PvP(3)
話が進まないのでちょくちょく三人称混ぜて飛ばしていくことにしました(´・ω・`)すんません
炎が上下に別たれる。
そんなアニメみたいな現象を目撃する。
斬撃系のスキル──衝撃波が飛んできた。
しゃがんでも、飛び上がっても、避けようのない、そんな絶妙の高さだった。
「くっ!」
逆手に持っていた左手の短刀を使う。
手首をやや外に曲げ、刃を腕に添うように当てて……俺は腰をひねるように、見えないもの、衝撃波を斬り上げた。
風が体を避けて流れる。
俺は腰をひねり戻して、今度は右手の短刀を突き出した。
エンチャント効果がまだ残っていた。炎が流れ、伸び、そびえる火炎に穴を空けて業火が進む。
魔力の盾の光が見えた。
そして……。
「嘘だろ……」
全ての炎が、不自然に動き始めた。
巻き上がるように吸い込まれ、束ねられていく。
燃えさかる炎が、集束していく。
消えていくんじゃない。終息じゃない。
集まっていくんだ。
奴の──アルフレッドの頭上へと。
「こんなところでこんな真似をすれば、大火事になることくらい、わかるでしょうに」
馬鹿なんですかと、とがめる声には、しかし、今までのような険が感じられなかった。
俺は冷や汗どころじゃなく、背中や、尻の間まで、じっとりとぬめるような汗をかいていた。
炎にあぶられていた奴よりも、よっぽど強く汗が吹き出していた。
奴の上、五メートルほどの位置に、炎の塊ができあがり、太陽のように時折プロミネンスを見せながら、ゆっくりと回転していた。
ちょっとした高位魔法レベルの威力になっていた。
「どんなだよ……お前」
大量の冷や汗と震える声に、びびってるのがバレバレだった。
「そう驚くことじゃないでしょう?」
「どこがだよ」
「あなたが今、教えてくれたことですよ」
なんだろうな、こいつ……俺にとっては嫌な奴なんだけど……。
「ありがとう」
「あん?」
「あなたはいい人だ」
なんでそこで苦笑する?
「あなたは……信頼に値する人だ」
「なんでそうなる?」
「普通なら、死ぬはずだけど。この程度のことじゃ死なないって、僕の力を評価してくれている……そうでしょう?」
ちげぇよ、とは言えなかった。
正確には、知っていた、だ。
ディーナとして。
だけど……。
俺もまた、苦笑していた。
こいつ、悪い奴ではないんだよな……根本的なところでは。
「正直なとこ、見損なってたよ、予想以上だ」
よくもそんな真似をと、火球を見ながら口にすると、うん、と、奴……彼も、それを認めた。
自分でも、実力以上のことだと思っているようだった。
「確かに、レベル差を埋めようと思ったら、こういう方法しかなかったのかもしれませんが……。だけど、それは表面的なことですよ」
「うん?」
「あなたが、彼女の心をとらえられるほどの『人間』だっていうのなら、僕は、あなたの全てを、頂きます」
俺は、自分でも嫌な顔をしたのがわかった。
「気持ち悪い奴だな、お前って」
そうですねと、ほがらかに笑いやがった。
「あなたを倒しても、彼女の心は手に入らない。だけど、彼女が惚れた、あなたにあるものを、僕がまるごと身につけたなら……。その上で、それらをあなた以上の高みへと昇華させられたなら」
「そんな風に、か?」
あの球体、いったいどれくらいの熱量があるんだろうか?
彼は、僕の番だと、両腕を広げた。
「物体を、手を触れずに移動させる。ただのスキル、テレキネシスですよ」
「火だけ集めたって言うのかよ?」
「火は集められなくても、燃え種は違うでしょう?」
マジかー……。
確かに草とかもオブジェクト扱いだけどよー……。
「範囲がわからないから、周囲一帯の表面を丸ごとすくい上げてまとめただけです」
「だけど、燃え尽きねぇじゃねぇか……」
「ガス系魔法を使って、維持していますからね」
それがどういうことか、わかりますかと、問いかけてきた。
俺にはわかった、当然だ。
彼は、俺がやったことを、仕返そうとしているだけなんだから。
にやりと笑って、受け取ってくれと、彼は炎を投じた。
「魔法じゃない、ただの自然現象です。ただし自然界にはあり得ないレベルの、ね。死なないでくださいよ。彼女に恨まれたくはありませんからね」
そして、爆発と轟音が騒然を支配した。
──彼女は、魔力障壁を越えて襲いかかってくる爆風に、顔を背けさせられた。
だけれど、風が完全に過ぎ去る前に、彼女は彼の安否を気にし、目を戻す。
「おにいちゃん!」
涙混じりの声。
それは、レイシア・アルタイユを演じていた少女の、素の音であった。
冗談ごとでは済まないと感じさせられるほどに、投じられた火炎球の爆発がすさまじかったのだ。
圧縮されていた破壊力は、開封されると同時に地をえぐり、吹き上げた。
水面に水滴が落ちたとき、形作られる王冠のように、目前に火炎の冠が天高く築かれていた。
火の粉混じりの土砂が、降り注ぐ。
砂煙となって視界をふさいでいく。
煙の中から、後ずさりする人の影──アルフレッドだった。
「…………」
思った以上の結果に、彼自身が驚いている様子であった。
ちらりと彼は、ディーナへと振り向く。
彼の目的は、彼女の関心を買うことであって、嫌われることではない。
そうであるから、悲劇的な結末は回避すべきで、もたらすべきものではないのである。
しかし、彼の見た、そこにあったディーナの表情は、彼の予想を裏切るものだった。
なんの不安もなく、この次に来るものを期待して、瞳を輝かせていたのである。
彼は、ここに来て、どちらだろうかと悩んでいた事柄に、思考を割いた。
それはすなわち、フラグというキャラクターが、プレイヤーなのか、もしくはモブであるのかという疑問についてであった。
はっきりとは断定できていなかったのだ。
世界が世界だ、モブ同士が関係を持つことも、十分にあり得る話である。
そのモブが、チートキャラである可能性、チートでありながら、ルートとして用意されているキャラである可能性。
攻略キャラは、たいていが不死であったり、チートである。
倒しても、その後仲間になったり、HPを削りきっても、戦闘では亡くならず、イベント上で死亡が演出されたりするものだ。
もし彼がそうであるのなら……ディーナ攻略のために用意されているキャラクターなのだとしたら、これで死ぬはずがない、と思えてならない。
ディーナとは、アルフレッドにとって、それほどまでに攻略難易度の高いキャラクターとして設定されていた。
しかし、だ。
もし、フラグという青年の中身が、プレイヤーだったのだとしたら?
プレイヤーと、ノンプレイヤーキャラクターとの関係には、複数の形がある。
ただのモブ、クエストを与える重要キャラ、あるいは……。
(プレイヤーを助ける、コンパニオンだとしたら……)
彼女の表情が意味するものは?
彼女がモブなら、わかるはず。
プレイヤーの……状態が!
慌て、振り向くと、そこにあったのは……。
眼前に迫る、足の裏だった。