三十歳だけどエロ担ですw
船は、自分で掘った溝に、木々を押し倒した形ではまっていた。
見上げる。でかい。予想以上だ。
「闇竜よりは……小さいですかね?」
「どうだろ? 白竜くらいじゃない?」
……下手なビルより高いよな、これ。
学校の校舎よりでかいか?
とにかくでかくて、見通しの良いところからみないと、よくわからないな。
近くまで寄る。船自体の熱はあっても、延焼するほどの強さはなく、落ち着いていた。
ねえさんの魔法のおかげだろうけど。
溝はぬかるみ始めていた。というか、雨水が流れ込んできて、川のようになり始めている。
ねえさんが雨の魔法を消す。
すぐに雨雲が消え、もとの晴れやかな青空が戻った。
俺たちは溝を上がって、今度は船首へと向かってみた。
「鬼が出るか、蛇が出るか……」
くっ! 言ってみたい台詞を取られた!
なに横目に、にやりとか! くやしい!
とかやっていると、船に急激な変化が訪れた。
船体から、光の粒子が立ち上った。
それらは徐々に数を増して、密度を濃くし、人の形を取り始めた。
船首から後頭部を起こすように、仰向けになっていく、巨大な女性の像を象っていた。
落ちていた髪が、ばさりと振られて、背に落ち、胸に流れた。
こちらを見た……と思った次の瞬間、それは消失し、俺たちの前に、一人の男が立っていた。
男は白い胴甲冑を身にしていた。
タワーシールドと、長剣を身に帯びている。
二十歳代だろうか? 後半っぽい。
うーわーと、俺とねえさんはなんとも言えない顔つきになってた。
おーおー! と、ひとりことらん、大はしゃぎ。
ばこんばこん痛いから! にくきゅうハンドで叩かないで! あたま痛いから!
男は顔を上げると。
「やあ」
……と、人なつっこそうな笑みを見せた。
彼はきょろきょろとすると、自分の背後へと問いかけた。
「ここが新たな世界なのか?」
「はい、勇者様」
その右後ろに、さっきの巨大な女性が、人と同じ大きさになってたたずんでいた。
つま先が地面に着いてない。
浮いていた。
その人は光を纏っていた。
白く透けた肌を持ち、光の粒子を乱舞させ、絹の衣を纏っていた。
ちっ、さっき素っ裸だったのに、なんで服を着てるんだよ……。
ついでに衣が透けてるんだが……なぜか見えてるのは肌色じゃなくて、その向こう側にある宇宙船の外装だ。
ねえさんの呟きが耳に入った。
(テンプレ女神ktkr)
俺としては精霊様を押したい。
……と、そんなことを思っているとは考えてもいないんだろう。
勇者と女神様は、台本でもあるみたいな会話を続けてる。
「く……くくく」
「ね、ねえさん?」
なんか三文芝居がツボに入りましたかね?
ひっじょーに嫌な予感に襲われた。
「あなたが……その、勇者様、なの?」
男はねえさんの問いに答えた……。
「俺は、役割を持って誘われたものです。この白のゆりかごに」
「ほー、へー?」
「? ……信じられないかもしれません。だけど、俺はこの世界の人間じゃない。もしよければ……」
ねえさんは顔を伏せ、髪で顔を隠し……なんか震えてるんですけど?
「ああ、もう、フラグ……あたし、限界だわ」
「……あいさー」
「ねえ、勇者様……」
じりじりと下がる俺。
「なんですか?」
「証明……してくれます?」
「なにを……!?」
ねえさんが、ローブから右腕だけを突き出し、無詠唱でビームを放った。
自称勇者が身を横にして、間一髪で避ける。だがおしい!
それは対象を指定して放つ魔法だ。
当たって初めて発動するという系統の魔法は、避けたところでプロセスが完了されていないため、実行は当たるまで継続される。
当たるまで追いかけるそれは、自動追従型と言える魔法だった。
「くっ!」
勇者は盾で魔法を受けた。
勇者の姿を覆うように、歪みが見えた。
「バリア!?」
構えられた盾の前に、ビームは幾つにも別れて散らされた。
「なら!」
今度は雷撃を放つ。
「無駄だ!」
これもまた、電はスパークしながら、歪みの前に拡散させられた。
間近くに居たためか、女の人が一瞬ぶれて見えた。
そのぶれかた……映像の上に走ったような櫛形は……。
「ノイズ?」
俺がいちいち驚いていると、勇者が慌てて待ったをかけた。
「待ってくれ! 争うつもりはないんだ!」
勇者、必死だな。
「俺たちは敵じゃない! だが、問答無用となれば、相手をせざるを得なくなる!」
「上等!」
「なんだと!?」
ねえさんが飛翔魔法で飛び上がる。
なんだあれ……このゲーム、マジで空飛べたんか……。
黒のマントを巻き付けて空を飛ぶねえさんに、勇者たちが動揺を見せる。
「ESPか!?」
「いえ、大気成分に混成しているナノマシンが、重力制御場を形成しています」
「重力制御!? ナノマシンが? ウイルスじゃなかったのか?」
「そうでもあり、そうでもない、ということのようです。彼らの肉体は、その作りの異常性から、多量のカロリーを必要としているようです。ナノマシンはウイルスとして、人外の運動量に見合った高カロリー栄養素として消費される形の他、本来の、ナノマシンとしての役割、魔法のような非科学的な現象を演出するものとして、活動もしているようです」
「キャラクターの思考に、ナノマシンが反応し、現象として構築してみせているわけか」
「そうなりますね」
ねえさんが、やっぱり……と、くつくつと笑った。
「ダウトぉ!」
「は!?」
「なにが勇者じゃ! 勇者とかゆりかごとかいう奴が、ナノマシンとかウイルスとか言うか! そいつはどう見ても宇宙船だし! あんたは大根役者で! そこの女はホログラフでしょうが! 本当にありがとうございました!」
ねえさんは頭の上に両腕を掲げた。
生まれた火の玉が、広げるのに合わせて、火球へと育っていく。
勇者が焦って待ったをかけた。
「待てっ!? 君は科学がわかるのか!」
掲げた火球を放り落とす。
「君たちはキャラクターやアクターではなく、プレイヤーなのか!?」
プレイヤーだと?
