いろいろと後々のための仕込みを終えました。
俺たちがお互いに、あんまり本気で嫌がるもんだから、完全にわからなくなってしまったんだろう。
シルフィードさんは、聞いても良いのかな? って感じで、尋ねてきた。
「では、どういったお付き合いのふたりなんです?」
「「まあ……?」」
思わず顔を見合わせてしまった。
……ちゃんと話すほどの相手でもないよなぁ。
というわけで、適当に濁します。
「向こうでの隣人だったんですよ。マンション……借り宿で、隣の部屋だったんです」
「それが揃って……か」
確認させてくれと言ってきた。
「君たちの他については?」
「プレイヤーですか? 住んでるところはバラバラですね。数は結構居るみたいッスよ?」
「共通点は同じゲームをやってたことと、同じ日の同じくらいの時間に、こうなっちゃったってことくらいね」
シルフィードさんが推測ですがと話してくれた。
「それほどの大規模現象となると、入れ替わりは考えづらいですね。意識体だけが複写、あるいは転写されたと考える方が妥当でしょう。確率的に、その方が高い……というだけの気休めに過ぎませんが」
why?
「すんません、頭悪いんで、もうちょっと砕いてもらえますか?」
「波動はわかりますか? 距離も時間も影響しない、事象の絶対の形のようなものです。もし二つの場所で、まったく同じ波動が存在したら?」
おおう、それって、俺が持ってる魔法理論と、根っこが同じなんじゃ……。
「両方がまったく一致した瞬間に、『均された』?」
「ああ、それが一番、適当ですね」
くああ! っと、俺は頭を抱えようとした……ら、ことらんが膝の上だったので、ことらんの額に頭くっつけたみたいになった。
……なんかくすぐったくて癒される。
「転生じゃなかったのかぁ……」
ことらんの後ろから額に額をくっつけてぐりぐりやってたら、ことらんも首を伸ばしてぐりぐり仕返してきた。
ぐりぐりぐりぐりw
なごむー。
とか、んなことやってたら、シルフィードさんに笑われてしまった。
「そう思ってても、問題がないんじゃないでしょうか?」
「なんでです?」
「今ここにいるあなたは、このままで生きていくしかないわけですから」
「向こうの俺とは、どうにもならない?」
「そうですね。あなたたちは、偶然の一致から、こちらの擬体に移り住むことになった精神体に過ぎません。元の世界……宇宙、銀河、惑星が、どこにあるのかも、もしそれがわかったとしても、戻るまでにどれだけの距離があって、時間がかかるのかもわかりませんから」
「想像してみるか?」
俺は体を起こすと、ことらんの両脇の下に手を入れて、持ち上げ、横座りにさせた。
「やめときます」
にくきゅうをもっきゅもっきゅと揉んで遊ぶ。
ねえさんが、よこせと、ことらんを持ってった。
ねえさんも、もっきゅもっきゅとやりはじめる。
「時間の無駄ね。こうやってる方が有意義よ」
「ですよねぇ」
淡泊すぎるかもしれないけどなぁ……。
「君たちは、本当に軽いなぁ」
ねえさんが答えて返す。
「言ったでしょ? 未練なんてないのよ。むしろ望むところ? こっちのフラグなんて、もともとこういう目に会いたいって言ってた口だしね」
尊敬の目を向けられてしまった!
「すごい人間だな、君は」
「いやそれほどでも!」
「呆れられてんのよ」
宇宙人様はこのテンプレなやり取りを理解してくれるだろうか?
