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PvP(4)

文章量が難しいッス。

わたしはiPhoneでネット小説を読んでいるのですが、一話の文字数が多いと最後まで読み込んでくれないんですよね…でもそこを基準にすると少ない気も…。

 ──それは見事な跳び蹴りであった。


 まるでマンガやアニメであるように、コミカルに顔面へと蹴りが入った。

 フラグの蹴りにより、アルフレッドは首を痛めるほどに曲げて、吹っ飛び、無様に転がった。

 地面と平行に高速飛来した、フラグに宿されていた運動エネルギーは、綺麗に彼へと送り込まれたらしい。

 クリティカルだ。

 それでも、レベル差による補正が入る。ダメージはさほどでもない。だがなお、アルフレッドの混乱は収まらない。

 なぜなら、砂煙を貫くほどの、遠距離からの跳び蹴りだったからである。


(なにが!?)


 足の裏の跡を顔に貼り付けて、起き上がる。


 確かに、蹴りという攻撃は存在している。

 しかし、長距離を空中飛来するなどという非常識なものは、ゲームにはないものであったのだ。


 砂煙によって姿が見えなかった。ということは、距離にして一メートル、二メートルの近距離にはいなかったということになる。

 十メートル単位の距離だろう。

 その位置から、頭の高さへと蹴りを打ち込んできた?

 どうやって?

 ジャンプは、跳んで、落ちるものだ。

 山なりになるものだ。

 水平に跳んだ? 何メートルも?

 ありえない。


 高く跳んでの蹴り下ろしならわかる。

 物理エンジン……でなくとも、物体は重力に引かれて落ちるものだ。

 水平に跳ぶには、なにかしらの技や、術が必要になる。


 その謎を、彼には紐解くことができなかった。

 こだわってしまった。


 フラグの奇抜な攻撃を踏襲しようとしていたアルフレッドは、その解を求める行為に、わずかであっても思考を裂いてしまっていた。


 隙を作ってしまっていることに気がつき、アルフレッドは慌てて盾を取りだし、身をかばった。


 ぎりぎりで間に合った。

 盾に、レベル70からのものとは思えないほどの衝撃が加えられた。

 歯を食いしばり、身を縮め、アルフレッドは耐える。


(この『人』は、読めない!)


 彼は、未知の攻撃を酷く恐れた。


 胸の高さほどに飛び上がり、盾を蹴って跳ね返されたフラグは、軸足が地を踏み噛み直すと同時に、爆発的な速度で間合いを詰め、さらにあり得ない加速を蹴り足で生み出し宙に舞い、空中で一回転して、後ろ回し蹴りをたたき込んだ。


 疾走のモーション中に、ジャンプモーションを割り込ませ、蹴りという攻撃行動へと、連携させたのだ。


 しかしながら、モーションの初動を入力すれば、あとは自動的に実行されるのがゲームである。

 これがゲームでの補正機能の正体だ。

 スキル値が高ければ、この自動的、の部分の程度が上がっていく。

 蹴り、のスキルを高めれば、誰にも見えない蹴り、誰にも受けとめられない蹴りというものが可能になる。

 だが、低レベルの蹴りであれ、高レベルであれ、プレイヤーが入力するのは、攻撃モーションを実行させるためのトリガー的初動行動だけであり、あとは体感して楽しむだけのものでしか無い。


 そして、ここに問題が出る。


 プレイヤーは、プログラムを実行させるための、引き金を弾かなくてはならないのだ。

 だがモーションの発動中に別のトリガーを発動すると、現在実行されているプログラムはキャンセルされて、別のルーチンが動き出す。


 この場合、疾走がキャンセルされてジャンプに入り、ジャンプがキャンセルされて、キックに入るはずであった。


 加速だけなら、物理演算のエンジンによって継続計算されるかもしれない。だがモーション選択は一択しかできず、混ぜることはできないし、重なり合うような遅延実行もできないはずであった。


 なのに、実際にフラグの蹴りは、流れるように放たれていて、盾に衝撃を伝えている。

 アルフレッドは、あろうことか、STRで遥かに勝っているというのに、力負けを喫した。

 流し込まれる力に関節が負け、肘が勝手に伸びたのだ。腕を大きく開いて、体をまる見えにしてしまった。


『よう、餓鬼──』


 口頭会話では、間に合わないからだろう。

 それは、会話ウインドウへと、直接流し込まれたものだった。


『ここからが、本番だ』


 まるでスローモーションだった。

 フラグというキャラクターが、攻撃モーションに入っている。

 しゃべってはいない。

 だが、その身が、動きが、語っているように、錯覚させられる。


 ゼロ距離で立つフラグが、利き足を垂直に動かした。


 アルフレッドは、その顎を蹴り抜かれ、身を高く、天へと踊らされた。





 ──あり得ない!


 レイシア・アルタイユは目を見開く。

 蹴り、という攻撃は、もちろんあった。

 だが、キャラクターを、十メートル近く……ゲームでは墜落死判定を受けてしまうような高さにまで蹴り上げるような攻撃など、存在してはいなかった。


 素手、素足でのダメージなどしれている。

 キャラクターを跳ね飛ばすほどの衝撃など生み出せるはずがない。

 少なくとも、ドラゴンレジェンドには、そのようなプログラムは存在していなかった。


 ならば、ここが現実だからこその、現象なのだろうか?

 そう思い、それもまたおかしいと彼女は気がつく。

 現実ならばこそ、甲冑を着込んでいる人間が、頭上何メートルの位置にまで、蹴り上がることなどありえないということになる。


 ならば、はやりこれは、ゲームのように、物理エンジンに相当するなにかがもたらしている現象なのだろうか?


 よくよく見れば、それが証拠に、翻弄されているアルフレッドは、滑稽なだけで、HPは一向に減っていなかった。


(なにをやってるの?)


 攻撃とは、ダメージ判定を生み出すためのものである。

 ゲームでの攻撃とは、それが普通だ。


 だがフラグ=タダオは、攻撃モーションを攻撃のためではなく、不可思議な現象──魔法を使うための踊りにしていた。


 蹴り上げる際、軸足は、地を踏み潰していた。

 軽く陥没し、衝撃波らしいものが這うように広がっていた。

 そしてアルフレッドは、宙を舞ったのだ。


「風の魔法」


 ぽつりとした呟きだった。


「ディーナ?」


 レイシアは、モブだと思っていた彼女へと、不審の目を向ける。

 そこへは、頬を紅潮させた姿があった。

 潤んだ瞳をして、彼女はこぼす。


「すごい、フラグ……わたしと同じこと」


「あなたと同じ?」


 はい……と。


「わたしは、風の精霊の力を借りて、空を飛ぶことができるんです」


「そういえば……」


 少ないが、奇妙な空中芸をしているのを見たことがある……とレイシアは思い出し、そして思い至った。


(ノックバック?)


 風の精霊……プレイヤーがモブキャラに衝突すると、少なからず反発を受ける。

 風の精霊の場合は、より強く跳ね飛ばされることがある。

 そんな精霊たちを複数同時召喚し、跳ね飛ばされる玉となって、空中に舞い上がっていたディーナの姿を思い出した。


(それを、攻撃に転用したってこと?)


 ノックバックによる、跳ね飛ばされる方向を制御して、速度を上げているのかと予想する。


「やっぱり……フラグは凄い……ううん」


 そんな具合に、考えに没頭しそうになっていたレイシアは、次の言葉を聞き逃しかけた。


「フラグも、きっと、タダオって人の……」


 レイシアの目が丸くなる。

 その目に映る、フラグへと向けられたディーナの表情は、輝いていた。

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