問われて、俺は、まさかと気がついてしまった。
ねえさんを見る。同じことを思ったようだった。
「スタート画面だ」
「はい?」
「スタート画面。ゲームに直接ログインする以外に、接続するサーバーとか、複数のキャラクターを作っていた場合、そのどれを使ってログインするかとか、そういうのを選択するための画面があるんですよ。で、死んだらそこに戻れるんです」
なるほどと。
「つまり、彼は、以前死亡した際にそれに気がつき、キャラクターをチェンジするなりしていたと」
ねえさんがこぼす。
「……そこに、ログアウトの選択があったのね、きっと」
レイドさんが残酷なことを教えてくれる。
「だからって、その選択肢がちゃんとプログラム的に動作するかどうかは、別問題だ」
そこにあるのはボタンだけで。
押してもどこにも繋がっていない状態で、ログアウト処理が行われて……。
そして消えることになたんじゃないか、と。
「通常は、プレイヤー本来の肉体へと復帰処理が行われるわけですから、機能的には存在しているものでしょう。ただ、あなたがたの場合は……」
体はこの星じゃなくて、地球にあるもんな……。
「意味なし、か」
「そして、以前に、ということは、彼のメインキャラなり、サブキャラなりが、そこにはあったということでしょうね。それが、今回はなかった、と」
死んだときに、失われたってことなんだろうか?
別のキャラクターが。
だとすると、やっぱ、死は死亡で、蘇りとかはないんかな?
「で」
レイドさんっす。
「フィードバックがミスって、こいつらのパーソナルデータまで、擬体に送られちまった理由ってのは、なんなんだ?」
それはと続く。
「攻撃によるものです」
「攻撃?」
「はい。先ほどの異変の際に、プロテクトにほころびが生まれました。おかげで、メインサーバーへのアクセスに成功したのですが……。回収できたログを査究したところ、意味をなさない大量の情報が保存されているのを発見しました。おそらくは、サーバーに対して行われた攻撃によって溢れかえった、ジャンクデータなのではないでしょうか?」
ティンときた!
ねえさんが呟く。
「サーバーアタック」
俺が続く。
「DoS攻撃だ」
呆れた口調でねえさんも漏らす。
「まだそんなことをやる奴がいたのね……」
俺も同じ気持ちだった。
DoS攻撃の一番簡単な方法はリダイレクトだ。
データ更新のための要求をひたすら求める。
一台二台なら問題なくとも、千を超える万の台数が一斉にとなるとどうだろうか?
普通の回線ならば、要求に応えられずにパンクする。
今回は、過度のデータを発信したってことなんだろう……けどさ。
VRシステムってのは、膨大な量の情報を双方向で高速通信しなきゃならんもんだから、専用の超高速無線通信が使用されているんだよな。
その帯域は、百万都市に兆台の通信機械があったとしても、50%以下の使用で耐えられると言うものだし、その処理システムに至っては、専門家でないと理解不能なものにな……って。
「え?」
気付いてしまった。
「ねえさん……VRシステムとかに使われてる通信回線って……」
「奇遇ね、あたしも同じこと思ったわ」
シルフィードさんを見てしまう。
無線で、大量のデータをやり取りできる、高速な?
「ドラゴンレジェンドって、初期のゲームっすよね……」
つまり、新方式の無線通信もまた、同時期に発表されたものなわけで。
「最初から、このためにとか?」
ゲームが宇宙人たちによって配布されたものだとしたら。
それらを広めるための環境整備もまた、宇宙人の技術によってもたらされたものかもしれないんだから。
「宇宙人は……すでに俺たちの星にいる?」
俺たちは顔を見合わせてしまった。
「「こわっ!」」
「まあお前らの想像のことはほっとくが」
「「ほっとかないで!」」
「いや、まあ、実際のところ、よかったんじゃないか? それなら、お前たちの星って、ここからはそう遠くはないってことになんだろ? アバターってもんは、土着の種族になりすますには、便利な代物だからな。技術的なレベルが低ければ、見破ることなんて、まずできないし」
お前らの居住区の監視システムに、透過、透視するようなものが組み込まれているかと聞かれた。
ねぇよ! そこまでのもん!
街角の監視カメラにそんなもん付いてたら怖いわ!
「……ゲームに使用されているサーバーが攻撃にさらされ、この星へと送信するデータの圧縮に失敗したようですね。必要外の情報もまとめて発信してしまったようです」
それが俺たちのパーソナルデータだってことか。
「受け取る側にとっても、意識体のデータというものは、処理ルーチンにないものですから、そのまま通常の記録と同じように、素通ししてしまったと言うことのようですね。結果、夢としてアバターへとダウンロードしている情報に混ざり込む形で、意識体のデータが落とし込まれ、あなた方のような存在が生まれてしまったと言うことのようです」
はぁああああと、俺とねえさんはしゃがみ込んでしまった。
「死んでないってのは、良かったッスけど」
「これで、あたしたちは、これからここで生きてかなきゃいけないってのが、決定したってわけなのよね」
「そうですね。ログアウトを敢行したとしても、先ほどの彼のようなことになるだけですし」
レイドさんが興味本位に尋ねてくれた。
「どうなったんだ?」
「爆散しました」
「そか」
おおい!?
「まあ、データ的にって話ですが。先ほどの空の色はその影響です。かなり大量に、無駄な情報を内に抱え込んでしまっていたようですね、彼の場合は」
「無駄って……ジャンクデータ?」
「彼は、なにか独特なデータを抱えてもいたようですし」
「MODがらみ? 開発途中のデータとかかな?」
形になっていないものもふくめれば、そりゃかなり大量のもんになるだろうけど。
「そんな彼が、ログアウトを選択し、彼というキャラクターのプレイ処理が終了したわけですが……、その際に、彼の意識体と共に擬体へと書き込まれていた、大量のジャンクデータが解放され、フィールドの処理能力を、一時的に超えてしまったというのが、真相のようです。先ほどの異変は、その結果が表層に現れたと言うことのようですね。すでに解決されているようですが」
解決……。
俺は、ついと、無視していたものを見てしまった。
そこにはぶっ壊れたままのシルフィードさんの映像が……。
「これ……消えないままなの?」
ゲームでバグったキャラとかさ、消えないまま残ったりするよね。
またも目をそらされました(TωT)