光 十五
食後のコーヒーか、…。
人と向き合って食事をして。
こんな風に、会話をして食事をして、――――…。
どれくらい振りだろう。
ふと、手許にきたカップに入ったコーヒーに。
「…神原、―――おい、聴いてるか?」
「あ、はい、…。どうしました?」
夜景を窓の隣に、神代の呼び掛けに気付いて神原が聞き返す。
「いや、その、つまりあのな?」
云い難そうにいって、それから。
無言で、地図をうつした画面を示す。
「これ、どっちになる?」
「―――近いですね。…ここから五分もかからないと思いますよ?いまいる処からより、病院に近いですね」
「…そうか」
真剣に画面を睨む神代に。
「…この場所が、何か?」
「―――つまり、どっちに行けばいいのか教えてくれ」
「はい、それは構いませんけど、…?」
コーヒーを飲み終えて。二人で店の外に出て、真剣に神原をみている神代に。
「こちらの方になりますね、…あの、案内しましょうか?ついでですから。近いですしね」
微笑んでいう神原を、葛藤する表情で神代が見返す。
「…タクシーは、…」
「だめでしょう。この距離だと。近すぎますよ」
「…――――」
真剣に悩む顔をして、神代が俯いて靴先をじっとみる。
「神代先生?」
「わかった、…―――案内してくれっ」
決意して、ぐっとくちを結んでいう神代に、思わずあきれて。
「随分と力が入ってますけど、…―――あの?こちらは何があるんですか?」
先に歩き出している神代の背に問い掛けると。
「いや、…だからっ」
「まってください、そっちは逆方向ですよ」
慌てて肩に手をおいて留める神原に振り向いてみあげて。
「―――――…自宅だっ」
「え?」
思わずも驚いて見返す神原に。
夜空に聳える高層マンションに辿り着いて、エレベータを上階へといきながら、神代がいう。
「つまり、…――最近買うことになったんだよ。…」
難しい顔でいいながら、神代がいうのに、付き合って一緒に乗っている神原が不思議そうな顔になる。
「それは?」
エレベータが最上階に着いて、外に出て。真面目に悩んで足を留めている神代に、手に持っているカードキーをみて神原がいう。
「何号室ですか?」
小ホールの案内板をみて、悩んでいる神代に神原が示す。
「ほら、こっちだと思います」
「…――すまん」
辿り着いた先で、専用の廊下に入る前のドアに、神代がほっとして暗証番号を打ち込むのを傍らで眺めて。
「神原、…―――ありがとう」
中に入って、がっくりと肩を落としている神代に。つい、神代の様子が面白くて微笑んでしまいながら、部屋を見廻す。
「凄いですね、…――。でも何か、モデルルームみたいですが」
落ち着いた色調で整えられたインテリアだが、まるでモデルルームをそのまま持ってきたようにみえる室内に神原が云うと。
鞄を椅子に置き、神代が息を吐きながらいう。
「その通り、そのまんまだ」
「…――それは?」
「神原、提案があるんだが」
極真剣に背を向けて、広がる夜景をにらみながら神代がいうのに、神原が不思議そうにみる。
「はい、何でしょう?僕はこれで、…」
「それなんだが」
くるり、と振り返って、神代が真剣にみる。
「…―――はい、あの?」
「泊っていってくれないか?正確にいうと、…――――頼むから、一緒に出勤してくれ」
「…―――はい、…え?」
驚いて見返す神原に。
切羽詰まった顔で見返す神代。