でもま、と、ねえさん。
「フラグ、あんた、この話……」
あいさー! っと俺。
「墓まで持ってきますよ」
その方が良いと、シルフィードさん。
「皆がみな、あなたたちのように、前向きでも……刹那的でもないでしょうから」
「戻れる、と思って頑張ってる奴らもいるんだろうしなぁ」
切ないことだがと、レイドさんが話を切り替えた。
「となると、俺たちがどうするか、なんだよな」
「ですね」
ふたりは船を見上げた。
「シルフィード、船体の浮上は?」
「ただ浮かせるだけなら可能です。補助ユニットでのこととなるので、持ち上げるのが精一杯となりますが」
「なら軌道上にやっちまっとこう。ここじゃ目立つ」
そうねとねえさん。
「下手すると、新しい遺跡扱いで、あらされるかもよ?」
「空に浮かべたら浮かべたで、天空の城扱いじゃないッスか?」
「どっちがマシかって話ね。で、そのあとは?」
「君たちと一緒に行ってもいいかな?」
俺たちは顔を見交わしてから、揃って肩をすくめた。
「まあ、そうくるとは思ったけど。理由は?」
「いるかい?」
「だって、あんたたちの装備なら、あたしたちを頼る必要はないでしょう?」
それでも穏便に済ませたいんだと、レイドさんは言った。
「常識知らずが、常識無しの能力で暴れ回ったりしてみろ、どうなるかわかってる」
「なら、あなたたちの仲間として、あなたたちから報酬をもらい、影に隠れて名前と信用を売っていった方が良いと思えるの」
「そうして、独立できるようになったら、それはその時のことだな」
まあ、確かに俺たちと違って、この二人はこの世界の生まれじゃないわけで。
俺たちはもとからギルド所属って立場でスタートしてるから、ある程度は自由が保障されてるけど。
二人は、それを作るところから、ってことになるもんな。
「それはそれで、面白いことになりそうッスね」
なんだ?
二人が苦笑した。
「いや、確実になるさ」
ねえさんには、なにかピンと来るものがあったらしい。
「それ、迷子になった人たちが、この世界を作ったって話に繋がるの?」
「まあな」
「どういうことッスか? ねえさん」
頭使えと馬鹿にされた。
「良い? この宇宙で迷子になった連中が、手持ちのもので生きていける世界を作ろうとした。それはどうやら、惑星まるごと、レジャーパークか、テーマパークにしてしまえるもので、とりあえず環境を整えるために人手が必要になったから、住民を作った。んで、人が行かないような場所や世界を活性化させるために、モンスターを離した」
……微生物みたいだな、モンスター。
食物連鎖の下層で、大地耕して肥やしてるのか。
「だけど、彼らが手を付けることにしたものは、もともとは商売用の娯楽ものだったってことね?」
はいとシルフィードさん。
「その、元は遊興用であった改造されたシステムが、今、あなたたちが利用しているものの正体です。そしてシステムは、根幹に位置しているものなので、今更切り離すことはできないでしょう」
「当然、イベント的な出し物も、外すことができないってわけだ」
「それがクエストッスか……」
「そ。だけど、クエストは、君たちプレイヤーが干渉する限り、問題の起こるもんじゃない。何時間、何日、何ヶ月、何年、何百年、何千年ってスパンで、分岐しながら実行され、処理される」
「ですが、わたしたちは、その括りからは外れています」
ああっと、手を打つ。
「あんたら、バグか!」
そういうことだと、レイドが手を組んで、テーブルの上に肘を突き、橋を作った。
その手の影から俺たちを見る。
「だから、うまく潜伏してやらないと、駆除されちまうんだよ。協力してくれ」
いや、そこ、にやりと笑うところなんスか?
いかん、この人たち、絶対何か面白くするつもりだ。
「そのかわり、できる限りで、美味しい思いをさせてやるからよ。そうだな……そのアバターをクラックして、レベル、か? その上限を外すとか、どうだ?」
どうだ……って言われても……。
ねえさんは、それは美味しいわねと言って……けど。
俺は飲みませんでした。
だって、その選択は、俺の主義に反してたから……。
長々とすみませんでした。次回から旅に戻ります。
設定だけ一気に列挙してしまうよりはと思ったら、こんなに長くなってしまいました…にしても…。
フラグとねえさんの事情は、ラブコメ風味で短編書きたくなる勢いでしたが、さくーっと流しました。
これ以上、長くなるよりは、また作中のどっかで語った方がいいかなと。
さて……フラグの選択がどうなのかは、人それぞれってことで。
改造データでゲームをするかどうかって、人に寄りますからね。