光 二十二
「神代ちゃん、本当―に偏ってるもんねえ、…」
新しい病理診断の結果を持って、入院患者の手術に関する新しいカンファレンス―――病状等を検討して、手術を行うかどうかなどを決める会議―――に来た辰野が、神原を見つけて隣に座りながらいう。
「はい?…辰野さん、この患者さんの病理診断を?」
資料を読んでいた神原が、もう十数名が集まり始めているカンファレンス室で隣に来た辰野にいうのに。
辰野が、沢山の資料をどさりと置いて、前方に資料を投影する機器の調整を研修医がしているのをみながらいう。
「とーぜん!おれ、一応ここのチーフだから」
「え?」
意外なものをみた、という風に神原がみるのに、辰野が前方をみたまま手許をみずに資料を揃えるという器用なことをしながらいう。
「あ、神原ちゃん、おれの診断の腕疑うの?」
「疑ってませんが、…―――チーフだったんですか」
「おれのどこが相応しくないわけー、けんか売ってる?神原くん」
一応、機嫌を損ねた風に作って、顔を寄せて来て遊んでいる辰野に肩を落とす。
「僕で遊ぶのはよしてください。…神代先生がいるでしょう?」
「…―――今日は、神代ちゃんの患者さんだから。遊べないの」
「え?あ、はい、…――――」
そして、薄暗い室内にカンファレンスを開始しますという案内が流れて。
神代が投影されている画像を示しながら、端的に症状と予測される今後の状況、手術の手順、合併症の危険等を解説していくのに。
「…―――確かに、偏ってますね」
手術の手順、考えられる副作用、説明している内容は総て頭に入っているとしか思えない説明を聞きながら。
――――人体の中をこれだけ憶えて、手術があれだけ見事なのに、どうして道に迷うんだろう、…。
「だろー?かたよってるよなー、こいつ」
こそこそと、顔を寄せて辰野が、つい呟いてしまった神原に同調していってくるのに。
「そこ!辰野先生!次、病理診断の結果教えてくれ!」
投影された画像の傍で説明を終えた神代が、怒って辰野にいうのに。
明るく手を振りながら、辰野が席を立って。
「はーい、呼ばれてきましたー、と。これが、新しく採取した資料のデータです。まず、この染色された組織片をみてください。…あきらかに、変形した組織の浸潤がみえます。…これは、――――」
解説を始めると途端に口調が普段のふざけたものから変わり、無駄なく正確に事実をわかりやすく伝える辰野に。
――――この人も、ある意味偏りが凄い気がする、…―――。
「と、いうわけで、おれの診断は、リンパ節浸潤第二群まで。誰か反論は」
説明を終えて周囲を見廻し、それに他の医師達が意見を述べていく。
一同の活発な論議をみながら。
「どう?慣れました?本格的なカンファレンスに出席したのは、今日が初めてだけど」
治療の方針が決まり、それぞれが持場に戻る中。
資料を手に話し掛けてきた原に、神原が顔を向ける。
「ああ、…。はい。活発ですね、意見交換が。良いことだと思います」
「神原先生も、遠慮なくいってくださっていいんですよ?」
「森川先生、…ありがとうございます」
「あら、森川先生、珍しいわね。神原先生のこと、認識してたの?」
神原達の後ろから、小柄な森川が声を掛けてくるのに驚いて振り返る。
それに原が珍しそうにいうのに森川が心外だという顔をして。
「…―――原先生、僕だって、たまには人の事を認識してますよ。たまには、ですけど」
「…そこは肯定ですか、…」
思わずくちにする神原に原が頷く。
「勿論ね、で?どうしたの?神原先生に用?」
「ひとつ、教えてほしいことがありましてね。先日の、―――」
「はい、何でしょう?」
森川の問いに真剣に神原が向き直るのに、原が軽く肩を竦めて。




