そのにー
「ちょっ、おま!?」
盗賊の頭っぽいのが、はっとしたように声を出した。
もちろん俺は……全力ダッシュだ。
「まちやがれ?」
なんで疑問系なんだよ? でも追ってくる。
馬鹿め、倉庫キャラっつっても、レベルが低いわけじゃねぇし。
メインキャラが装備できない、あるいは使わなくなった、もしくは問題が出るかも知れないアイテムを試すためにも、倉庫キャラってのは存在している。
レアアイテムは、まだ受け渡しができるから良いんだが、エクステッド以上のものになると、基本的に受け渡しは不可だ。
そうなると、倉庫キャラ自身に取らせるしか無い。
そのため、レベルやスキルが低いってわけじゃない。
(っつーか、ステータス見たいんだけど、この状況だとちょっとなー)
視界いっぱいにウィンドウが開いたり、あるいはそれが他人から見えたりしたら最悪だ。
どう思われるかわからない。
でもまー、この足の速さだと、ステータスは改変されてないみたいだ。
その理由は景色の動きだ。
俺がやってたドラゴンレジェンドってゲームは、名前からもわかるとおり……頑張りすぎたクソゲーだった。
その一つが、余りにもリアルすぎるグラフィックだ。重すぎて一般家庭のパソコンじゃ、エフェクト一つで秒間十フレームあるかなしかのカクカクになる。
そして無駄に凝った設定だ。
世界観とかもそうだけど、めんどくさいのがスキル群だ。
歩く、走る、飛ぶ、跳ねるとか、飛ぶってなんだよ?
飛べんのかよ、人?
斬る突く刺す……刺すと突くってどう違うんだ?
とにかく細分化がとんでもない。
その代わり、組み合わせ次第で恐ろしく面白いことができるようになる。
ネタゲーとしては……まあ、廃人になら面白いんじゃね?
たとえば外見だ。このゲームは、恐ろしいほどアバターの外装について凝ることができる。
もちろん基本パターンは用意されているし、そこから初めても良いんだけど、大抵の人間は、自分の理想のキャラを作りだそうと躍起になる。
ミリ単位で髪の長さを決め、髪の曲がり方を決め、髪型を決め、顔の大きさ、目の大きさ、鼻の大きさ、口の大きさ、それらの距離、幅を決め……。
気がつくとそれだけで飽きてしまう恐ろしさだった。
しかし、そうやって乗り越えたのが俺のカンストキャラ、ディーナだったんだが……。
まあ、今は良い。とにかく、走るにもスキルが設定されている。
ヴァーチャルリアリティが売りなだけに、走る速さが違えば、当然景色の流れ方も違うわけだ。
そこから、このキャラのステータスが、ほぼ維持されていると想像できた、けど……。
「名前、ちゃんとしとけばよかったな」
フラグ。
それが今の俺の名前だった。ちなみに某ゲームの手榴弾っぽいやつのことじゃない。
お約束、フラグから付けた名前だった。