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好感度マイナスの恋巫女候補に転移しましたが、領地だけは建て直します  作者: 御堂あゆこ
第1章

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02. 適性確認、開始

 選択肢を「はい」に合わせた瞬間、画面にノイズが走った。


「……え?」


 視界が、白に塗り潰される。

 まぶしい、というより、五感すべてが急速に剥ぎ取られていくような喪失感だけが残った。


 次に意識が浮上したとき、私は“何もない空間”に立っていた。


 背景も、足元もない。視界の端だけが、砂嵐のようにゆらゆらと揺れている。

 夢にしては情報量が多い。ゲームのロード画面に似ているが、こんな演出は見たことがない。


 そのとき、どこかで聞いたことのある女性の声が響いた。


「Super Hardモードへようこそ。これからあなたの適性を確認します」


 ……この声、ゲームのナレーションだよね。でも、こんなセリフ、あったっけ?


 考える間もなく、視界の中央に選択肢が浮かび上がる。


△▼△▼△▼△▼△

【質問1】あなたが信じる“強さ”とは?

▷ A. 努力

▷ B. 優しさ

▷ C. 計画性

▷ D. 愛情

△▼△▼△▼△▼△


 見慣れたテンプレ構成。乙女ゲームでよくある“性格診断式スタート”だ。

 でも、こんな分岐構造、あっただろうか。スキルやルートに影響する仕様は、開発中に一度も聞いた覚えがない。


 ……とはいえ、立ち止まっていても進まない。選ぶしかなさそうだ。


 努力も優しさも否定しない。けれど私にとって強さとは、感情に振り回されず、状況を見極めて最適解を組み立てる力のことだ。

 先を読むこと。崩れない手順を作ること。


 だから、選ぶならC——計画性。


「『洞察補正(どうさつほせい)』を取得しました。洞察力にプラス補正が入ります」


 ……洞察補正?


 計画性を選んだのに、そこで補正が入るのかと一瞬ひっかかった。

 けれど、すぐに腑に落ちる。先を読むには、まず物事の本質を見抜かなければならない。

 見当違いの理解の上に、まともな計画なんて立てられない。


 なるほど。そういう形式なのね。


 淡々と処理しながら、胸の奥にかすかな興奮が灯る。スキル名も取得条件も、私は知らない。

 ゲームの全体設計を把握していたつもりだったのに、これは完全に未知のデータだ。


△▼△▼△▼△▼△

【質問2】あなたが一番守りたいものは?

▷ A. 矜持

▷ B. 未来

▷ C. 日常

▷ D. 絆

△▼△▼△▼△▼△


 再び現れた選択肢。今度は“守りたいもの”か。


 問われるまでもない。

 私はずっと、誰かの期待にも、役割にも、自分に課した義務にも、自分なりの答えを出してきた。

 あの子のように誰かに甘えたこともない。愛嬌で乗り越えられたこともない。

 私が頼れたのは、自分自身だけだった。


「A、矜持」


 やや乾いた声で、答える。


「『不屈の矜持(ふくつのきょうじ)』を取得しました。精神干渉への耐性が上昇します」


 不屈の矜持?


 一瞬、意味を測りかねる。

 その直後、胸の奥に、見えない芯が一本通ったような感覚が走った。

 目には見えないのに、自分の内側に薄い壁が一枚増えたような、不思議な手応えが残る。


△▼△▼△▼△▼△

【質問3】あなたは困難にどう向き合いますか?

▷ A. 正面から分析して乗り越える

▷ B. 誰かに頼る

▷ C. 気持ちで突き進む

▷ D. 迂回して安全策を取る

△▼△▼△▼△▼△


 本気で聞いてるの?


 思わず苦笑する。

 BもCも、私には“判断を他所に預ける”選択に見えた。

 Dは嫌いじゃない。でも、まず構造を見なければ対処は決められない。


「Aに決まってる」


「『霊気解析(れいきかいせき)』を取得しました。世界の霊気の歪みが、一部視認可能になりました」


 "世界の歪み"——その言葉が、やけに耳に残った。


 一瞬、視界が複数の層へ分解された。円、直線、散布図のような構成——見覚えのないデータ構造だ。

 次の質問が、すぐに現れた。


△▼△▼△▼△▼△

【質問4】あなたの最大の弱点は?

▷ A. 短気

▷ B. 臆病

▷ C. 頑固

▷ D. 悲観的

△▼△▼△▼△▼△


「……痛いところを突いてくるな」


 思わず声が漏れる。


 誰にも頼れなかった自分。甘えようとして叱られた、あの日の記憶。愛嬌のある妹の、あの無邪気さ。

 私だって、嫌というほどわかってる。

 助けてほしくても言えない。頼れば楽になる場面でも、意地を張ってひとりで抱え込んでしまう。

 そういう頑なさが、自分の弱さだ。


「C、頑固」


 その瞬間、右手の人差し指にひやりとした感触が走った。

 細い銀の指輪が、まるで最初からそこにあったかのように、しっくりと馴染んでいる。


「『孤心の指輪(こしんのゆびわ)』を取得しました。協調性にマイナス補正が入ります」


 ちょっ……! 協調性マイナスって。


 図星だった。

 図星だからこそ、改めて言語化されるとさすがにちょっと、ぐさっとくる。


 ――言われなくてもわかってるよ。空気読めないって。


△▼△▼△▼△▼△

【質問5】あなたは、この世界で何を望みますか?

▷ A. 自分が愛されること

▷ B. 誰かの笑顔を守ること

▷ C. 世界の平穏を守ること

▷ D. 自分の手で未来を作ること

△▼△▼△▼△▼△


 考えるまでもない。

 誰かに与えられる幸せじゃなくて、自分の足で立って、選び取る未来が一番いいに決まってる。


「Dしかない」


「『分岐逸脱(ぶんきいつだつ)』を取得しました。選択肢から逸脱し、あり得なかった未来を選ぶ権利を付与します」


 その瞬間、空間全体が軋んだように揺れた。

 足元に幾何学模様の盤面が広がる。幾重にも重なった線と光が、静かに回転を始める。


△▼△▼△▼△▼△

特殊アイテム『万象盤(ばんしょうばん)』付与

神獣契約、準備完了

中立存在の干渉を許可

△▼△▼△▼△▼△


「……ちょっと待って。そのアイテムはいったい……」


 思考が最後まで至る前に、視界が閃光に包まれた。


「Super Hardモード、開始します」


 床が崩れる感覚。

 夢でよくある、重力が反転するような、無音の落下。


 あ、これ、夢ならここで目が覚めるやつだ。


 けれど、十年かけて積み上げた"私の日常"は、いつまでたっても戻ってこなかった。

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