光 二十一
「ん、…――――って、神原!何抱き付いてるんだよっ、…!」
朝日と共に、というよりは自動的にいつも起きている時間に起きて、すっかりとまだ寝ている神原が。
思い切り、抱き付いてねていて、動けないのに焦って神代が叫ぶ。
「おい、だから、…神原、起きろっ、…―――!」
「…――――あ、おはようございます、…かみしろさん?」
「理解してるなら離せ、おまえ、辰野じゃないんだからっ、…!―――おい、きいてるか?…また寝るなっ、…おい、神原!」
―――うん、…あったかいな、…。―――
声が聞こえながらも、またうなずいて寝そうになる神原に。
「おい、起きろっ、おまえ、低血圧か?違うだろ!…起きろって、神原!時間、遅刻するっ!」
「…―――ちこく、はいけませんね、…―――」
いいながら、ぎゅっと抱き寄せて。
――いい具合に温かくて、いいクッションだなー、…。
ぼんやりと考えている神原がまったく動かないのに神代があせる。
「おい、…!起きろ!神原っ、…―――!」
必死に神原を起こそうとしている神代の声が寝室に響いて。
「…すみません、…朝はどうも、…苦手ということはなかったはずなんですが」
「いいから、めしを食え。小野さんが用意してくれてあるんだから」
いいながら、朝食がテーブルに二人分用意されているのを示して神代がいうのに。
驚いて、テーブルの上を見る。
「これは、…?小野さんといわれるのは」
まだ歯を磨いて顔を洗っただけで、ぼんやりと朝食のテーブルをみる神原に神代が既にきちんと着替えて、席に着きながら見上げていう。
「小野さんは小野さんだ。ご飯を作ってくれたり、洗濯や掃除をしてくれる」
真面目な顔で見返していう神代に、瞬いて。
「つまり、家政婦さんですか?それにしても、ちゃんと二人分、…此処に住んでおられるんですか?」
きちんと二人分、目玉焼きにベーコン、それにサラダとご飯にと用意されている朝食に。
「いや、住んでない。おまえも着替えてこい。朝食が冷めたら怒られる」
真面目な顔でいう神代に驚いて。
着替える際にも、既にプレスの掛った、―――昨夜来ていた服が、きちんと用意されているのに。
「あの、…小野さん、はまだこちらに?御礼をいわないと」
「伝えたいなら、メッセージカードがあるぞ。もういないよ。おれのとこだけみてくれてる訳じゃないからな。今朝は食事の用意とかしてくれて去ったらしい」
「…―――らしいって、会ってないんですか」
「…彼女を捕まえるのは難しくてな、…。こどもの頃から世話してもらってるが、―――。ほら、それよりめしを食え。で、礼をいいたかったら、これだ」
「はい」
席に着きながら、驚いて神代が示すメッセージカードを見る。
「それですか」
極真剣に神代がテーブルに置かれたメッセージカードとペンを示して。
「昔から、これに書いて、冷蔵庫に入れてやりとりしている」
「…――冷蔵庫、ですか」
「他よりいいらしい。しらんが、そうなっている」
「…――はい、わかりました。いただきます」
手を合わせて、ご飯をいただいて。
「…――美味しいですね」
「小野さんの料理は最高だ。けど、作ってあるものをきちんと食べないと実にうるさい。」
真剣にいう神代に笑む。
「それはまあ、…――コーヒーまで、淹れてくださってあるんですか」
食べ終えて、食器を運ぼうかとキッチンの方をみて、コーヒーメーカーに作り置きがあるのに驚いて神原がいう。
「その通りだ。小野さんがいないと、生活が成り立たん」
「そうなんですか」
真面目にいう神代に笑んで。それから、マグカップにコーヒーを入れて。
「ありがたいですね、これは」
微笑みながら、コーヒーの香りを楽しみながらいう神原に神代が頷く。
「その通りだ」
真面目に病院からの連絡をテーブルに置いた端末で確認している神代に微笑んで。
「メッセージ書こう」
そして、御礼を書いて、いっていた通り冷蔵庫に入れてみよう、と開けてみると。
―――――この人は、…本当に。
「…ありがとう、ございます」
小さくいう神原の声に、視線を向けずに。
「何の話だ。…小野さんへの御礼なら、ちゃんとそこにいれておけよ」
「…はい」
微笑を零して、自分の書いたメッセージも冷蔵庫に入れて。
難しい気配をみせて情報をチェックしている神代に。
先に置かれたメッセージカードには。
―――朝飯、二人分ありがとう。
無器用に神代が書いたメッセージが置いてあって。
―――本当に、この人は。
「もう出ますか?そろそろ行かないと」
「…――そうだな。おまえの観測だと、此処から出て病院に行くまで、どのくらいかかる?」
「徒歩でしたら、そうですね。…十五分もあれば充分かと思いますが」
青空をみて神代が席を立つ。
「そうだな、歩くか。…道案内は」
難しく眉を寄せてみる神代に微笑んで。
「はい、道案内、させていただきます」
「…―――頼む」
真剣にいう神代に思わず笑みが零れて。
「おい!あのな?おまえっ、…」
「はい、すみません。いそぎましょう。多分、問題は道よりもこの中かと」
「…――そうだな。大体、何でこんな迷路みたいな造りなんだ」
「迷路というほどでは、ないような気がしますが、…」
「いくぞっ!神原!」
「…はい」
思わず微笑んで、先に行こうとする神代を少し留めて。
「そっち、寝室ですよ?戻るんですか?」
「…――――」
真剣に難しい顔をして神代が神原を見あげて。




