始まりの朝
ジャックは目を覚ました。
いつも目を覚ます場所とは違った所にいた。
「やっぱり夢じゃない。」
ジャックは辺りを見渡し、自分が本棚に囲まれた部屋で寝ていたことに気づいた。
「よう!目覚めはどうだ?」
赤いツンツンした髪をしている青年がいる。
「ロイさん、俺はやっぱり…」
「そうだよ!死神になっちまったんだよ。」
ジャックは複雑な気分だった。
死神になったということは、自分は死んだということ。
死神になったと言ってもまだ2日目だ。
「昨日言ってた通り、今日から死神としての仕事をするんでしょ?何をすればいいんですか?」
「おっ!?ヤル気満々じゃねーか!早速依頼が来てるよ。自分の手帳を見てみろよ。」
ジャックは胸の内ポケットから白い手帳を取り出した。
「!?これ、いつ書いたんです?」
「神様から依頼がジョニーのオッサンに行って、ジョニーのオッサンが俺達に仕事を割り振る。手帳は自動で書き込まれる。誰もお前の手帳を覗き見たりはしないよ。」
不思議だった。
神様からの依頼がジョニーへ伝わり、ジョニーからジャックへと伝わる。
しかも、言葉ではなく内ポケットに入れていた手帳に記されているのだ。
「ど、どんな仕組みなんです!?なんで、僕の手帳に勝手に書かれてるんです!」
「だから言ったろ。さっきもいった通り…」
「いや!そうじゃない!なぜジョニーは内ポケットに入れていた手帳に書くことができるんです!?」
ジャックは慌てていた。
触れてもいないのに、何故こんなことができるのか?
疑問で仕方ない。
「死気を使ったんだよ。」
扉をあけ静かにジョニーが入ってきた。
ジョニーは本の並ぶ勉強部屋へと入ると辺りを見渡し、懐かしそうな表情を浮かべていた。
「この部屋にはこんなに本があったのか?」
「以前からあったよ。俺が死神になった時にはすでにこの有り様だ。」
ロイは少し不機嫌そうに見えた。
勉強部屋が自分達の部屋なのに、ジョニーが無断で入ってきたからだ。
「そんなに不機嫌にならなくてもいいだろ?200年ぶりに入ったんだ。」
「200年だろうが2000年だろうが、俺の部屋にかわりはない。せめてノック位あるだろ。」
不機嫌そうに喋るロイを見て、ジョニーは苦笑いを浮かべていた。
「それはすまない。」
「まぁいいんだけど。」
ロイはポケットに手を突っ込み、少し言い過ぎたと思ったのか、笑顔を作り立ち上がった。
「ジョニーのオッサン。ちょうどよかった、ジャックに死気の事を教えてやってくれよ」
「あぁ構わないよ。死神になりたての頃は分からない事だらけだからね。」
ロイは落ちているほこりをかぶった本を一冊拾い上げると、息を吹きかけた。
本についたほこりはすごい勢いで中に舞った。
「原理はこれだよ。ほこりをかぶった本と同じなんだ。」
いまいち理解できないジャックはジョニーに質問をした。
「ほこりをかぶった本?ですか?」
「そうだ。ほこりを死気。本を自分。吹きかけた息を死気の流れだと思えばいい。」
戸惑いながらもジャックは懸命に考え込んでいた。
「そう難しく考えるなよ!ようするに、死気を死神は身にまとってる状態なんだ。死気の量は死神の強さによって違う。ジャックはまだ死神になりたてだからあんまり死気は無いはずだ。でも少しずつ死気は増えていく。あとはコントロールするだけさ。」
ジャックは少しだけ理解できたような気がした。
それでも内心ぼんやりとしか理解できてはいなかった。
「まぁいい。早速だが仕事の話をしてもいいかなぁ?」
ジョニーは白い手帳を取り出すと、ページをめくりはじめた。
「今回のターゲットは、レオン=バレットと言う男だ。彼はスラムに住んでる。」
「スラム!?だったらブラキとズールの管轄だろ?」
ロイはすぐに反論した。ジョニーは少しだけ笑いロイとジャックに説明を始めた。
「スラムは確かに治安も悪く、新人には向いてないかもしれない。だが、ブラキにズール、ロイまでいる。心配はないだろ?それに新人のジャックにとっては良い経験にもなる。」
「自分が行かないからって…。」
ロイは少しふてくされた態度をとっていた。
「とりあえず、今日は下見ということでジャックを頼んだよ。」
こうしてジャックはロイと共にスラム地区へと下見に行くのであった。