戦闘は次回から!
俺は混乱していた。
運営側の活動が終わって、ただのイベントキャラに戻った。
そんな感じだった。
だけど、そんなに簡単には、切り替えられない。
割り切れない。
「ディーナ」
「はっ、はひ!? なに!?」
「お前のクエストを教えてくれ」
「……え?」
「早く!」
怒鳴ると、ディーナはびくんと体を震わせた。
怖いのか、びくついているが、関係ない。
教えろと、無理矢理に迫った。
竜、狼……そして虎。
この三種は、三強と呼ばれる種族である。
その一角である、とある虎種の一族に危機が訪れていた。
この国の虎種の中には、ギルドマスターとも親しいグループが存在している。
ギルドマスターと契約していた虎種がいて、その家系がいまでも繋がりを保っているからだ。
その虎種のテリトリーが、ゴブリンに犯されたっていうんだが……。
……俺が母虎さんと子虎さんを助けたから、起こったクエストだってことらしい。
こんなクエスト、ゲームの中にはなかったんだが……。
とにかくだ、虎種が危機に陥るような事態だからと、ギルドに登録されているメンバーの中で、最上であるディーナのチーム、ザ・プラクティスが選抜されたが……あいにくと、ディーナには、他のメンバーを集めることができなかったらしい。
そのメンバーというのが、俺には大きな問題に思えた。
急ぎであったため、連絡を取ろうとしたんだが、あいにくと捕まえることができなかったと言うんだが……俺が気にしたのは、その理由だった。
もしかすると、俺と同じなのかも知れない。
もし、本当に、、その連中が、なにかしらのクエストに出ているだけだったのなら、問題はないんだけど、俺と同じ、元プレイヤーだったなら?
もしかすると、それどころではなくって、引きこもったり、拒絶してしまったりしているのかもしれない。
ともかく、そんなディーナに話しかけてきたのが、あの連中だった……ということだ。
……即席メンバーだったのか……道理で知らない連中だったわけだ。
あいつらは、不正にログインしていたプレイヤーだった。だから直接ギルドで仕事を負うことができず、困っていたディーナに目を付けたんだろう。
不正ログインは、普通にプレイしている程度では、見つかる頻度は低かったりする。それこそ一個のサーバーに、常時三千人前後がログインしているし、運営だって、枯れたゲームに、そこまでちゃんとした監視の手を入れているわけじゃない。
それでもだ、クエストなどのイベントとなると、話は別だ。クエストを受ける際に、キャラクターの正規情報がチェックされる。
クエストの一部は、課金によってオープンになるものがある。
初期クエストや、無料の追加クエストは、タダとして処理される。
この課金チェックが、クエストの発生するキーキャラに話しかけた際に、行われるんだ。
そして、コンテンツが解放される。
プログラムを改編して、クエストをオープンにすると、NPCの会話内容など、つじつまの合わない部分が大量に発生してしまう。
それをクリアしたとしても、アップデートの度に、プログラムは細かく変更されてしまうので、まったく労力に見合わない。
だから、この方法を取っている人間はかなり少ない。
それに、だ……もっと簡単な方法があったりする。
それが、連中の取った方法だった。
後から、クエストを受けたパーティに加入する。それだけで良いのだ。
この方法でなら、イベントは見られないが、課金の必要はなくなるし、特典は受けられる。
特典を受けるのが、依頼を受けた、ディーナだからだ。
特典は、彼女からの分配を願えば良い。
その方法でなら、ただのトレードだ。チェックされることなく、レアアイテムを手に入れられる。
もちろん、エクレアアイテム……エクセレント・レアアイテムは、譲渡不可だ。
こればかりは諦めるしかない。クエストを受けた人間だけが受け取れ、手伝った人間には渡らない。
そのため、普通、6人パーティなら、6回、同じクエストをこなすことになる。
全員が、手に入れたいわけだからな。
だけど、不正にログインして、ゲームをやってる連中は、あんまりそういうのに、こだわりはない。
もともと、アイテムだけが目的なのが、多いからだ。
その理由は、RMTだ。
アイテムの現金化。
そのためだけのクエスト制覇。
どこのMMORPGでだって、あることだ。
ただ……普通、イベントシーンは、コンテンツが解放されてないと、プログラムが追加適用されないので、見られないはずなんだけど……。
(そこは、現実だから……ってことか)
それにしたって……と、俺はこの惨状に眉をしかめた。
普通は、クエストを請け負う時に行われるはずのチェックを、イベントで出て来るボスに行わせたのか?
そりゃ、クエストをこなしていくことが、ゲームの主な目的なんだし、必ず通るところなんだから、仕掛ける場所としては正しいんだろうけど……。
だからって、こいつは、強いとかなんとかって話じゃないだろ。
「勝てる気がしねえー……」
「フラグぅ……」
ディーナが不安げに身を寄せてくる。
背中を小さな手がぎゅっと握ってくる。
すがるように体重を預けて引っ張り下げる。
俺は、肩越しに目をやった。
長いまつげ、潤んだ瞳、桜色の小さな唇。
鎧を着込んでいるというのに、こんな森の中だというのに、少女を感じさせる柔らかさと体臭を感じられる。
可憐だ……と思う。
守らなきゃと思ってしまう。
……自演なんですけどねー!
ちくしょうっ! なんだこのむなしさは!!
俺がやってたことを、素の行動としてコピッてんだろうか?
せめて演技でないと思いたい(⊃Д`)、
それでも、まあ。
「まかせろ」
俺は、ぽんっと彼女の頭に手を置いて、獣王の前に立ちふさがった。
本当の意味で、このディーナが俺が演ってたディーナと同じなのかどうかはわかならい、けど。
「俺のディーナに、手ぇ出すんじゃねぇよ」
育ててきた俺には、俺のディーナにしか見えなかった。