着地点が見えないので裏設定を作ってみた。
このゲームには、勇者として、というありがちな話は定められていない。
ドラゴンレジェンドという名前の通り、ドラゴンに関する伝承、伝説、神話を追って、世界を旅する。そういうゲームだ。
まあ、下級ドラゴン、中級、上級、そして神レベルのドラゴンと相まみえる……という流れもあるが、かかわらなくても十分遊べる。そういうゲームになっているのだ。
別に世界の破滅が迫ってるわけでもないから、適当に過ごしていてもかまわない。
だけど、普通にしていても、日常を繰り返すだけになってしまう。
大半が、ここでつまんねーっと投げてしまう。
しかし、冒険とは、非日常にこそあるもんだ。
つまり、冒険を堪能したければ、非日常を選ばなければならない。
だから、まずは、旅立たなければならないのだ。
街とか、ギルドとか、枠組みとかから、卒業しなければいけないんだが……。
この辺りも、クソゲーと呼ばれたゆえんだろう。
日本人プレイヤーは、基本的に、敷かれているレールを好む傾向がある。
無軌道に、たとえばギルドに加入せず、迷宮を荒らすとか。
配達クエストを妨害し、アイテムを奪うような、盗賊になるだとか。
帰ってこられるかどうかわからない、異境の地へ旅立つだとか。
そのために、仲間を募ったり、徒党を組んだり、組織を作ったりだとか。
そういうことをしない、できない、発想がない。
だから、敷居が高すぎる、ということになっていた。
だけど、それができた奴らには、面白すぎるゲームとなったのだ。
攻略本通りのことしかできない連中には、とっつきにくいだけのゲームになってしまったんだが……。
だけど、そんな中にも、勇者、英雄と呼ばれる連中が生まれ出た。
大規模クエストなどで、勇気ある振る舞いを行い、名を売ったりだとか。
女風呂に突撃して牢屋行きになったりだとか。
俺のことだけどw
勇者とは、役職のことではない。
勇者とは、勇気ある者のことを言うのだ。
だから、勇者と呼ばれたければ、勇者っぽく振る舞って頑張ってねと言う、なにその投げっぱなし? って感じだったりするんだけど……。
うん、日本メインのゲームで、それは無茶だったね。
だって、ヒーローっぽくとか、なにマジになってんの? って話じゃん?
んで、このゲーム、基本的に、廃人とかオタク向けじゃん?
勇者とか、斜め方向に行くに決まってんじゃんねーかw
あ、でも、魔王さん居ます。
ただ実装前で、設定だけだったけどw
なんか光と闇のパワーバランスが、うんとかとか、やたら凝った設定になってた。
光と闇は、裏と表、善と悪と同じ、等質のものであるらしい。それがどちらか一方に染まるとき、世界は滅ぶとかそんな感じで。
世界に正義の力が溢れれば、光の比率が大きくなり、世界が闇で包まれれば、闇の比率が大きくなる。
神様が信者を求める理由だそうな。
しかし、だからと言って、どちらの神様も、直接的には戦えないし、世界の動きにも介入できない。
なぜなら、光と闇は、質が違うだけで、同じものであるからだ。
つまり、光と闇が戦えば、ただの削り合いになってしまう。
そうなれば、残るのは、その時に質量の比率で勝っていた側の神となる。
それも、削り合った末に残った、削りかすだけの存在としてだ。
ならば、どうするかと言うと、光の場合、勇者、英雄に、期待するしかないという。
そう呼ばれるようになる者たちが、闇の勢力を押し戻し、光と闇の均衡を取り戻すことを期待するのだ。
勇者召喚ですね、わかります。
魔王招来も似たようなもんらしい。
この辺りが、大規模クエストの、裏設定となっている。
闇が溢れた、光よ、希望を取り戻せ! ってなもんだ。
逆に闇が払拭されすぎると、運営から調整という名の追加クエストがプレゼントされますw
「ディーナが居ない間に、レベル上げっとっかな……」
ディーナのレベルは150だが、カンスト組でパーティを組まないとクリアできないクエストも、多々存在している。
今は、彼女が所属しているギルドメンバーと出張中だ。
遠出になるので、時間がかかる。だからしばらくは一人で行動できる。
「まあ、考える時間は、たんまりとあるんだけど」
だめだ、やっぱり動けない。
俺は浮かしかけた腰を落とした。
クエスト……戦いに行きたくないのは、不安要素があったからだ。
これが転生なのか、デスゲームなのか、それがわからなくて困っていた。
転生なら、定期イベントやクエストが、知っているとおりとは限らない。
なにが起こるかわからないというのは、案外怖いものだった。
だが、そうなると、チュートリアルスキップのアナウンスが、なんだったのかという話になる。
なら、俺は、ゲームの世界に囚われて、デスゲームに参加させられているんだろうか?
しかし、それなら、ディーナの存在が不可解だ。
誰かが、俺の別アカウントで、アクセスしている?
あるいは、デスゲームを仕掛けた奴が?
だがなんのために? 俺なんかをハメてなんの得があるっていうんだ?
愉快犯の可能性もあるが、こっちもやはり、なんの確証もない話だった。
「フラグっていう人間が、ちゃんと生まれて存在してたんなら、あのタイミングでチュートリアルって、おかしいよな」
カンストキャラであるディーナの倉庫として、初期上限であるレベル70まで成長している以上、あれが初クエスト、というのは不自然で、チュートリアルを受けるような、素人であるはずがないからだ。
「つまり、あれは、俺に対するアナウンスだったはずなんだよな」
どういうことなんだかなぁと、首を捻っていると、また、あの、ぽーんって音が聞こえてきた。
『依頼:商人の護衛 結果:失敗 違約金の支払いが行われなかったため、強制奉仕活動への召喚を行います』
「へ?」
気がつけば、がっちがちに鎧を着込んだ兵士さんたちに取り囲まれてました。
「へーーー!?」