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光   作者: 高領 つかさ(TSUKASA・T)


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光 十三




「あー、…良く寝た、…かも」

額に手を当てて顔をあげて、まだぼんやりとした目で周囲を見廻した神原は。

「…――――神代先生?」

驚いて、その背を見る。

 ぶつぶついいながら、書類をみている背を。

椅子に座って、手にした書類をみている背に。

驚きながら起きて傍に寄って、見ている書類を覗き込む。

「…―――病歴ですか?」

「何かヒントが無いかと思ってな、…――――って、起きたのかよ!突然、声を掛けるな!しかも接近するな!」

こどものようにむきになって見返してくる神代に構わず、神原が肩越しにその一行を指摘する。

「――――――これ、神代先生」

「なにっ、…て、――――おまえ、もう一回寝て来い」

「え?どうしてです?」

「寝た方が頭冴えてるだろ。もう一回寝たら、また発見できるかもしれないだろ」

真面目にいっているんだろうか、と思わず見詰めてから、視線をあげて。

「…――――寝なくても、いいかもしれないです」

CT他の画像が並べられているのをみながら、神原が云う。

神代が視線をあげて。

「これ、…―――気がついてましたか」

「くそ、…――――そいつか、原因!」

神代が唸って、神原が示す画像を見る。それから、席を立つと、画像の下に置かれた幾つもの書類から一つを選び出す。

「おれの方は、これだ。心臓内科の原先生と、血液内科の森川先生を呼ぼう」

神代の差し出した病歴から掘り出した情報―――そのデータをみて、神原が頷く。僅かに笑んで。

「はい、可能性は高いですね」

「そうだ、…――。よし!ちなみに、いままで緊急コールはきてないぞ」

強い視線で神原をみていう神代に。

「…――――はい」

思わず微笑んでいた。

「そうですね、…。何とか、なるかもしれない」

「かもじゃなくて、するんだ」

「――――…はい」

厳しい表情になって、神原が見返してから。

 ふと、困惑したように窓の外を見る。

 すっかり黒く窓外が染まっている。

「いま、…何時ですか?」

口許に手をあてて、当惑している神原に。

 神代が明るく笑む。

「三時間だ、おまえが寝てたのは。よく起きたな?」

揶揄うように黒瞳が楽しげにみていうのを。

「…―――それは、」

「頭がすっきりしたろ?行くぞ、原先生達には此処に来てもらう。時間は掛るから、その間にもう一度患者を診にいくぞ」

思わず困惑したままどうしよう、と思っている神原に構わず。

 神代が、勝手に決めて先を歩いているのに。

 ―――まったく、この人は、…――――。

先を行く神代の背に微苦笑を零して。

「まってください、神代先生、―――」

そうして、その背に追い付く為に。




 臨時に作った資料を呼んだ医師達に配って神代がいう。

「先天性の遺伝子疾患による筋肉が柔軟に作られにくくなる病気だ。コラーゲンの取り込み異常が関係する。自己免疫疾患を併発して、その炎症が血管を傷つけて動脈硬化の原因となり、心筋梗塞を引き起こした」

