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光   作者: 高領 つかさ(TSUKASA・T)


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光 九




「あの、…―――神代先生、」

病院の中庭に出て歩いている神代を見つけて神原が話し掛けるのに。

「…何だよっ?」

神代が子供のようにくちを尖らせて振り向いていうのに。

 思わず、吹き出しそうになってから、慌てて顔を作って。

「…おまえな?いま、笑おうとしてたろう?」

「それは、…――――すみません、でも、…。ええと、その、…」

「何の用だ!はっきりといえ!」

神代が背を向けていうのに、つい少し微笑んでしまってから。

「いえ、その、…―――。はい、神代先生」

「何だ」

背を向けたまま先を歩いて、空に視線を向けていう神代に。

「…―――――すみません、僕は、…この病院のいまの状態で手術をするということに、腹を立てていて。」

微笑んでいう神原に、神代が足を留める。

 それに、しずかに微笑んで。

「すみません、本当に。ちゃんと確認もせずに。でも、ちゃんと術後管理の準備もされていたんですね」

穏やかにいう神原に、背を向けて空を睨むようにしながら。

「…それは、別に謝る必要はないだろ」

「そうですか、…?」

「だよ。俺も、この病院で手術をするのは止めろといわれてる。別の病院に転院させろとか、いろいろな、…――――わかってるよ。此処でするのが無茶だってことは!」

空を睨みながらいう神代に微笑む。

「ですから、ちゃんと準備をされた。…交替の看護師さん達も手配済みだそうですね。それに、…看護師だけでなく、栄養士さんに栄養管理まで、きちんとされている処には初めて来ました」

「…―――栄養は大事だろ。腹が一杯な方が、人間元気が出る」

「…ええと、それは、―――」

「飯がちゃんと食えないときには、計算しないといけないしな。専門家がいた方が確かだろ」

ぶっきらぼうにいう神代につい笑みが零れて。

「おい、あのな?」

神原?といって振り向いて睨む神代に、つい微笑んで。

「いえ、すみません。…確かに、その通りです」

「おまえな?人の顔みて笑うなよ、まったく、…―――」

睨みながらいう神代に、やはり、つい微笑んでしまって。

「おまえなっ?まったく、神原!失礼な奴だな!」

「…はい」

思わずも笑みながらいう神原に。

 む、と神代が背を向けながら睨んで。






 むっとして、先に歩いていく神代の後を、面白くなってついていきながら。

「…どうして、此処で手術を?」

静かに訊ねる神原に、神代が向こうを向いたままでいう。

「…――――こどもが、…―――」

「はい」

向こうをむいて、くちを結んで。

 じっと何かを見つめるようにしていう神代を前に。

「…あの子が、糖尿病なんだ。Ⅰ型で入院がまだ必要で、…――小児病棟は、中々空いてないんだ。婦人科、あるいは、他の科でもいいが、―――と一緒には中々空いてない」

「それで、…―――あの子とお母さんの為に?」

「別に、為とか、だから、…―――知らないよ。…そういう、だから、…―――」

むっ、となって少し俯いて誤魔化そうとする神代を覗き込むようにしてみて。

「でも、いまいいましたよ?…そうですね、確かに、小児科は中々空きがありませんね、何処も」

「…―――おまえな、…。だからっ、…つまり、此処でも、何とか態勢を整えたらやれるから!」

「それで、無理に態勢を整えて、人を他所から呼んでしたんですか?それに、開腹になる可能性も、―――もとから考えておられた。それで、患者さんに話もしてあったんですね?それで手術をスムーズに移行できた」

考えてみれば当り前だな、と思うことをそのときは思い付いていなかった自分に多少ならずあきれながら神原が訊くのに。

 事前に採取した結果が悪ければ術式をかえ移行する説明をしていなければ、そもそも手術はできない。それに、開腹手術の為の準備があれだけきちんと整っていたのも、事前に予想していたからですね、と。実際に開けてみなければわからない腫瘍が悪性かどうかの結果を予測して準備できていた神代の行動を見事だと思うのだが。

