話が設定側に寄りすぎてきた…。
親知らず抜いてきました…。
頭働いてません…。
大平原を見渡してみる。
もともとこの草原は、魔物侵攻イベントのための平野だった。
定期的に発生するイベントだ。モンスターは魔物の谷を出発し、この平原を経て、王都へと到達する。
戦闘は、この平野と、王都で二回行われる。
王都での戦闘は、最終的には魔物の撤退で終結する。プレイヤーサイドが勝ったなら問題なし。負けた場合は、都市での競売所などで、復興名目での重税がかけられたり、NPCの商店が、店主不在とのことで、店を閉めてしまったりする。
理由は店主が殺されたり、連れ去られたりと、いろいろだ。
モンスターは、みんなの抵抗によって追い払われた……という設定で片付けられる。ただし、色んな被害が出て、傷跡が残された、みたいな感じだ。
ちなみに連れ去られた場合、助けに行かない限り、その商店は再開してくれません……追加クエスト発生です。
んでもって、フィールドを進んでいると、侵攻途中のモンスターに出会うこともある。
イベント用のモンスターは、全て中ボス以上の強さを持っているので、要注意だ。
なにしろ、侵攻イベントでは、参加プレイヤーの数が、多いときでは千人単位にもなる。だけど、百人単位では心許なく、十人単位ではまず負ける。相手はそれくらいに強いモンスターたちが山盛りだ。時には、百を超えることもある。
まあ大勢のプレイヤーが参加して、一斉に攻撃するわけだからして、それくらい強いモンスターが、数を揃えてないと持たないわけで……。
だけど、もし、侵攻途中のモンスターを、一匹だけならと釣ろうとして、リンクされたら?
目も当てられない惨事になる。
王都での戦闘なら、死亡しても経験値没収などのペナルティ無しで復活できる。
そういう仕様のイベントだから、基本的に、侵攻途中のモンスターを相手にしようとする者は居ない。
イベントならリスク無し、イベント開始前の侵攻途中ならリスク有り。
手を出す意味がどこにもない。
けど、これはリアルだ。
ゲームでのモンスターは、侵攻中はノンアクティブだったけど、リアルである今、一〇〇%アクティブだろう。
見つかったら最後だ。
そう思うと、正面の山の峰から、今にも地を埋め尽くすようなモンスターたちの姿が見え始めそうで、ぶるりと震えた。
歩いていて、そのイベントが失われていないことは、はっきりとわかっていた。
リアルだ……ってことなんだろう。草原をよく見ると、剣や槍が突き立っていた。草の合間には鎧が見える。その鎧を着ていたのであろう、かつては人だったであろうものも……。
風雨にさらされてボロボロのものもあれば、まだ新しいものだってあった。
探せば魔剣だってあるかもしれない。
やはり死体は消失しないらしい。
ゲームでは、死亡>永眠判定がある。
死亡しただけでは消えない。そこから10分の猶予がある。蘇生魔法待ちの時間だ。
もし蘇生魔法がもらえないなら、ホームから、ペナルティをもらってのリスタートになるわけだけど……。
(死んだら終わりか)
だけどどうなんだろう?
実のところ、大事に育ててきたディーナには、死亡経験がない。
ちょっとした自慢だ。
逆に、フラグは死にまくりだ。
そんなゲーム中のフラグと、このアバターであるフラグとが、ずっと同一の動きをしてきているのなら、何回も死んだことがあるはずだった。
シルフィードさんのことが頭をよぎる。
(人体一個分の再構築とか、できるってことか?)
システムの管理によって、行動記録なんかが記憶として保存される仕様になっているのなら、精神体を移し替えることのできる宇宙人の技術だ……復元コピーくらい簡単なもんだろう。
(まあ、今ここに宿ってる、俺が復元されるかって言うと……試す気にはなれないけどさ)
実は死に戻り先に設定されているホームには、俺の予備の人体が保管されているとか……。
(こわっ!)
んでもって、復活したフラグには、俺って人間の記憶は再生されなくて、モブ化するってことも……。
でも、待てよ?
でももしそうなら、ホームとして設定できる場所には、なんかの施設があるってことなんじゃないのか?
リスタートを行えるようになっているなにかが。
(失敗してる?)
