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THE LIBERO CODE  作者: libero protocol


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FILE_37: 双生の奇跡、記憶の残響


ついに、その時が訪れた。


分娩室の中に、一華の荒い呼吸と、張り詰めた医療機器の電子音が響き渡る。


押し寄せる壮絶な陣痛の嵐に、一華は全身から汗を吹き出させ、ベッドの柵を白くなるほど強く握りしめていた。


その傍らで、蓮は生きた心地もしないまま、彼女の手を握り、必死に声をかけ続けている。


「一華さん、息を吐いて……大丈夫だ、僕がここにいる……!」


意識が遠のくほどの痛みの最中、一華はただひたすらに、お腹の中に宿る命が今まさにこの世界へと飛び出そうとしている力強い胎動を感じていた。


長い闘いの果て、医師の力強い声が響く。


「頭が見えたよ! ──もう一息だ、いきんで!」


渾身の力を振り絞った一華の身体から、ついに一つの命が滑り出た。


直後、分娩室に元気な産声が響き渡る。それは紛れもない、二人が心待ちにしていた、新しい命の始まりを告げる音だった。


蓮が安堵の涙を流し、一華が疲れ果てた笑みを浮かべた──その、刹那だった。


「……な、何だこれは!? どういうことだ……!」


取り上げたばかりの医師が、突然、絶句したような驚愕の声を上げた。モニターを凝視する看護師たちからも、息を呑む音が漏れる。


「どうしたんですか!?」 蓮が尋ねるが、医師の目は信じられないものを見るように見開かれていた。


事前の幾度もの精密健診、ホログラムによる立体エコー、そのあらゆるデータにおいて、一華のお腹にいる胎児は「一人」のはずだった。医学的な影も、二つ目の心音も、一切確認されていなかったのだ。


「い、いなかったはずの赤ん坊が……もう一人、お腹の中にいる。双子だ……! すぐに次の分娩の準備を!」


「え……っ!?」


医師から告げられたあまりにも予想外の言葉に、蓮は驚きのあまり完全に腰を抜かし、その場にへたり込んだ。


普段の冷静さを一瞬で失い、頭が真っ白になったまま、ただ呆然とするしかなかった。


騒然となる医療陣のなか、再び凄まじい陣痛の波が一華を襲う。


息を荒くする一華は、床にへたり込んで頼りなく固まっている蓮の姿を鋭く見据えた。


彼女は汗ばんだ手を容赦なく蓮へと伸ばし、全力の声で喝を入れる。


「ちょっと、何へたばってんの蓮! ──いいから早く立って、私の手を握りなさい!!」


「は、はいっ……!」


その凛とした怒声に弾かれたように、蓮は我に返って飛び起きた。


すぐにベッドサイドへ縋り付き、一華の手を骨がきしむほどの強さでしっかりと握り締める。


「もう一度いきんで! 息を吸って──!」


一華は蓮の手を強く握り返し、再び渾身の力を振り絞った。


驚くほどの滑らかさで、二人目の赤ん坊が取り上げられた。一人目の子と完全に和音を重ねるような、もう一つの高らかな産声が、部屋いっぱいに満ちていく。


二人の男の子。奇跡のような双生の誕生だった。


処置を終え、胸元に運ばれてきた二人の赤ん坊を、一華は愛おしそうに両腕で優しく抱き寄せた。


まだ目も開かない、真っ白で、何も知らない、何もできない、生まれたばかりの二つの小さな命。


一華はその愛らしい顔をじっと覗き込み、そっと指先でその頬に触れた。


「……やっと顔を見せてくれたね」


一華の瞳から、温かい涙が溢れて赤ん坊の頬を濡らす。彼女の唇から、まったくの無自覚にひとつの言葉がこぼれ落ちた。


「──おかえり」


その言葉が自らの口から出た瞬間、一華の身体が小さく震えた。


(え……?)


なぜ、自分は「はじめまして」ではなく、「おかえり」と言ったのだろう。


なぜ、驚きもせず、この二人が同時に生まれてくることを知っていたかのような安心感を抱いているのだろう。


一華自身、その言葉の理由が分からず、胸の奥から湧き上がる言い知れぬ感覚に驚いていた。


一度は床にへたり込んだ蓮だったが、二人の赤ん坊の姿を目にすると、驚きを遥かに超える大きな喜びが胸いっぱいに突き上げてきた。


データをも医学的常識をも超越して生まれてきた新しい二つの命と、過酷な出産を立派に乗り越えてくれた一華の姿を視界に収めると、胸の奥が熱い幸福感で満たされていく。


蓮は一華が漏らした言葉の残響を耳にしながら、二人の赤ん坊の顔を愛おしそうに見つめていた。


一人の子は、どことなくあの優しかった少年の面影を宿しているように見え、もう一人の子は、まるでその子を世界から片時も離さず守り抜くような、不思議な力強さを秘めているように感じられた。


一華の驚きを包み込むように、二人の赤ん坊は同時に小さな手を動かし、一華の衣服をぎゅっと掴んだ。


高次元の深淵で交わされた最期の約束も、システムを書き換えた始まりのコードも、現実世界の彼らはもう誰も覚えていない。


けれど、確かに二つの魂は還ってきた。窓の外から差し込む、遮るもののない純粋な朝の光が、新しく始まった家族の未来を、どこまでも眩しく照らし出していた。

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