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異世界転生THE(駄)フラグ(仮題)  作者: nakaya
二日目。そろぷれいw
18/74

あんまり深い裏設定を作っちゃうと説明文が長くなるから嫌なんだけど、厨二設定ってそんなんだよね(´・ω・`)

 ──なんだ、あれ?


 俺には理解できなかった。


 虎種というのは、モンスターではない。亜人の一種で、プレイヤーを助けるNPCだ。

 体躯は人よりも大きいが、かけ離れていると言うほどでもないはずだ。

 なのに、その虎種は、二メートル半をゆうに越え、三メートルに迫ろうかという、大型だった。

 上半身が大きすぎて重いのか、やや前のめりに背を曲げている。

 両手は人の頭よりも大きく、血にぬめっていた。

 足はずっしりと大股に大地を踏みしめ、かかとを上げている。


 まずい……嫌な予感に襲われた。


 虎種は体重を前に傾け、その倒れる勢いを足して、前に出た。


 一歩目で最速に、二歩目では腕を振り上げ、三歩目で腕を振り切っていた。


 ディーナの仲間らしき男の上半身が吹っ飛んだ。


 魔法付きの武具らしい白い鎧は、胸から腹に掛けて引き裂かれていた。


 胴体が宙を舞う。内腑がこぼれ、繋がっている腸が下半身を引きずり倒した。


「ダッド!?」


 誰かが叫んだ。


 バウンドした上半身は、隠れている俺の目の前に転がった。

 首がころんと、力なくおかしな具合に曲がり落ちた。

 極限まで開かれたまぶた。目は半分だけ白目を剥き、瞳孔の開ききった黒目が、上まぶたのふちから三分の一だけ見えていた。


 俺は、震えて、動けなくなった。


(なんだ、よ……これ)


 血の臭いに、ぐっとむせて、口を押さえる。


(死んだ?)


 目の前にあるのは死体だった。


(死体、だ)


 わかりきっているのに、思い返して確認してしまった。


 千切れた胴体と下半身。血がだらだらと溢れだし、土を黒く染めていく。

 半端にこぼれた内臓はまだピンク色だったけど、森の枯れ葉と土にまみれて汚れていた。


 それは、これ以上となく、死体だった。

 消えもしない。

 ゲームのように、ぼかされてもない。


 プレイヤーを助けるためのNPCが、プレイヤーを一撃で死亡させた。

 一撃死なんて、そうそうあるもんじゃない。

 思わず、ログウィンドウを開いてしまった。


(ダメージ、3000!?)


 魔法でもない物理攻撃で、レベル150でも耐えられないようなダメージが発生しているなんて、異常すぎる。


 グルルと唸り、獣が次の得物を見定める。

 そこには白いローブ姿の、おそらくは回復役の女が居た。


「ちょっと! こっち来る! 誰か引きつけてよ!」


「無茶言うな! 盾役が一撃だぞ!? 支援魔法が先だろ!?」


「イベントシーンの直後に問答無用って酷くない!?」


 回復役の女、軽装備の戦士の男、重装備の男……これは騎士タイプか?


「くっそ、立て直せねぇ!?」


 それから死んだ男に、ディーナ。

 ディーナは、一角獣の鎧と呼ばれる、純白の重装甲を身に纏っていた。

 その顔は酷い色をしていた。仲間の死にショックを受けているようだった。


「だから先に支援魔法かけておこうって……」


「うっせぇ!」


 ディーナはびくりと体をすくめた。

 そして、首をすくめたまま、でも……と相手の様子をうかがっていた。

 そこに俺は違和感を感じた。

 なんだかなにかおかしな雰囲気だった。

 ハブられてるような空気があった。

 ディーナも、みんなの顔色をうかがっている。

 怖がっている?


 俺は……ディーナは、こんな風に扱われるようなキャラじゃない。

 人のために前に出て、みんなとじゃれ合い、弾けるような……。

 そういうキャラを演じてた。


 それに、だ。

 俺は、いま居るディーナ以外の面子について、覚えがなかった。


(俺の知らないメンバーだと?)


 いぶかしく思っている内に、ディーナがくっと、顔を上げた。


 決意をかためた顔をしていた。


「あたしが!」


 オーロラの輝きがこぼれる直刀を手に、駆け出した。


 横合いから虎種へと斬りつける。

 跳ねるように飛んで、両手でもっての一撃だったが、勢いと体重の乗っていたそれも、虎種に簡単に受けとめられてしまった。


 右腕を持ち上げただけ。二の腕で、だ。


 虎種の獣毛は、下手な武具よりも硬いとされている。にしても、これは……。


(ダメージ、0って……)


 レベル150のディーナが、勇者装備と言われる天剣を使って、ダメージを通せないなんて……。

 種族特性の物理、魔法防御壁無効化。魔法による耐性防御無効化。天剣にはそんな能力があるのに……。


(あの虎種、特性じゃなくて、素の防御力が、反則級(チート)なのかよ……)


 虎種は、隣に降り立ち進退窮まっているディーナを見下ろした。


「あ、あ……」


 ディーナの顔が絶望に染まる。

 かかとが無意識に下がろうとしていた。


 だが虎種は、ふいと、その存在を無視して、回復役へと向き直った。


 そして口にする。


「──警告する」


「へ……?」


「使用されているユーザーIDは、本運営によって正規に発効されたものではない。ただちに退去せよ」


「は……?」


「警告を拒否と判断する。規約に基づき、強制排除する」


「ちょ、ちょっと! 規約ってなによ!?」


 虎種は女の真正面に立って、その大きな体で彼女の上に影を落とした。


「ひっ!?」


 俺の視界からは虎種の背中しか見えない。

 その向こうで……ぶしゅりと赤い血が弾けた。


 その光景に、ザ・プラクティスの面子は、引きつりながら後ずさった。


「なんだよ!? 獣王クエストのはずだろ!?」


「運営の垢バンか!?」


 あいつら、この状態でまだゲームだと思ってんのか?