これからいく先のことを思うと、先にそちらを調べるべきだったんじゃないかと思った。
だって、これからいくところは、ねえさんを持ってしてもめんどくさい場所だからだ。
──魔物の谷。
クリスティアさんが言うことにゃ、そこにGMが一人いるらしい。
魔物につかまって、連れ去られてるとか……ねーよwww
魔物の谷とは、魔物の侵攻クエストの出発地点である。
谷では日々魔物が増え続けている。
そしてある日、溢れるんだ。
どの程度の期間で溢れるかは、時による。まあそれは細かい話になるから省略するとしてもだ。
その深奥は、人が立ち入れないほど障気が濃く、この障気が固まりとなって魔物が生まれているとか言う設定らしい。
障気=ナノマシン、で、生まれるってのは、ナノマシンとかによる実体化ってことなんだろうな……。
ちなみに浅いところに、NPCたちがつかまってます。
「戦闘、どれくらい前だったんスかね?」
草原には、青い草が生えていた。
踏み荒らされた後が隠されている。その生え具合から、前回から現在までに、どのくらいの間が開いているのかを教えてくれている。
「この様子じゃあ、かなり増えてんでしょうね」
まあっと、ねえさん。
「どうせ雑魚よ。気にすることはないわ」
カッケー!
肩をすくめるねえさん。そんなねえさんにしびれる、あこがれる!
いや、マジな話、さっき中ボスだなんだってぐだぐだ言ってたの、全部ひっくり返して、ひとりで殲滅しちゃえるからな、この人は。
そしてPKありなこのゲーム。逃げ遅れた人たちが、もう哀れで……。
……この戦場にも、ねえさん(が入ってるキャラ)の犠牲者がいたりするんだろうか?
そう思ってねえさんを見ると、なんとするりと、左腕に組み付いてきた。
「ありがとね?」
「なんスか?」
「レベル上げの手伝いとか、いろいろよ」
レベルキャップが外されて、ねえさんは人外なレベル帯を目指せる体となりました。
……けど、レベルアップ自体は、システムに沿わないと駄目なようで。
つまり、敵を倒せと。
でもなんか、ちょっと魔法がふるわない。
手加減してるようにも見える。
実際、俺へのツッコミもない。
本調子じゃないんだよな。だから俺も、いまいち調子が出てなかったりする。
怖がってんだろうか? 間違って殺めてしまうことを。
「アルタイユさん」
「ん?」
むっすーっと、ディーナだった。
ねえさんとは反対側の腕にくっついてきた。
「アルタイユさんはフラグにくっつき過ぎだと思います」
あ、ちょっと良い感じになっちゃってたかなーとか。
ねえさん、オモチャ見つけたみたいににんまりとかしないで。
「そう?」
「そうです!」
「でもあたしたち」
むにゅっと。
「こういう仲だもの」
おおう!
「ねえさん、あたってます!」「あててんのよ」
改行もないほどの返しがすばらしいッス!
「好きなんでしょ?」「大好きです!」
やばい、ローブ越しでもわかる大きさが怖い! そして直接的でない感触がすばらしい!
わかるかな? わっかんねぇかな? 例えるならキャミソールみたいなうっすぃーよりも、セーターみたいな厚ぼったい感じが良いみたいな!
「あ、鼻血でてきた」
「~~~!」
なんかディーナさんが悔しげですが。
「フラグはわたしのなんだもん」
きゅって、きゅって!
腕を組む力を強くして拗ねるとか!
う~~~っとか唇すぼめて、うなってるし! 涙目だし!
ちょっとだけ体重をかけて、自分の方に引っ張ろうとしてるし!
一周回ってカワイイキャラなんだけど!
(自演なんだょおおおおおおおお!)
ツンデレ全盛の時代、小動物キャラの方がよくね? って発想だった!
黒歴史乙!
なんだろう……ディーナが可愛いところを見せてくれればくれるほど……。
俺の中のなにかがガンガンと削られて行ってるような気がする。
「ふーん……」
あ、そぉ? って感じのねえさんに、びくびくとしてディーナは小さくなってく。
より一層ぎゅって抱きついたままで、俺の影に隠れようとする。
「でもディーナ? わたしのって言ったって、一緒に住んでるだけ……なんでしょ?」
む、それはちょっと気になってる。
フラグとディーナって、正直どうなん?
