愛おしい聖女様
王家に嫁ぐグレースの代わりに爵位を継ぐため養子縁組された遠縁の親戚である義弟ヒューゴ・イポリート・エルキュール。
彼は婚約者がいるにも関わらず聖女ユリアにゾッコンだった。
何故なら、厳しい【姉上】や大人しいだけの【婚約者】よりよほど自分を安心させてくれるから。
「聖女様、本日も学業にお仕事にお疲れでしょう?あまりご無理をなさらないでくださいね」
「ヒューゴ様ぁ、ありがとうございますぅ!ヒューゴ様がそうやって気にかけてくれるから、頑張れますぅ!」
「ふふ、それはよかった」
「でもぉ、学園の勉強は難しいですぅ」
「なら、僕がお教えしますよ」
「え、ヒューゴ様がぁ!?ありがとうございますぅ!」
ユリアは聖女としては立派に活躍しているが、マナーも礼儀も知らない。
それどころか勉強すらろくに出来ない。
その優秀さとダメダメさの両立がヒューゴを安心させた。
姉上も婚約者も、完璧すぎる淑女で面白みもなくそばにいて疲れるのだ。
「聖女様のそばは落ち着きますね」
「本当に?ユリア嬉しい!」
「本当ですよ。僕の周りの女性は聖女様のような魅力がなくて…」
「ヒューゴ様、大丈夫ですかぁ?お悩みがあるなら聞きますよぉ?」
「ありがとうございます。でも聖女様といられるだけで幸せですから、大丈夫ですよ」
「ヒューゴ様ぁ、無理はしないでくださいねぇ?」
心配そうにこちらを見るユリアに頬が緩む。
こうした気遣いがユリアの魅力だ。
ユリアにどんどん惚れ込んでいくのを自覚して、いけないと思い直す。
何故なら自分には婚約者がいて、さらにユリアは王太子殿下のお気に入りでもある。
さすがにこれ以上ユリアにのめり込むのは婚約者に申し訳ないし、手を出したりなんてしたら王太子殿下から悪い評価を受けてしまうだろう。
そんな頃だった。
ユリアがグレースからいじめを受けていると王太子殿下に相談を受けた。
姉上を優先して庇うべきか、ユリアを守るべきか。
ヒューゴはグレースを告発することを選んだ。
しかし断罪しても、あまり厳しい処分は下されなかった。
それでもユリアは健気に笑う。
どうしてもヒューゴは、さらにユリアにのめり込む自分を止められなかった。
とはいえ、告白はしない。
結婚なんて願望も持たない。
ただ、そばにいられればそれでいい。
それ以上の不義理は働かない。
その線引きがせめてもの婚約者への償いのつもりだった。
―…なんの償いにも、なっていないのだけれど。
そして、それを自覚もしていたけれど。
それは、見ないふりをした。