俺とねえさんは、同時に反応していた。
ねえさんには、その単語についても、報告していた。
獣王が口走ったものとして。
だけど、ちーっと遅い。
実行後の魔法は消去できない。
やばいなー、あれ、レーザーと違って、火球だからなぁ。
落ちた後も燃え広がるんだよなぁ。
雷撃の魔法は盾……風味のバリア発生装置だよな、あれ。あれで対処してたけど、あのバリア、全周囲から襲ってくる熱が相手でも身を守れるのかな?
……無理っぽいな。
灼熱地獄に生身とか。あの人、死んだな。
なーむー(- 人 -)
安全圏から、お祈りしてみたら、ことらんも頭の上で、真似をした。
なむなむw
「わたしが!」
女神様が炎の前に出て、両腕を広げた。
なにかその周囲に……あれ、ウィンドウか?
十以上のウィンドウが開かれ……って。
俺は目をまるくした。
「ウィンドウだって!?」
しかも、あれ、メニューとか、ステータス画面じゃない!
コントロールパネルか!?
女神様が何かを実行し、両腕を前に出した。
両手を前に、魔力っぽいのが渦を巻いて放たれた。
火球が魔力にほどかれていく。
削るように、帯となって、端から消失していった。
──分解された!?
その力は炎を消すだけにはとどまらず、余波が姉さんをへと襲いかかった。
ねえさんが体に巻き付けていたローブを巻き上げて、強制的に大きく広げた。
「きゃ!」
演技じゃない、それは中の人の声だった。
俺たちは真後ろからお尻を、正体不明の宇宙人共は……たぶん真っ正面から見上げる形で……。
……ねえさん、なんでまた素っ裸になってるんスか。
マントを巻き付けてたの、また裸になってたからなんですね。
いたたまれない空気が流れてった……。
「なんでまた脱いでんだ、あんたは」
ねえさんが、きゅーっと赤くなっていく。
「ばかぁ!?」
ちょっ!? だめ! それメテオストライク!?
俺の上に!
「ばかやろー!?」
なんでこっち来る!?
空間を裂いて現れる、直径十メートルほどの岩塊。
ことらんと一緒に逃げ惑う。
くっと赤くなりながら、ねえさんは体をローブで隠した。
「あんたたち、一体、なんなの!」
いや良いから! 今は良いから! かっこよく振り向いてなかったことにしてないで! 顔真っ赤なままだし! こっち助けて!
「擬体からのコントロール波を感知。ナノマシンの活性と、空間干渉を確認。彼女が使用しているものは、改造型のアバターです」
「あなたは、やっぱり、プレイヤー、人間なんだな!」
お前らもこっち見んかい!?
ゲームじゃねぇんだよ! 突っ込みで隕石落としとかねーよ! リアル舐めんな!?
「あんたたちは、管理者なの?」
「君たちは、難破船の生き残りか、子孫なのか?」
「無視すんなやこらぁ!?」
装備チェンジ。打者モード。
バットを構えて三人へ。
「ばかっ、やめなさい!」
気付いたねえさん。でも遅い。
このバットは、運営が、某虎印の球団が優勝した記念に作って配ったチートアイテムだ。
その身には、制作者がもらったというサインが、レンダリングされている。
地に伏せたことらんの頭上で、俺は隕石の真芯を捉えて打ち返してやった。
どんな魔法も、芯を食えば打ち返せるという……ただし、スキル補正は無し。
純粋に、使いこなしたかったら、生身でバット振ってこいという酷いものだった。
ちなみに制作者が、優勝ごとに配るというフラグを立ててくれたためか、虎印さんの優勝は、どんどん遠くなって行ってるみたいです(´・ω・`)