──ディーナは気まずげに目をそらした。
「ちゃんと付き合ってるもん、恋人だもん」
「でも一緒に出かけてるところ、見たことないんだけど?」
あたしはあるけどねぇっと。
ふふんとか鼻で笑わないでやってくださいや。
「フラグぅ……」
「ねえさん、勘弁してくださいや」
「はいはい」
仕方ないわねぇと。
「その代わり、フラグもレベルキャップを解放しなさい。一つ目だけでもかまわないから」
「めんどくさいッスよ……」
「手伝ってあげるから」
くいくいと引っ張るディーナだ。
「わたしも手伝う……」
これにはねえさんが反対した。
「ディーナはだめよ。最初のクエストの相手はドラゴンだもの。竜は精霊を狂わせるわ。精霊魔術の使えないディーナじゃ、攻撃力不足だし、盾役としても弱いもの」
具体的には発動不全、または誤爆が発生します。
「でも……」
むーん、そうなんだよなぁ。
ちらりとディーナを見てしまう。
一つの事実が発覚していた。
俺が入ってないディーナは、この世界的にはアバターではなく、半キャラクター、NPCとなっていた。
プレイヤーのサポートキャラ扱いだ。
つまり俺の。
てことで、ディーナには制限がかけられていた。レベル70の俺の三分の二、46かそこらに弱体化していたんだ。
「確かに、今のディーナじゃなぁ」
「そんなぁ」
すん……とか、鼻をすすって我慢してる。
いじましいなぁ。
でも、そう考えると、獣王との戦いで、いまいち攻撃力がふるわなかったのも納得できる。
本来のディーナなら……。
ディーナは諦めきれないのか、ぐずりだした。
「アルタイユさんが強いのはわかってるけど……」
「ねえさんはチートだから」
「フラグ、アルタイユさんに甘いと思う」
「まあなぁ……」
「どうして?」
「あたしとフラグの仲だものねぇ?」
「どんな仲なの?」
「知らなかったの? あたし、あなたよりも付き合いが長いのよ?」
がーんっと、なんかショックをお受けでないか?
「そうだったの!?」
「そりゃまあ、なぁ?」
ぽりぽりと頬を掻く。
「ねえさんには、色々と相談に乗ってもらったり」
「なんの?」
「ディーナの」
「わたしの?」
おかしな話じゃないよと。
「ディーナって、ねえさんみたいな特化型よりは、万能のサポートタイプにした方が良いのかな? とかさ。そういう話だよ」
実際、これは悩んだところだった。
異世界転生キャラとして想像した場合、特化チートタイプで俺TUEEEにした方がいいのか、それとも人に頼られる万能型を求めた方が良いのかって。
結局、万能型寄りの俺TUEEEになったわけだけど。
「まあ、特化型は、有利に戦うための環境を整えることができて、初めて絶対的になることができるもんだからねぇ。あんたのおつむじゃ、その環境を整えるってことが、難しいでしょ」
その通りだろう。
ねえさんは頭が良いし、想像力があって、発想も豊かだ。
だから体力がなくても、有利なフィールドを作り上げ、多数の魔法によって、単独制覇をこなして来ていた。
もし俺が魔法職で、魔力無限とかのチートを得たとしよう。
それを活かせるだろうかと考えてみると、答えは限りなくノーだった。
だけど精霊魔術なら、精霊が勝手に魔法を選んでくれる。こっちは望む結果を命じる、あるいは頼むだけだ。
ちょいと騎士寄りとなっているのは、俺の気弱さの表れだった。
「わたし、おつむ弱くないもん……」
いや、まあ、俺のことなんだけどもさ……。
「今んとこ、俺が強くなるしかないんですかねぇ?」
「なんか不利益があるってわけでもないでしょ? 倉庫としては、それで十分だったってのは、理解できるけどね」
ゲームだと、倉庫を鍛えたって、意味なんてなかたんだけど……。
この世界で、俺のせいで……ディーナの本領が発揮されないってのは、なぁ……。
ちらりとディーナを盗み見る。
ディーナは、カンストキャラではあるけど、チートキャラではないんだよ。
ディーナを使って、ねえさんのような、システム上、あり得ない偉業を成し遂げた……ってことはないんだ。
あくまで、普通に育て切っただけのキャラに過ぎない。
そう思えば、フラグでやり直すのも、悪くは無いかもしれないんだけど。
(……フラグ、気付いてる?)
