光 十七
「…―――――――、…っ、」
「神原っ、…!おいっ!」
焼ける、ようにもがくように。
神原が痛みに苦しむように、もがくようにして、唸るように苦しむ声を出して、それでも叫べずに首を振るのを。
肩をつかんで、神代が大声で呼ぶ。
「落ち着け!起きろ、…――!神原!しっかりしろ!」
「…―――っ、」
茫然と、呼ぶ声に荒い息をまだ殺せずに、まだ何もみえていないように神原がみあげるのに。
「…――――」
神代が黙って灯りを点ける。
「…っ、」
神原が眩しそうに眉を寄せて。
それから。
「―――――…かみしろ、せんせい、…」
心配そうに、睨むようにみている神代に気付いて、ふと笑う。
「おい?神原?」
眉を寄せたまま問う神代に、横を向いて目を閉じて笑んで。
息を漏らして、肩から力を抜く。
「―――…すみません、…。何か、叫んでましたか?」
「わからん。唸ってた」
難しい顔をしていう神代に笑む。
「…―――そうですか、…久し振りにみたな、…。いつもは、もうこれをみるくらいまで、深く寝たりはしないんですけど」
「…――――」
神代が息を吐いてベッドを下りる。
「こっちこい」
「え?…はい、おさわがせして、―――」
先に立つ神代に後に続いて。
「ほら」
「あ、…はい、」
神代が冷蔵庫を探って、それから何かをコップに入れて、温めて。
――一応、電子レンジは使えるんですね。
何だか感心して微笑んでしまっていた神原に。
ぐい、と突き出されるようにして渡された飲み物に。
「…―――りんごに、…しょうがですか?」
リンゴをすりおろしたようなジュースに生姜の匂いがする飲み物をみていう神原に、神代がいう。
「飲め。温まる」
「――――…はい」
ぶっきらぼうにいう神代に、力が抜けて微笑んで。
くちにした飲み物は。
「―――――…あったかい、…ですね」
「――――…」
無言で促す神代に、神原も黙ってついていく。
温かなりんごの飲み物を手に、床に置かれたソファに座って、ラグに足を投げ出して夜景をみると。
「――――…随分、街灯りも減るんですね。夜景が落ち着いてみえます、…――落ち着くっていうのは、おかしいかな」
微笑んでいう神原に、隣で無言のまま神代が静かな夜景を眺める。
「そうだな、…。無駄にきらきらしてなくて、良い感じだ」
「無駄にって」
「――――無駄じゃないか?」
疑問を顔にかいて見返す神代に、神原がつい吹き出す。
「…――おい?あのな?」
「…いえ、すみませ、…―――」
笑みを零して、額に手を当てて。
泣き笑うように、笑みを零して。
「神原」
短く呼ぶ神代に、視線を夜景に向ける。手にした飲み物の温かさに救われるように想いながら。
小さく、一度苦しいように息を零していた。
無言でその様子をみている神代の視線を感じながら。
「…――僕の話は、聞いてるんですか?院長から」
その言葉に、神代も無言で夜景をみるように姿勢を直して、座り直していう。
夜景に沈む光は、幾つも漂うように。
「…―――聞いてる。あの人が、…法医なのは知ってるのか」
法医という言葉に、神原が僅かに言葉を呑むのを、神代は手に同じように持ってきたジュースを手に夜景を見ながら聴いていた。
しばし置いて、神原が少し俯いていう。
「はい、…――。検死を、あの方がしたそうです」
「…――――」
神代が息を呑む。
凝っと夜景を睨むようにする神代の気配を隣に。
「僕は、…―――遺体と会ったときに、取り乱したんです。遺体に、あれは、どうしようと思ったのかな、…。しがみつこうとしたのか、…―――検死をしたあの人が、枕側に立っていて、―――僕が暴れるのを、何人かに抑えさせたそうなんです。…憶えてないんですが」
淡々という神原に、神代が眉を寄せてその表情をみる。
両手に包むように持つ温かな飲み物を、しずかにながめて。
「ぼくは、…――――葬式の喪主とかもしたらしいんですけどね。あの当時のことは、殆ど憶えてません。この一年半も、…―――」
よく憶えてなくて、と。
しずかに呟くように、そっという神原に。
神代が、無言で肩に手を置いて、何もいえなくてくちびるを咬んでみる。
「…――――かみしろ、せんせい」
茫然と見返していう神原に、泣くのを堪えるように、ぐっとくちを咬んで抱き寄せる。
「…―――神原、…―――」
それきり、抱き寄せて肩に顔を埋めて。
どうも、泣いているような神代に。
戸惑って問い掛ける。
「あの、…神代先生、…―――泣いてます?」
「…しるかっ、…!」
「知るかって、―――」
何か云い掛けて。
ふと、零れるものに戸惑っていた。
――――涙が、…――――。
もしかして、…―――――。
「ないて、ますか、…?」
「だからおれはっ、…?神原?」
問い掛けにむきになって否定しかけて。
ふと、戸惑って動けずに、自分の頬にゆっくりと、手を。
手を、ふれてみている神原におどろいてみる。
「神原、…――おまえ、」
「…僕は、…―――――」
茫然と、頬を落ちる涙に驚いている神原に。
無言で、頭を抱き寄せて、肩に顔を伏せさせる。
「…泣いてるよ。いま、おまえは」
「―――――…そう、なんですか、…」
茫然としたままに応えて。
そうして。
「…っ、…―――――!」
突然、嗚咽が喉を突いて、耐え切れずにうめき声をあげるように。
神代の肩にしがみついて、喘ぐように苦しみを吐き出すように、泣く神原に。
神代が、無言で唯抱き締める、…――――。