 確かに、虎種の口にした内容はそうだけど……。


(っていうか、垢バン……アカウントの削除だって?)


 あの虎種が、運営……あればだけど、それに相当する何者かが操作してるキャラクターなら、なにが起こっているかは納得できる。


 できる……けど。


(これは、やり過ぎだろ)


 不正ログイン──金を払ってゲームを始めず、パスワードを解いて、無断で勝手にゲームをやっていた……ということなんだろうけど。


 俺たちは勝手に連れてこられたんだぞ?

 俺は望んでた。でも、未だにゲームだと思ってる連中がどうだかはわからない……。

 虎種は、あとの二人も逃がさないようだ。


 喉をグルルと唸らせながら振り返った。

 巨大な右手の毛が赤く染まり、血は爪から滴り落ちていた。


 軽戦士が愚痴る。


「システムメニューもマクロも使えなくなってるし、対策入ったのか?」


 待てよ?

 その言葉に、ピンと来た。


 俺は、システムメニューを呼び出した。

 繋がってくれと願いながら。


(ねえさん)


(なにー?)


 繋がった!


(急いでる、答えてくれ。システムメニュー、マクロ、そういうの、使える?)


(使えなきゃ、チャットできないでしょー)


(だよな、ありがと)


 おかしな奴みたいに思われたけど、よかった、ねえさんもだ。

 俺たちは、ユーザーとして、ここにいるのかもしれない。


 だけどゴブリンに追われてた奴も含めて、不正にログインした奴は、そういうの、使えないのかもしれない。


 虎種……あるいは虎種の中の奴、もしくは虎種を動かしているAIは、単に不正ログインをしている偽ユーザーを排除しているつもり……なのかもしれないけどさ。


 だけど……と死体を見る。


(それが、これか?)


 あいつらは、ゲームの世界に行ってみたいと、願っていたんだろうか?

 街でPTを組んで、ここまで来ているのなら、それなりに時間を過ごしてるはずだ。

 なのに、いまだにゲームの中だと思ってるような連中だ。

 信じたくないから、目を背けているのか。

 信じられなくて、ゲームの枠から外れたくないのか。


「回復役がまっさきとか! ねーよ!」


「なんとかしろよ、ディーナ!」


「なんとかって……」


「使えねぇなっ、モブディはよ!?」


 俺の頭の中で、かちんと、なにかの音がした。


「ザ・プラクティスのディーナっつーから、期待したのによ!」


「俺たちと一緒で、来てんのかって、思ったのに!」


「中身モブとかねーよ!?」


(あいつらっ!?)


 騎士と軽戦士の二人の口は、死を前にして、軽く、ゆるくなったようだった。

 腰が引けてる状態で、ガクガクと震えながら後ずさっている。

 虎種──獣王とやらは、そんなふたりを、尊大に見下ろしていた。

 軽蔑──唾棄すべき存在。

 汚らわしいとばかりに、敵意をあらわにしていた。

 ずんっと、音を鳴らし、地を揺らして、足を踏み、前に出る。

 自分が先に狙われることになったとわかった軽戦士が、背中を向けてかけ出した。


「待って!」


 それを追いかけようとする獣王の前に、ディーナが割り込んだ。


「あなたの相手は!」


 じろりと、獣王はディーナを見た。


「警告する。お前の行動は、当レジャーパークにおける運営活動の妨げとなっている。アクターは指示に従い、ホームへと帰還せよ」


 わからない! っとばかりに、ディーナは何度もかぶりを振った、


 両手に持った剣をかまえ直し、ちゃきりと独特の音をさせる。


「お願い! あなたはゴブリンシャーマンの魔法で、おかしくなってるのよ! 正気に戻って!」


 必死の説得。

 だが獣王は、変わらずディーナを見下ろすだけだ。


 彼女の手は、足も震えていて、その震動が切っ先にまで伝わっていた。


 まなじりに涙が浮かんでいた。


 獣王は、生きているものとして、ディーナを見ていなかった。


 まさに物を見るような目だった。


 その足に、力を溜めるように、身を沈めていく。


 俺は頭が真っ白になった。


 死ぬ? ディーナが?


 獣王が、力を溜めていく。


 ボロクズのようになった死体と、ディーナと、獣王と。


 視線の先に、全てが一直線に並んでいて。


 次の瞬間には、このボロクズの上に、同じ形の同じ死体が……ディーナが落ちて、男と同じように、うつろな目を俺に向けるのかと……思うと。


「────!」


 俺はなにも考えずに。


 考えられずに、飛び出してしまっていた。

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