「そして、急性心筋梗塞後に、心筋が耐えられず破裂」

神代に続けて神原が云う。神代が神原のみている心エコー画像の――白黒が荒い濃淡をみせる扇形の画面―――中に、見逃していた箇所をみてにくにくしげにくちを曲げる。

「くっそう!何でこれを見逃してたんだ!」

「でも、手術前に必要なものはみていましたよ?だから、処置ができました」

「…だからってな!おまえが起きるまで三時間もおれはこれを前にしてたんだぞ?ったく、――――」

手術前にみたCT画像より先に、検査データとかをみていたから仕方ないと思いますが、とおもいながら苦笑して神原が神代をみる。

「とにかく!これらを元に、治療をお願いしたい。原先生、森川先生」

神代が振り向いていうのに、原が面白がっているように笑う。

「わかりました。これで方針が立てられると思います」

「よろしく頼む。患者の容態はどうだ?再手術の可能性は?」

ICUから来ていた術後管理チームの加藤医師がじっと手許の資料をみる。

 それから、目を瞑って天を仰いで。

「ですねえ、…。ゼロとはいいませんが、――――」

「加藤先生、はっきりしてくれ」

「ダメですよ、神代先生」

面白そうに笑んで、原が突然、神代の両頬をつまんでひっぱる。

「…――――は、はらせんせいっ!」

「きびしーい顔ばっかりしてると、患者さんにもうつりますからね?笑顔でないと」

にっこり、笑んでいう原の視線が、神代の頬をつまんだまま神原に向くのに、つい顔が引きつる。

「原先生、…―――結構過激ですね」

「そう?神原先生も、外科の先生は結構、体育会系だったりで、気短だったりするから、ね、森川先生」

「…――あ、はい?聞いてませんでした。あの、神代先生、質問があるんですが」

体格の良い美女の原に振られて、まったくそれに構わず森川が黒縁眼鏡を右手で掛け直しながらいう。

「これですね、…十三年前のデータは、原本はどこに?」

「そこにあると思う」

「どうも」

短くいうと、神代が示す資料を抱えて読み出す森川を、しばし沈黙して神代と神原が眺めて。

「…―――で、内科は割と変人が多いとかいうのか?」

神代がじっと原を見返していうのに、原がにっこりと笑う。

「いえいえ、外科さんには負けますとも」

「確かに体育会系が多いけど、あーいうタイプとか、」

 云い掛けた神代が、マッチ棒のような加藤の視線の先を思わず振り返ろうとして。

「よーう、忙しい病理医の辰野ちゃんが、いとしい神代くんの為にきてやったぞー恩にきろよー」

「誰も呼んでないっ!」

後ろからべったり抱きついて、神代の肩に頤を乗せてへらっと笑んでいる辰野に、原が。

「一応、止めておくけど。辰野さん呼んだのは私です。だめよ、辰野ちゃん、いくら神代先生で遊ぶのが面白くてもセクハラしちゃ」

「何でこいつを呼ぶんだ、…!それに、何で俺がセクハラされなくちゃいけないんだっ、…!」

「そりゃ、面白いから」

「そーいういじめが心の荒廃を招くんだぞっ…!」

「真面目な話、おれが呼ばれないと、外科医の神代ちゃんと神原ちゃんじゃ、病理医のおれがいないとおてあげでしょー?心臓内科の原ちゃんもそうだよねー」

「お、ま、えな!それを、おれの背中に引っついていう必要がどこにあるんだよ!」

怒って引き離そうと背中に手を廻そうとする神代を、笑って辰野が交わしている。

 思わずもその光景に神原が言葉をなくしてみていると。

「…―――ええと」

「患者さんもいないし、レクリエーションだと思って許してあげて。割とこの病院の男性陣、ヘンな人達が多いから」

困っている神原に、原が冷静なコメントを。

「…――それってさべつー!女性陣だってへんじゃんー看護師チームは真面目な人多いけどさ」

辰野が神代の背に隠れて遊びながらいうのに、原が首を傾げて。

「そう?…看護師チームも割とヘンな人が多いけど、…。うちの採用基準なのかしらね?」

首を傾げて、神原をみていう原に。

「あの、そこでぼくをみます?」

つい構える神原に原が何かいいかけて。

「あ、辰野さん!良い所に!」

突然、森川が顔をあげて、辰野を発見して眼鏡を直しながら寄って来る。それに、辰野が笑んで。

「おー、ようやく森川ちゃんめざめたー?よばれてきたよーん」

「はい、あの、ここなんですけどね?」

森川に向き合って、ようやく背中から離れた辰野に、神代が首を振る。

何やら、細々と説明している辰野と森川をみながら、神原が訊くのに。

「あの、つまり?」

「なんだ、いや、…。どうした?神原」

振り向いて真面目な顔になって、神代が訊くのに質問しようとして固まる。

「――――――…っ!何してるっ!」

「命をかけた、―――…神代ちゃん遊び、かなあ、…。こないだもおれのこと、便利使いしたよね?ね?おれの休日――!花ちゃんがおこっちゃうじゃん」

「…―――花ちゃんというのは」

神代の背にまた取りついて遊んでいる辰野に、つい真面目に神原が聞いてしまうのに。

「ん?おれの奥さん!」

「辰野さん、…そういえば、既婚者でしたね、…」

しみじみとみてしまう神原に、にっこりと神代の背から腕を廻して遊んで、とても良い笑顔で辰野が応える。

「ん、そ!まあでもさ、」

不意に、真面目な顔になるのに、神代が眉を寄せて振り向く。

「どうした」

「いや、…。よく見つけたと思ってね。こっちも病理標本みて気になってたんだわ、…。ティシュー――組織がね、本当にティシューみたいに紙みたいに薄い。…炎症も多かったろうし、…こりゃ、治療難儀ですよ、原先生」

