第90話 復活の歌
キャットスターの全国ツアー。
その前座として、LUMISORAがステージに立つ。
けれど――
この夜、会場を包む熱気はそれだけでは終わらなかった。
誰も予想していなかった瞬間が、
今、ステージで起きようとしていた。
ステージのライトが落ちた。
客席が静まり返る。
ほんの一瞬の沈黙。
次の瞬間――
重低音がホールを揺らした。
ライトが一斉に弾ける。
「LUMISORAです!」
ソレイユの明るい声とともに、三人がステージへ飛び出した。
歓声が上がる。
ルミエールが最初のフレーズを歌い出す。
凛とした歌声がホールの空気を一気に引き締めた。
ソレイユが客席に向かって手を振る。
そして――
その中央で。
ノアールもマイクを握っていた。
ライトの熱を肌に感じる。
大きなステージ。
何千人もの視線。
胸の奥がわずかに速くなる。
けれど、足は止まらない。
ノアールは歌った。
三人の声が重なり、
音楽がホールいっぱいに広がっていく。
客席から声が上がる。
「ノアールだ!」
「本当に復帰してる……!」
驚きと歓喜が混ざったざわめきが、波のように広がった。
曲が終わる。
一瞬の静寂。
そして――
割れんばかりの拍手がホールを包んだ。
LUMISORAの三人は肩で息をしながら深く頭を下げる。
ノアールは客席を見た。
遠くの席。
帽子を深くかぶったレンが、腕を組んで座っている。
何も言わない。
ただ、まっすぐステージを見ていた。
ノアールは小さく息を吐いた。
「ありがとうございました!」
三人はステージを後にした。
そして――
キャットスターのライブが始まる。
歓声が一段と大きくなる。
ブランシュ。
ショコラ。
二人がステージに立つだけで、
空気が一瞬で変わった。
圧倒的な存在感。
歌が始まると、ホールは完全にキャットスターの世界に包まれた。
関係者席。
凛が腕を組んでステージを見つめている。
海斗が横で小さく笑う。
「さすがだな」
凛は小さく頷いた。
「当然でしょ。キャットスターよ」
二人はそのままステージを見続ける。
二曲目の途中。
客席のどこかから声が上がった。
「ノアール!」
別の場所からも聞こえる。
「ノアール!」
「ノアール!」
その声は連鎖していった。
小さな波が、
次第に大きなうねりになっていく。
「ノアール!」
「ノアール!」
「ノアール!」
ホール全体が同じ名前を叫び始めた。
ステージの上。
ブランシュがショコラを見る。
ショコラが小さく笑った。
ブランシュはマイクをゆっくり上げる。
客席を見渡し、静かに言った。
「……やっぱり」
少し間を置く。
「あなた達が待っているのは」
そして微笑む。
「私たちの妹よね」
歓声が爆発した。
ブランシュが続ける。
「ノアール」
「戻ってきなさい」
ステージ袖。
ノアールは驚いた顔で立ち尽くしていた。
スタッフが慌てている。
ショコラがステージから手を伸ばす。
「ノアール」
胸が強く脈打つ。
記憶がよぎる。
倒れたステージ。
暗くなった視界。
すべてが遠くなったあの瞬間。
――闇。
でも。
ノアールは静かに息を吸った。
(もう違う)
あの闇は消えた。
今ここに立っているのは
自分の力で立っている私だ。
ノアールは顔を上げる。
そして――
一歩。
光の中へ踏み出した。
その瞬間。
ホールが揺れた。
「ノアール――!」
歓声が地鳴りのように響く。
ステージの中央。
ブランシュとショコラの間。
かつての――
キャットスターのセンター。
ノアールがマイクを握る。
イントロが流れ始めた。
聞き慣れた旋律。
けれど。
今はまったく違う意味を持つ音。
ノアールは歌った。
迷いなく。
まっすぐ前を見て。
客席のあちこちで、涙が光っていた。
レンは静かにステージを見つめている。
凛が小さく目を細めた。
歓声が歌に重なる。
祈るような声。
拍手。
キャットスターの歌が、ホールいっぱいに広がっていく。
ノアールの復活は――
もう誰にも止められなかった。
キャットスターのステージで、
ノアールは再びセンターに立ちました。
闇の力ではなく、
自分自身の力で。




