PvP 決着
リアルに殺される_| ̄|○
いやほんとマジすんません。
更新…俺もしたいです…。
ほんの一秒の間のことだった。
わずかにずれた程度に、あるいは視界の右端から左端へと。
姿形がバグるほどの回数で、同時の転移が彼を襲った。
いや、実際にバグっていた。
ナノマシンやら何やら、科学的なことなんて俺にはわからんけども、そういったものが集合して、今の俺たちを作ってるってのは納得できてる。
その理由には、シルフィードさんの実体化が上げられる。
彼はブロックノイズだらけになっていた。
それに、崩壊したテクスチャっぽい、三角形とか四角形とかのパーツが、形を整えきれずに本体を追いかけている。
表示処理が追いついてない、そんな感じだった。
もちろん、プレイヤー、中の人間に、痛覚的なダメージはないだろう。
だけど、人間の三半規管を壊すには十分な現象だ。
ヴァーチャルリアリティシステムが導入される以前のゲームでは、単に画面の中で、キャラクターがおかしな動きをしてしまっている、で済んでいた現象も、体感を伴うVRMMORPGでは、事故では済まないものになってしまっていた。
ここがゲーム中であったなら、ログアウトやリセットと言った手段も取れただろう。
しかし、今は逃げられない。
キャラクター、アバターには、三半規管なんてもんに関係した判定、ペナルティはない。だから、中の人、プレイヤーにも、肉体的、数値的なダメージは加わらない。
けれど、プレイヤーは、確実に酔う。
ただのゲームでも、これは酔う。
3D酔い、だ。
この世界の強者は、多少の立体軌道なんてものともしないでこなしてくれるけど、生身の俺たちは、その感覚に追いつけずに、その誤差を超えられずに、悪酔いに似た現象を引き起こしてしまう。
彼の操っているアバターも、過ぎ去れば平然と立ち上がれるんだろう。
けど、中の彼はどうなんだろうか?
たとえ、ダメージ、数字としては蓄積されなくとも。
それはコマンド入力を間違わせ、判断を狂わせるには、十分すぎる攻撃じゃないか?
リアルな状態異常を食らった彼は、跳ね飛ばされると同時に、もう目を回していたのかもしれない。
けれどそれには関係なく、俺は目の前でくるくると踊る彼に対して、蹴りのモーションを取っていた。
昔、ねえさんに売ってもらった符が、風魔法を発動する。
風のトンネルが、彼の向こう側に、地と水平に長く伸びた。
同時に、俺は、蹴り足の裏に、別の爆発符を貼り付けるように出現させていた。
「行ってこい大霊界!」
具体的には隣のフィールド!
長大なトンネルの渦はライフリング。
そして俺の蹴りが撃鉄だ!
彼の腹に蹴りがぶつかると同時に符が起動、ノックバックって炸薬が破裂して、トンネルにその身を叩っ込む!
渦が螺旋の威力を彼の身に加え、アルフレッドという弾体を撃ち出した!
ドン!
まさに、衝撃だった。
大気の壁さえ貫いた。
平原の草が一直線に割れて、彼はその先の先、遙か彼方へと飛び去って行った。
そして、その先できらりと光り……。
「いや光りじゃなくて」
冷や汗を流して、ねえさんが。
「死んだんじゃないの?」
「大丈夫っすよぉ、地面に落ちる前にはエリアチェンジに引っかかりますから」
エリアチェンジの後は、その身に加えられている物理演算処理は全て初期化され、普通に立った状態でリスタートされる。
ちなみにこの世界にもエリアチェンジは存在してる。
この世界は幾つかのフィールドに分割されていて、それぞれに維持するためのエネルギーの閾値が設定されているらしい。
まあ、確かに、一度に丸ごと保護とかさ、無駄にエネルギーを使う必要は無いやな。
その都合上、世界は何分割かされて、フィールドにくるまれているらしい。
……未踏破地区とか、ゲーム的な進入禁止区域って、フィールドの保護範囲外ってことなんだろうか?