 背を向けたまま、むっ、と神原が感心していることには気付かずに神代がいう。

「…別にそれはっ、…おまえも、検査結果みてそう思ってたろ」

睨むようにする神代をじっとみて。

 首を傾げて観察するように間近でみてしまう。

「…そうですね、…―――。確かに」

「だからっ、…―――くっつくな!」

ふい、と跳び離れていう神代に、あっけにとられる。

 ―――元気な人だなあ、…。

思いながら、つい少しばかり微笑んで訊いていた。

「でも、随分と経費掛りますよ?こんなことばかりしていたら。効率もよくないでしょう」

微笑んでしまって、背中を見詰めている神原に。

背を向けたまま。

「…―――そんなのっ、…――!新規開業するまでの間だよっ、…!いま建ててる病棟が使えるようになるまでだっ!」

「え、…?新規、ですか?」

随分と間の抜けた顔になっている自覚のある――神代が振り向かずにいてくれるのが有難い―――神原に。

 向こうを向いたまま、神代が。

「そーだよ!おまえだって知ってるだろ?うちは、いま建て替え中なんだよっ、…!全部の病棟を一度にはできなくて、いま此処だけ残ってるけどなっ、…!だから、それまでの事だから、いいだろっ!そりゃ、…それにしたって、確かに経費が掛かるのは解るけどな!でもだ!」

「…でも、何です?」

 ――――新規、…つまり、新しく建て替える処なんですか、と。

「いまのは潰して、―――でも、それまでは有効活用してもいいだろっ!そんな、すぐに移れない人だって、いやつまり、」

「―――潰すまで、はい、潰す、…」

 そんな言葉を、聞いた気がします、とぼんやりくちにしている神原の言葉は聞いているのか、いないのか。

 神代が、拳を握って空を睨む。

「…――――それにだっ!おれは、いまさら、こんかいの処置とかで、数百万借金が増えた処で一緒だっ、…!」

「数百万って、…え?」

そして、茫然としていた神原が顔をあげて聞き返すのに。

 振り向いて、黒瞳で睨んで神代が言い切る。

 拳をにぎって、力を籠めて。

「…―――いまさら、だ。おれは、この建替えで五十七億の借金をしたからなっ、…―――!病院全体の分にはまだ不足だけどっ!」

「…―――五十七億?億ですか?」

茫然と聞き返す神原に。

む、と見返して神代が云う。

「悪いか!…―――もし返せなかったら、十年――か、もう少し、海外で金持ち相手に手術しまくれば、返せないことはないっ、…!」

「…それは、そう、かもしれませんが」

思わず見つめて言葉のない神原を神代が睨み返す。

「で、なんだっ、!」

思わず、何が云いたかったんだろう、と考えて。

 黒瞳を凝っとみて。

「いえ、…―――でも、この病院で、つまり、…国内で診療されたいんですよね?手術とかも」

「…――――そ、そうだっ、…!それがどうしたっ!」

「それだと、保険報酬範囲内ですから、それだけの収入を得るには無理が」

「…真面目な顔でいうなよ、…。それくらい解ってるよ!だからっ、…新規開業後に赤字になって、にっちもさっちもいかなくなったら、だろっ、…!」

「…――――」

言い切る神代に、思わず言葉もなく思考がちょっと真っ白になって。

 神代が、首を傾げる。

「…―――おい?神原?…――大丈夫か?」

 ――――経営感覚の無い、…つまり、借金で潰れそうな、…――。

 話は全然違うんですが、全然違わないでもないような、…。

此処へ赴任する前に聞いた、何だかいろいろと騙されたという気がする言葉の数々がふと脳裏に蘇るが。

―――そういう処だけは、間違っていない気がします、…。

 それって、と。

 思わず、額に手を当てて動かずに考えている神原良人と。

 どうやら真剣に、その神原の心配をしている神代光。

「…―――おい?だからっ、…―――どうしたんだよ?知恵熱か?おい?しっかりしろっ、…―――おい?神原?悪いもんでも食ったかっ?」

真面目に心配している神代に、茫然としている神原と。

 二人の出会いから辿る旅路は、こうして始まったものらしく。


 衝撃のファーストコンタクト。

 五十七億の借金を抱えた外科医神代光と。

 どうやら同じ病院で働く事になった外科医神原良人。

 二人の旅路は、まだまだこれから、波乱含みのようである。


 なべて世は、ことも、…なし?




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