ねえさんだ。
(この子、レベルキャップとか、理解している。それに、フラグと一緒に外で過ごしたことがないはずなのに、どういう育て方をした方が良いかって話をしてたってことに、疑問を持ってない)
はっとさせられた。
どういう風にってのについては、まだ良いと思う。
こんな風にやってったら良いんじゃない? とか、話をしていた、っていうことですませられるから。
でも、レベルキャップなんてのは、明らかにおかしいだろう?
それはゲームでないとあり得ない言葉、単語だ。
いや、でも……。
「俺のディーナに、秘密が?」
「女の子には色々と秘密があるもんだけどねぇ」
そんなジョーシキはいらんですよ。
「いてっ!」
なんだぁ!? っと思ってディーナを見たら……沸騰してる!?
だんだんと腕をしめる力が強くなって、頭からは湯気が!!
「俺の、俺の……」
いや、ディーナさん、そういう意味じゃなくて!
「落ち着けディーナ! 言葉のあやだ!」
「……っは! そっ、そうよね! あは、あはは」
「そうだぞ、こいつぅ」
あはははっと笑っていたら……また締め上げられた!
今度は関節極めて!
「言葉のあや!?」
「やめてゆるして!」
「フラグはわたしのことが好きなのか嫌いなのかはっきりして!」
「もちろん好きです愛してます!」
どんだけ苦労して作って育てたと!
「でも、フラグの好みでもないのよねぇ?」
ねえさん余計な一言を!?
……でも、実際のところ、そうなんだよなぁ。人にウケるキャラにはなったと思う。ネタ的にも申し分ない。
だけど、人から受ける好感度を重視した結果なんだよな。俺自身の好みで占められてるかって聞かれると……。
『あのぉ……』
『なんスか? シルフィードさん』
『ふと思ったんですけどね』
なんだか凄く言いづらそうに……。
『その子って、ゲームでは、フラグさんが使っていたユニットなんですよね?』
『そッスよ?』
なんか無言の間があった。
『……じゃあ、その子の中身って、実はフラグさんそのものだってことも』
ありえませんかって……。
『へ?』
『本当の性格は、フラグさんとそっくりなんじゃ……?』
『なん……だと?』
俺絶句。
ねえさん、ログで爆笑せんでくださいや。
俺は戦慄しながら見下ろしてしまった。
ちょっと拗ねて、唇を尖らせている。まつげなげー。
ぶつぶつとまだ何か言っている。
これが全部作られた仮面だというのか……。
「いや」
俺は思った。
「俺の夢は、モテ王になることだったはずだ」
でも男だとその夢は果てしなく遠い。
だけど、女の子の世界で百合ん百合んならどうだろう?
そっちに行けなくても、少なくとも女の子からの警戒心は突破できるはずだ!
診断メーカーの『あなたと付き合うための三つの条件ったー 』で、三つ目にホモって出て絶望したとか、関係ないんだからね!
男なんざいらんわー!
「俺、負けないから!」
ふーんっと。
「でも、道のりは遠そうねぇ」
だからねえさん! 胸をぐりんぐりんとかやめて!
「フラグ……もてたいの? ハーレム狙うの?」
わたしだけじゃないの? とか、お前も涙目で見上げるな!
うがーっとか、ことらん、急に存在を主張して暴れるな!
『見た目だけだともててるんですけどねぇ』
「その中から誰か選んどけよ」
レイドさん冷たい!
(だってねえさんは幼女だし、ディーナは中身が俺で、ことらんはケダモノで)
はっと気付く。
『シルフィードさんがいた!』
『わ、わたしですか?』
いや待て!
『2.5次元じゃねぇかああああああ!』
そういう問題かと呆れられたけど。
そういう問題なんですよ。
……とか阿呆なことをやりながら、俺たちは草原を抜けるために急ぐのであった。