フラグの半分は適当でできていますが、中の人はそれなりにはまともなので、時々豹変しますw
ぽんと放り投げて、ことらんを頭に装着。
定位置に据わったことらんは、『がおー!』っと咆えた。
……こいつ、いつか俺の装備項目の頭の欄に、名前が出て来そうな気がする。
ともあれ、早くしないと追いつけなくなるかもしれない。
俺はスタミナ任せに、ねえさんは早速の魔法とスタミナ回復の魔法を併用して追走に入った。
だけど、どうやったって走竜の方が早いに決まってる。
追いつけるか心配だったけど、追いかける作業は思ったよりも楽だった。
通行人が道の端に寄ってくれていたからだ。人を避ける必要がなく、真っ直ぐに駆けることができた。
中には、跳ね飛ばされたらしい人たちや、逃げ損なって押し倒された人たちなんかが、介抱を受けていた。
こんな街だ、回復魔法の使い手はあちこちにいる。
魔法を使用するエフェクトを横目に見ながら、俺とねえさんは眼前に浮かんでいるお尻を追って……。
「げふんげふん」
白い衣装から伸びる、間に挟んでもらいたくなるような、まっしろなおみ足の真ん中を目指して走っていた。
「にんじんつるされた馬か、あんたわ」
「いやん! 心を読まないでっ!」
もちろん、わざと会話モードの制限を解除して、ログに垂れ流しになるようにしてからの声だった!
声だった!!
おれはむっつりじゃないので、エロイことを考えるときには、必ず人の目にさらしているのだ!
「ただの変態じゃない」
「そう! 俺はただの変態じゃないっ、俺は……」
やべ。
「考えときなさいよ! そこは!!」
意味が違う! っていう突っ込みをさせようと思ったんだが、むぅ。
ボケは難しいもんです。INT低いからかなぁ。
「そこは関係ないと思うんだけど」
アホなことを言ってる間に、外門が見え始めた。
そこに、さらに俺たちを追い抜く走竜が四体。
「ディーナ!?」
騎手の一人が見知った顔だった。
っていうか見知った尻だった。
「フラグ!?」
むこうも驚いたようだが……俺がどこを見ているかに気付いて、お尻を押さえて去って行った。
「バカァ!?」
うむ、すまん。片手を立てて謝っておいた。
ゲーム中、第三者視点で視点を引いて、下から下からちょっとだけ上から撮影しまくってたのも良い思い出だ。
この世界には、見せパンなんてないからなぁ……w
ミニスカ以外の衣装? 知りませんよそんなものは。
ディーナにはミニさえあれば良い。
他にはなにも要らないから!
「良い台詞が凄い勢いで駄目な印象に塗り替えられてくわ」
「ディーナのコーディネイトの主な担当は、ねえさんでしょうが」
「てへぺろー(>ωっ)」
リアルに凝ったグラフィックを舐めんな?
なんと下着に陰影ついてるんですよ!?
ちゃんと山と谷と線があるんですよ!?
そこまでなら中身にだって期待して良いじゃないか!
「ちなみに中を見ようと挑戦しても、ポリゴンの中に入って裏面見ることになるだけなんだけどねぇ~~~」
「いやっ、今ならきっと!」
「まああたしも素っ裸だし……」
ちらっと合わせ目を広げるねえさん。
「…………」
「なぜそっと目をそらす!?」
「やめて! いま攻撃魔法とか展開したら、テロリスト扱いされちゃう!?」
っていうか。
「思い出したし。鷹の目!」
ゲームだと割と使いどころの多い魔法を起動する。
鷹の目は、第三者視点の延長上にある魔法だ。高空から辺りを見渡せるだけの魔法だけど、地形把握や敵性キャラの位置情報の把握など、フィールドワークには必須とも言える魔法だった。
「ひでぇ……」
だけど俺は、一団じゃなくて、その手前、外門のところで視界を止めてしまった。
「なにがあったの?」
「連中、門を突破するのに、魔法をぶっぱなして……」
「え?」
よくわからないというねえさん。
だけど、シルフィードさんにはわかったようだった。
「門は、検問待ちの人でいっぱいでしたから……」
ねえさんが顔を青ざめさせる。
そう、待ち合う人でごったがえして、詰まっていた。
あれだけの走竜と馬車の一団、その数じゃ、速度を落とさずに突っ切ることなんて不可能だ。
絶対に後続にとっ捕まる。だったら?
ディーナたちが、門を出ずに立ち止まってしまっているのが見えた。
ちょっと気になったんだが……、ディーナがここにいるってことは、これ、クエの一部なんだろうか?