表情を消して、淡々と辰野がいうのに、原が無言で頷く。

「…――わかったから、辰野、…。それを、おれの肩に肘をつきながらいうな!」

少し小声になって、怒っていう神代に、瞬いて辰野が見返す。

「あ、ごめん、神代ちゃん」

「全然、謝ってないだろ、…。カタチだけでっ」

「かたちが大事なんだよー神代ちゃん!愛してるからゆるしてー」

「や、め、な、い、か、…!」

遊んでいる辰野に、原が一人頷いて。

「わかったわ。森川先生、これから、投薬をどうするか検討しましょう」

「そうですね、…」

「おれは、ICU戻ります」

加藤の声がして、神原がそちらを向いて。

「…――――加藤先生」

「神原先生もきちんと休んだ方がいいですよ。うーん、よくねたーっ」

「はい、ありがとうございます」

白いテーブルから身体を伸ばして起き上がった加藤が、すたすたと出て行くのをつい見送る。

 原先生も、森川先生も、――――。

 そして、まったく反応しない神代に辰野も。

 …見慣れてるんですね。

 思わずかれらをみて思う神原に。

「すまん、神原、先に何かいいかけていなかったかっ?」

ようやく辰野が遊ぶのにあきたのか離れて出て行くのに、慌てて神代が向き合っていうのに。

 ええと、…―――。

 真剣な顔で見詰めてくる神代に。

「…――――いえ、その、大丈夫です」

「本当に大丈夫かっ?」

 つい、見返して。

 ―――遊ぶ辰野さんの気持ちが少しわかるかもしれない、…。

 うっかりそう思って、―――――。

「おまえっ、なにかヘンなこと考えてるだろっ!」

鋭く指摘してくる神代に、つい笑みが零れてしまって。

「おいっ、おまえなっ?くそっ、…!メシ食いに行くぞっ!」

「え?」

そうして、資料を置いたまま部屋を出て行く神代に思わず見送ってしまったら。

「おい!」

しばらくして、ばたん、と扉が開いて。

顔を覗かせて睨む神代に、瞬いて見返すと。

「はやくしろ!おれは、この部屋施錠しなくちゃいけないんだよ!でないと、メシ食いにいけないだろっ!メシ!」

「はい、すみません、…メシ、ですか?」

部屋を出る神原に眉を寄せて睨んで、神代が施錠して歩き出す隣で。

「ごはんを?」

「メシ食わないと死ぬだろ!栄養分を摂取しないと人間は死ぬんだ。食事の目的は三大栄養素とビタミン、ミネラルを過不足無く摂ることにある!」

「…――はい」

「だからだ!めし、食いに行くぞ!」

「ええと、…その、」

僕も一緒にですか?と。つい茫然としながら隣をついていってしまって。

 ふと気付いて、思わず微笑みが零れていた。

 ――――この人は、…。

 つまり、僕を休ませようとしてくれてるんだろうか?

「…――――」

どうも、そういうことみたいだけど、と。

 つい、微苦笑が零れてしまって。

「何だ!おまえ」

振り向いて睨む神代に微笑む。

「いえ、…ありがとうございます」

「…―――――何の話だっ、…。いくぞ」

ポケットに手を突っ込んで、早足で歩く神代の隣に。

 ―――何だか、人に心配されるのは、…随分と。

 久し振りだな、と…。

 うっかり泣きそうになって、天井を仰ぐ。

「あ、神代先生、着替えないんですか?まさか白衣のままで?」

「…忘れてたっ、…戻るぞ!ロッカーあっちだ!」

慌てて踵を返す神代に、思わず笑って。

「おい、あのな?おまえももっとはやく気がついてたら云えよっ!」

「すみません、全然気づいてませんでした。…ロッカー、こっちでしたか?あちらでは?」

「…―――」

神原の指摘に、神代が完全に足を留める。

「神代先生?」

不思議そうにみる神原に。無言で立っているから、覗き込んでみると。

「…道案内してくれっ」

「――――神代先生、まさか、…」

驚いてみている神原を、真っ赤になって見返して。

「だからっ、…。ここは新しいんだよ!だからなっ?」

「つまり、道に迷ってるんですね?…方向音痴なんですか?神代先生」

「…――――悪いかっ!」

真直ぐ見返してくる黒瞳に。

思わずも、神原が破顔して。

「…―――おまえなっ?神原っ!」

「す、すみませ、…―――」

身体を二つに折って、笑うのを堪えている神原と。

その前で怒っている神代光。


 二人の旅路は、まだまだ続くようである。―――――




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