ま、いまはいいや。
「エリアチェンジ後までは責任持てませんけどね~」
モンスターが沸いてないことを祈るw
そんな風に、ぷげらっと笑っていられるのも、彼のレベルが高かったからだ。
この辺りのモンスターからじゃ、気付け程度のダメしか受けないだろう。
『大ジョブですよー。頑丈ですね~彼、生きてます』
ピクついてますけどねーっと、シルフィードさん。
相変わらず管理システムの何かをハックしているらしい。
「フラグ!」
「っと」
抱きついてきたディーナを受けとめる。
俺はその頭を叩くように撫でてやりながら、悪かったなと謝った。
「たぶん、お前が思ってるような感じのしめ方じゃなかったろうけどな」
「ううん! やっぱり凄い! だって、わたしには『あんな動き』できないもん!」
どの動きのことだ?
首をひねっていると、呆れている……というよりも、青ざめた顔で、レイドさんが寄ってきた。
「直角軌道のことだよ」
「直角?軌道?」
なんか、らぶらぶっぽいもの放出しながら、首にかじりついてぶら下がっているディーナが離れてくれないんだが。
……抱きつかれてても、ブレストプレートが痛いだけです。せめてそれ取って……。
んなことやってると、あのなぁと、レイドさんは頭をガリガリとかいて教えてくれた。
「お前が入ってるのはアバターなんだよ」
それはわかってんな? と。
「つまりだな……、走るモーション、ジャンプのモーション、それを選んだ後は、設定、レベルに合わせた動きが実行されるだけなんだ」
まあ、それはわかってるけども……と言ったら、わかってねぇよと呆れられました。はて?
「つまりだな……お前が選択したものを、プログラムが計算して、実行して、結果を表してくれてるんだよ。それがプログラムってもんだろう?」
「……?」
「なのにお前は、プログラムされてないことを、やったんだ。そのために、実行されてるプログラムを、キャンセルしたんだよ」
よくわからん。
「わかっとけ。言ったろ? その体はアバターなんだ。随意筋から不随意筋に至るまで、プログラムが管理支配、実行している作り物なんだよ。なのに、お前、そのプログラムに、停止命令を出したんだぞ?」
よく死ななかったよと……褒められ……ってねぇし!?
「え!? 俺、死ぬところだったの!?」
「……いいか? アイテムだって、亜空間に管理されてるわけじゃねぇ。構成情報だけ記録して、量子分解されてるだけだ。それを出したり消したりしてるように見せてるだけなんだよ。お前らの怪我が魔法で治るのも同じ理屈だ。再構築されてるんだよ。それは構成情報が正確に記録されてるからこそ可能な話なんだ。その構成情報を随時管理してくれてるのもプログラムだ。お前、それを、意思の力とか、そんなあやふやなもんで、止めたんだぞ」
死ぬどころか、消えるところだったとか!?
「いまシルフィードにスキャンさせて、異常がないか確認してるけどな、できればもうやめとけよ……マジでさ」
もちろん即答した!
「やめます! 無理はダメ、絶対!」
「……シルフィードみたいな電子精霊ならともかくよぉ、作りも理解してない生身の人間が、外部装置の手助けも無しにプログラムをクラックしてアバターを操作したとか、どんなチートなんだよ、お前は」
いやいやいや! そんなチート求めてねぇし!
俺が求めていたのは俺TUEEE的なですね!?
「プログラムってのは、小さなプログラム、オブジェクトが組み合わさってできてるもんだ。お前が止めた命令が、どのオブジェクトのもんで、その影響が、どこに出てるか、出て来るのか今はわからん。今、大丈夫に見えるからと言って、そのエラーが後で爆発する可能性もあるんだよ……、ま、強く生きろよ?」
イキロ? って、えええええ!?
「それはそれとして」
「ねえさん! それとしないで! 重要だから!」
「それとして」
無視されたし!?
ねえさんは、ごろごろと首元で喉を鳴らしてるディーナへと、剣呑な目を向けて言った。
「詳しい話を、聞き出しましょう?」
だけど、その尋問会は、後回しになる。
ゥウウウウウウ!
突然、ことらんが唸り始めた。
「へ?」
みんなで、地平の彼方に目を向ける。
その果ての広い空が、血のように赤く染まっていた。