第94話 お見合い
スポンサー社長から持ちかけられたお見合い。
乗り気ではなかったブランシュだったが、
社長の勧めもあり、一度会ってみることになった。
相手は大手企業の御曹司。
仕事の縁から始まった出会いだったが――
この日、思いがけない時間が待っていた。
ホテルのレストラン。
窓の外には広い庭園が見える。
席には四人が座っていた。
ブランシュ。
スポンサー社長。
その息子である御曹司。
そして事務所の社長。
スポンサー社長が言う。
「今日はお時間をいただいてありがとうございます」
社長が頷く。
「こちらこそ」
スポンサー社長は息子を見る。
「実はこの子、ブランシュさんのコンサートを見ましてね」
御曹司は少し緊張した様子で言う。
「先日のキャットスターのライブ、拝見しました」
ブランシュが頷く。
「ありがとうございます」
御曹司は続ける。
「妹さんが復帰された日ですよね」
「ノアールさん」
ブランシュの表情が少しやわらぐ。
御曹司は言葉を選びながら言った。
「ステージを見ていて思ったんです」
「ブランシュさんは」
「妹さんのことをとても大事にしているんだなと」
社長たちが静かに聞いている。
御曹司は続ける。
「歌っているときも」
「視線や立ち位置で」
「妹さんを守っているように見えました」
少し照れながら言う。
「音楽のことは詳しくありませんが」
「人の気持ちは、少し伝わってきました」
スポンサー社長が笑う。
「この子、こういうところだけはよく見ているんですよ」
御曹司が少し困った顔をする。
「父さん……」
ブランシュは小さく微笑んだ。
少しして御曹司が言う。
「でも」
「ブランシュさんはモテるでしょう?」
少し苦笑する。
「正直、僕なんか」
「お見合いじゃなくても、もっと素敵な方と出会えるんじゃないかと思っていました」
ブランシュは小さく笑った。
「意外とモテないですよ」
御曹司が少し驚く。
ブランシュは続ける。
「芸能の仕事をしていると」
「声をかけられることはあります」
「でも」
「外見だけだったり」
「軽い感じの方が多いんです」
御曹司が静かに聞いている。
ブランシュは続ける。
「もしお付き合いするなら」
「真面目で誠実な方がいいと思っています」
少し笑う。
「でも」
「今まで出会ったことがないんです」
そのとき。
スポンサー社長が笑う。
「それなら」
息子を見る。
「うちの息子は誠実すぎて困るくらいですよ」
御曹司が慌てる。
「父さん……」
スポンサー社長は肩をすくめる。
「研究ばかりしていて」
「女性と話すのも慣れていないんです」
社長が時計を見る。
「では、このあと少しビジネスの話を」
スポンサー社長も頷く。
「そうですね」
二人を見る。
「私たちは仕事の話をしますので」
「よかったらお二人は庭でも」
窓の外には静かな庭園が広がっていた。
二人は庭に出る。
冬の空気。
少し冷たい。
御曹司が空を見上げる。
「今日は少し寒いですね」
ブランシュが微笑む。
「ええ。でも空気が綺麗ですね」
庭には白い椿が咲いていた。
そのとき。
白いものがゆっくり落ちてきた。
御曹司が空を見上げる。
「……雪」
細かな雪が舞い始めていた。
椿の花の上に静かに落ちていく。
しばらくして――
雲の切れ間から光が差した。
柔らかな冬の光。
雪がその光を受けて、きらきらと輝く。
庭の空気が一瞬、明るくなる。
御曹司が小さく息を吐く。
「……綺麗ですね」
ブランシュも空を見上げる。
光の中で雪が舞っている。
御曹司は少し照れながら言った。
「ブランシュさんに少し似ていると思いました」
ブランシュが言う。
「私ですか?」
御曹司が頷く。
「外見ももちろんですが」
「それ以上に」
「長く努力してきた人の静かな美しさを感じました」
少し間。
御曹司が言う。
「もしよければ」
「今度クラシックの演奏会を聴きに行きませんか」
「ブランシュさん、好きそうだと思って」
雪は静かに降り続いていた。
ブランシュは少し考えてから言う。
「ええ」
「ぜひ」
夜。
マンション。
リビングにはノアールとショコラがいた。
ドアが開く。
ブランシュが帰ってくる。
ノアールがすぐに聞く。
「お姉ちゃん」
「お見合いどうだった?」
ブランシュはコートを脱ぎながら言う。
「最初は」
「正直、断ろうと思っていたの」
ショコラが笑う。
「でも?」
ブランシュは少し考える。
そして言う。
「こういう出会いも」
「悪くないかもしれない」
ノアールが笑う。
「お姉ちゃん」
少し楽しそうに言う。
「恋してる顔してる」
ブランシュが振り向く。
「え?」
ノアールが笑う。
「顔赤いよ」
ショコラも笑った。
ブランシュは少し照れたように視線をそらした。
ブランシュのお見合いの回でした。
最初は仕事の縁から始まった出会いですが、
庭での静かな時間の中で、二人の距離も少し変わったようです。
三姉妹それぞれの時間も、少しずつ動き始めています。




