そのとー
「まだガクガクする」
「うっさい! 黙れバカ、キモイ!」
なんだよぉっと、前を歩くつむじを見下ろす。
はい、だいぶ正気に戻りました。
どこに向かっているのかというと、俺たちプレイヤーに与えられている宿場町である。
長屋のような場所だ。ワンプレイヤーに一戸の宿。ゲームでは、宿場町へのエリア切り替えで、いきなり自分の部屋となっていたんだが、ここは現実、ちゃんと歩いて向かうことになるらしい。
ちらほらと空き家が見える。満杯になったらどうすんのかな。
と、ディーナが立ち止まった。
(ここが俺たちの家か)
見上げると言うほど大きくもない。
ほぼ真四角の一軒家だ。隣との間は体を捻れば通れるほどの隙間があるだけ。
ブロックをくり抜いて作ったみたいな?
というか、窓も穴が開いてるだけ。
入り口もだ。
(空き巣入り放題じゃん?)
と思って入り口をくぐろうとすると、一瞬魔法陣が浮かび上がった。
なんの抵抗もなく、すり抜けることができたけど。
(防犯チェックってわけか)
ちなみに俺たちは、同じ家で暮らしてる……らしい。
ゲームでは、別アカウントで倉庫キャラを作り、恋人設定にしてあった。
(げ、マジかよ)
そうすることで、ハウスの保管量が、2キャラ分に増えるからだ。
そうしないと、あっちとこっちの荷物をやり取りするために、キャラを変えてログインを繰り返すことになる。
夫婦とか兄妹設定とかいろいろあったけど……今俺は猛烈に悩んでいた。
ばふっと、奥にある部屋のベッドに、ディーナが腰掛けた。
かちゃかちゃと鎧を外し出す。
俺の前だというのに無防備で……。
(俺、こいつを好きにしちゃって良いの?)
喜んでるわけじゃない。
むしろ逆だ。
(ないわー……)
客観的に見て思った。
自分で演じてたくせにって話だけど、客観的に見て見ると、こんな子、現実にいるか!? って話だった。
どう見たってキャラ作ってるよ、なんか被ってるよ。
仕草の一つ一つが媚びててキモイよ。
しかもそれやってたのが自分だったわけでして、やべ、死にたくなってきた。
「くぁあああああ!」
全身をかきむしって転がってしまった。
ディーナがびくっと怯えて身を引くのが見えた。
(俺、こんなだったの!? こんなこと、男相手にやってたの!?)
いくら最終目的が女の子とのキャッキャウフフだったとしてもだ。
ネカマスキルを上げるための特訓だったとしてもだ!?
なにこれ!?
確かにさっ、騙されてる-!
(*゜ε゜*)プププー。
とかやってたけどさー!
これ、人に知られたら、俺の方がヤバくね!?
俺の黒歴史がまた一ページ。
「な、なんなの!?」
「なんでもないです、お嬢様」
「お嬢様!?」
頭打った!? って言わんばかりの態度ですな。
わかってます。自分でもおかしくなってます。
「それで、依頼の方はどうなったんだ?」
俺が大きくため息を吐きながら聞くと、ディーナは……。
「ちゃんとファーガスまで送り届けました!」
「そっか、そりゃよかった」
俺一人が失敗したってことになるんだよな。
向こうまで行って、テレポート系の魔法で戻って来たって感じかな。
そんなことを考えていると……。
「なんであんたは」
「え?」
「できるくせに、途中でやめちゃうのよ」
「…………」
「……ばーか」
つっかれた、眠いと、ディーナは布団に倒れた。
大の字になって眠ろうとする。
「なんか人の名前叫んだかと思ったら、逃げてっちゃうしさぁ」
なんだこいつ?
赤くなってる?
「靴脱げよ」
「外して~~~」
「よしわかった!」
「え!?」
小さな体を抱え込むように覆い被さって、膝裏に腕を入れて持ち上げパンツまる見えで逆さにしてやったら……。
──ゴッ!
肘打ち、股間に食らいました。
だから、スキル255、カンスト攻撃は、突っ込みとしてはきびしいです……ガクッ。