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て、てこ入れなんかじゃないんだからね!

「無限に広がる大宇宙、か……」


「殺意のわく言葉ですよねぇ……とくに漂流中だと」


「まったくだ」


 彼が漂っているのは、銀河と銀河の狭間にある空間であった。


 宇宙戦争も亜光速があたりまえとなると、一戦闘領域も銀河規模へと拡大し、ドッグファイトに夢中になれば、指標のない空間へ飛び出してしまうこともしばしばであった。


 迷子の誕生である。


 外から見る銀河の群れは数多く、自分がどの銀河からやってきたのか、わかるものではなかった。


 意外と多くの電波は拾えるので、その中からあたりをつけて、あとはコールドスリープを併用すれば、運が良ければ戻れるかもしれない。

 ただし、戻ったときには数百年、数千年、数万年が平然と過ぎていて、戦闘は終結し、別の区域──銀河へと、戦域が移動している可能性があった。


 戦闘自体が、光速を越えているために、他の艦船とは時間の流れが違ってしまっている。

 そのため、普通に戦闘をしていても、母艦へと補給に帰還すれば、船の中は世代を交代していた……ということもよくあった。

 あちこちで、違った時間の流れの中で戦うことになるため、それを修正するような無駄な行為は排されていた。

 現在では、言葉が通じて、倫理や道徳観がかけ離れないように、電子精霊、電子妖精によって、適宜修正が行われている。

 だから、戻ったときに、もう知った顔に会えない……ということは、日常的なものなので、特に悩むようなことでもなく、彼らとしては、元の戦域へ帰還するか、それとも生存可能な領域へ避難するべきか、そのことだけが議題として上がっていた。


 彼らもまた、戦いに身を置く者だった。


 宇宙戦争とは言え、巨大な陣営があるわけではない。利害の不一致によって起こる小競り合いが、拡大しているだけであった。

 狩る者と狩られる者に別れ、かすめ取る者や邪魔者などが現れる。

 結果、何十という軍団が入り乱れ、混戦を究める結果となる。


 彼は、そんな軍団の一つに、自分を売り込んだ傭兵だった。


 ただしくは、自分の作った船の威力を見せつけるために、参戦した者だった。

 正面からは菱形、上方からは、前方に長い二等辺三角形、後方に短い二等辺三角形をくっつけた形をした、白亜の船だった。

 左右には本体を小型化した艦を接続し、補助艦……というよりも、翼のように扱っている。

 その翼の後部からは、青い炎が伸びていた。ジェットではない、不可思議なエネルギーだった。


「無限加速って、無理合ったかなぁ」


「一瞬ですっとびましたもんねぇ」


 補助艦は前方の空間密度を操作し、薄くする。


 この結果、艦全体が前に吸われ、引っ張られ、加速する。


 後方に流れる光は、破壊された空間の残滓であった。


「どうするかなぁ」


「艦内の農場(ファクトリー)は稼働していますから、百年は大丈夫ですよ?」


 コクピットシートに座る男性の年齢は二十歳ほどだった。


 その右手、肩の辺りに、ふわりと女性が浮いている。


 十代前半とも、二十代後半とも思える不思議な女性だった。透けている。


 顔が幼く、髪は長く、ふわっとふくらみ、その体は細身ながら、触れたくなるような柔らかな量感を持っていた。

 だが決して触れることはできない。

 彼女は艦の電子精霊──ホログラフィックであった。


「俺の寿命の方が先に尽きるわ」


「ですよねー」


 口元に右手の甲を当てて、ころころと笑う。


「じゃあ子供でも作ります?」


「なにが悲しくてダッチワイフ相手にクローン作らなきゃならんのだ」


「ちゃんと中に入ってあげるのに」


「勘弁してくれ……」


 パイロットが人間である以上、生理的欲求の存在は避けられない。

 が、男、レイドはその手のことが苦手なのか、恥ずかしいのか、焦った様子で彼女を落ち着けた。


 電子妖精は、絶対にパイロットを嫌うことがない。

 そのようにプログラムされているからである。

 でなければ、命のやり取りをする場所で、パートナーとして信頼することはできない。


 彼女、シルフィードもまた、そんなプログラムがインストールされているという前提の元で、成長、育成、変化してきた、まさに理想のパートナーであった。


 ただし、本来の持ち主にとっての、である。


 この艦(シルフィード)が完成する直前に、艦の強奪事件が起こりかけた。その際に、本来のパイロットが死亡し、設計、建造にあたっていたレイドが、シルフィードのパイロットとして、登録を行ったのだ。


 このために、シルフィードは親友の恋人、幼馴染みだった人、そのような、友人的な感覚の存在として、性格付けが行われてしまっていた。


「で、だ」


 レイドは、目の前をふよふよと仰向けに漂いながら、複数の投影型ウィンドウを操作している彼女を眺めた。


「それだけ落ち着いてるってことは、なにかあるんだろ?」


「なにかってほど、良い話でもないんですけど」


 はいっと、ウィンドウの一つを押して流す。

 その電子表示を受け取って、レイドはページを繰っていった。


「救難信号?」


「何千……何万年前のものかわかりませんけど、億年単位じゃないですね」


「これが良い話か?」


「運が良ければ、この人たちの子孫が、居住可能惑星で、文明を築いていると思います」


「滅んでなければ……ってことだろ?」


「ひとりぼっちよりは良いんじゃないかと」


 移民船団や商船、娯楽使節団など、銀河間を航行し、行方不明になっている例は数多い。

 どれだけ注意したところで、運が悪ければ光速近くまで加速した岩塊に貫かれることだってある。あるいは、空間の歪みに飲み込まれることもだ。

 そんな状態でも、帰還が難しいとなれば、手短な星を見つけ……それが居住可能惑星ならなお良いが、場合によっては惑星改造を行い、星に根付いて生涯を終えようと、彼らは前向きに散っていった。

 これらの子孫が、遥かな後に発見されると言うことは、珍しくなかった。


 シルフィードが見つけたのは、そのような者たちが、大昔に発信したのであろう信号であった。


「ま、行く当てもないし、行ってみるか?」


「と、いうか、もう、向けちゃってますけどね?」


 勝手にしてくれと、レイドは肩をすくめ、そのままシートの機能を立ち上げて、スリープモードへ移行した。


 次に目覚めたとき、彼は大気圏を自由落下中という、燃え尽きる直前の状態になっていた。



 ……そしてその頃、彼らが向かう先で、主人公は。



「ディーナさんは怒ってクエストに。家主の居ない家で母虎さんに食べられちゃうのはまずいと思った俺は、旅に出ることになったのでした」


「誰に言ってんの?」


 突っ込みはねえさんです。


「食っちゃえばいいじゃないの」


オタク(ヘタレ)を舐めないでよね!」


 臆病な生き物なんです。


 俺たちはいま、見渡す限りの平原を歩いてます。

 おお、ギガンディアスよ、いつの日か。


「テレポートで即帰還だけどねー」


「情緒がない!」


「子虎にコトランって名付けたあんたよりマシ!」


 コトランちゃんは、エリマキトカゲっぽい体長一メートルくらいのなにかを追いかけて行っちゃいました。


「行かないで~~~!」


 母虎さんに殺されるから~~~!


 しかも速ぇえよ! あっという間に見えなくなったんだよ!


 気がついたら俺の荷物がもっこりしてて、コトラン押し込んだのは母虎さんらしかったです。


 母虎さん、どういうつもりで……。


 だがしかし、わかってることが一つだけ……。


 コトランになにかあったら、俺、きっと狩られる……。


 そんなガクブル状態で、俺は現在、迷子のコトラン捜索中です。

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