ディーナはクエストのための遠出に出たはずだったから……でも。
うめき声に耳を塞ぎたくなる。
これはないだろ……酷すぎる。
「ディーナは行け!」
俺はディーナが乗っている走竜の尻を叩いて、そのまま追い越した。
「!?」
ディーナは勝手に走り出した走竜に驚いたものの、止めようとせずに、そのまま駆けさせた。
ちらりとこっちを見たけど、俺はもう、魔法の詠唱に取りかかっていて、気付かなかった。
今はこっちだ。
辺りはうめき声と怒号で酷いことになっていた。
血まみれの人、腕や足を失っている人。門に近い人ほど怪我が酷い。
抱き上げたり、血を止めようと手で押さえたり、回復魔法を使ったり……。
だけどどれも限定的な手当になっていて、命に関わりそうな重傷者だけで二桁。軽傷者を含めると三桁に達しそうだった。とても手が追いついてない。
「ねえさん!」
「もうやってる!」
俺の術式から、なにをやろうとしているのか察してくれたんだろう。
ねえさんはそれに合わせた、大規模回復魔法の使用に入ってくれていた。
光の円が足下に輝き、閃光の柱が幾条も立ち上る。
さらに粒子が舞い踊る。
大規模な魔法は、実行されるまでに時間がかかる。
それはエフェクトの開始から終了までの時間で演出される。
けれど、今は時間が勝負だ。
見たところ、突破するために人をなぎ払うような魔法を使っただけらしい。
死人がいないなら、なんとかできる。
護衛クエストというものがある。
NPCを護衛し、特定の場所まで送り届けるクエストだ。
この護衛対象には、回復魔法をかけることができる。
だけど、復活系の魔法だけはかけられない。
護衛対象が死亡すると、クエストは失敗となってしまうんだ。
この世界がゲームじゃなく、リアルで、母虎さんたちをギルドへ登録できたように、アバターじゃない人たちにだって、蘇生呪文を使用することはできるのかもしれないけどさ……。
俺には、そんな賭けに出るだけの勇気はなかった。
だから、その手前で間に合わせる。
俺にできることをやる。
「癒しの陽を!」
体育の授業でやった程度の動作で、生み出した光の玉を、下からぽーんっと打ち上げる。
ヒールライトは、回復効果のある光の玉を生み出す魔法だ。
Ⅰが初期、Ⅱで効果増、Ⅲがさらなる効果増+範囲増。
範囲は光の届く位置にいる、敵対属性外全てが対象になる。
持続時間は、俺が魔法をキャンセルするか、俺のMPが尽きるまで、だ。
この魔法は、間違ってもこんな大規模な災害、事件現場で使うような魔法じゃない。
だって、基礎設定はHP+1/秒、ただし、x対象の数、なんだぜ?
普通のパーティで六人体制だ。
それが、今は何十人だ?
発動と同時に、対象数が計算され、俺のMPから回復分がごっそりと削られた。
一瞬でMPが尽きかけた。だから……。
『呼んだ?』
うふふふ……と、俺の左の肩口に、あつぼったい唇をした、あやしいお姉さんの顔が現れた。
両方のこめかみの部分から、少し巻き上げるような形の角を生やしているお姉さんだった。
おおっ! と、驚いていることらんにも、にんまりとした笑みを向ける。
背中には皮膜でできた翼、お尻には細い尻尾で、足は宙に浮いて飛んでいる。
BOTで吸魔のインマーさんだ。淫魔さんじゃないからね!?
このBOTは体力を削って精神力に変換してくれるBOTだ。
ただし、常にMPが最大値になるように変換し続けてくれるので……。
「おおお! 頭が痛い!?」
頭痛と、めまいが、とんでもなかった!?
これがリアルの痛みというものか!
それでも、俺のHPなら、単純計算でも12秒ちょいは支えられるはずだった。
死にそうな人たちは、HPが秒間幾つ減ってるんだろうか?
ヒールライトⅢはHP+10/秒の効果がある。よほどでなければ助けられるはず!
そして俺が膝を突きそうになったとき、ねえさんの詠唱が終了した。
「女神の祝福を!」
……閃光だった。
目がくらむほどの光に世界が飲み込まれ、それが止んだときには……きょとんとしている、けが人だったはずの人たちがいた。
「すっげー……」
俺の苦労、なに? って顔をねえさんに向けると、ねえさんも驚いていた。
「りあるエフェクトすげー」
っと、つまーんなーいっと、インマーさんが消えた。
俺のMPが減らなくなったんで、戦闘終了と判断したんだろう。
「つかっ、ねえさん」
「んっ、行こう!」
っと、駆け出そうとして思う。
「走ってて間に合うかな? 今の分もあるし……」
「街の外に出られれば、あれが使えるから」
それがあったかと、俺は頷く。
「あれってなんですか?」
そう尋ねてきたのはシルフィードさんだ。
俺は、説明は後でと告げた。
どうせすぐにわかるから。
とうとう毎日更新逃しました(´・ω・`)