転移転生したからには主人公化してもらいますw
かちかちと歯が鳴っている。
ディーナは、死ぬと悟ったようだった。
「そのまま押さえてろ!」
「じゃあな!」
ディーナを置き去りにして、二人が逃げる。
そんな……と、ディーナは、振り向きたい衝動を堪えているようだった。
プレイヤーの二人は、ディーナのことなど気にもしないで、駆けていく。
NPCだとでも思っているんだろうか?
プログラムだから、使い捨てにして殺しても問題ないと思っているんだろうか?
捨て石にされたと、置き去りにされてしまったディーナの顔に、絶望の色が広がった。
気力の減少とともに、剣を支えることができなくなって、切っ先が重く、下がっていく。
その姿は、計算なんかではなく……。
心のある、存在だった。
虎種が動く。
殺意が巨大な影となって、小柄なディーナを押し潰す。
「ディーーーナーーー!」
そんな未来絵図なんて見たくない!
俺は茂みから飛び出して、ディーナへと突進した。
「フラグ!?」
俺はディーナの体を抱きかかえ、すっ飛ぶように転がった。
抱きかかえたとき、ディーナの驚きが呟きとして聞こえたが、それどころじゃない。
ディーナと一緒に転がった後で、庇うように背にしてひざ立ちになる。
獣王が来る! っと、俺はナイフをかまえたんだが……。
「へ?」
獣王がいない。
獣王は、俺たちを無視して、大きく飛んでいた。
「げぇ!」
「こっち来た!?」
まずは装備の重い騎士がつかまった。
獣王の巨体──二百キロとか、三百キロとかあるんじゃないだろうか?
そんなものが、両足から落下した。
騎士を背中から踏みつけ、踏みつぶす。
騎士は、足、膝、体と、かっくんと、こっけいに潰れていった。
ぐちゃりと踏みつぶした獣王は、今度は四つの足で大きく跳んだ。
「ひっ、ひぃ!」
軽戦士が、後ろから迫るものに恐怖した。
獣王の前足が軽戦士を押し転がす。
「がっ!」
前足で、後ろ足で踏んづけて、獣王は勢いのままに、軽戦士を追い越した。
足を滑らせながら身を曲げて、振り返る。
「ひ、は!」
うつぶせに倒れ伏すことになった軽戦士は、泥だらけになった顔だけを上げた。
涙声だった。
ゆっくりと獣王は歩み寄り……。
獣王は右の前足を振り上げ、軽戦士の頭を砕いた。
血まみれの獣王が、緩慢に立ち上がる。
「不正ログインによる、未確認ユーザーの強制排除を執行」
そして獣王は、俺を見た。
「その臭い、マリアの子の臭いか」
「へ?」
なんだ?
唐突に獣王は、普通……当たり前のキャラクターに戻った。
膨らんでいた毛皮が落ち着き、血走っていた目も、冷静さを取り戻していた。
「臭い?」
「お前からは、俺の子の臭いがする」
首の辺りからと言われ、俺は首筋を押さえ……。
「あっ!」
子虎を肩車してやったことを思い出した。
「マリアは無事か」
「あんたが……母虎さんの、旦那か」
「お前の言う母虎が誰かは知らない。だがその臭いをさせている子の母親なら、そうだ」
「他の雌虎と子供を助けるために、母虎さんを見捨てたんだろ? こんなところでなにやってんだよ……」
「テリトリーを守っていた」
「テリトリーって……」
俺は、転がっている三人を目にした。
「ゴブリンが荒らしてたんじゃないのかよ」
「怪しいものは、狩る」
「俺は……」
「その臭い、警戒、興奮しているものが付ける臭いではない。お前は新しい群れのリーダーに選ばれた」
「群れ?」
「そうだ」
虎種は笑った。
それは決して友好的なものではなかった。
あざけるような、面白がっているような、面倒くさいものだった。
「俺の群れから女を取るとは、なかなかやる。だがな、許せるものではない。わかるだろう?」
──わからねぇよ!
結局、戦闘は回避されそうにない感じだった。