第88話 社長室に呼ばれる
社長室に呼ばれた。
レンと海斗のことを、怒られるのではないか。
ノアールはそう思っていた。
事務所に呼び出された。
ノアール。
ブランシュ。
ショコラ。
三人そろって社長室に入る。
ノアールは少し緊張していた。
レンのこと。
海斗のこと。
何か言われるかもしれない。
社長は三人を見た。
「今日は二つ話がある」
「まず仕事の話だ」
三人が静かに聞く。
「キャットスターのツアーがある」
社長はノアールを見る。
「LUMISORAで前座に立ってもらう」
一瞬、部屋が静かになる。
ノアールが顔を上げる。
ブランシュとショコラも少し驚いている。
社長は続けた。
「ノアールは個人では結果を出しているが」
「LUMISORAはまだ全国では弱い」
「全国に名前を覚えてもらういい機会だ」
少し間を置く。
「キャットスターの次の世代になるつもりでやれ」
三人は小さく頷いた。
社長は封筒を机の上に置く。
「もう一つ」
ブランシュを見る。
「お見合いの話が来ている」
ブランシュが少し驚いた顔をする。
「スポンサー筋だ」
「会うかどうか、考えてみてくれ」
封筒の中には写真が入っていた。
背の高い男。
メガネをかけた知的な雰囲気の青年だった。
静かな目をしている。
社長は言った。
「断るなら断っていい」
「ただ話として来ている」
それだけだった。
打ち合わせは終わる。
三人は事務所を出た。
廊下を歩いていると——
「へぇ」
アンナが壁にもたれていた。
三人を見る。
「キャットスターの前座?」
笑う。
「良かったじゃん」
ノアールは黙っている。
アンナは続ける。
「レンのおかげで売れてきて」
「今度はキャットスターの前座」
少し声を落とす。
「でもさ」
アンナはノアールを見る。
「噂、聞いたよ」
ノアールの視線がわずかに動く。
「海斗にも手出したんだって?」
アンナは肩をすくめた。
「まあ、週刊誌に出なくて良かったね」
「気をつけなよ」
アンナはそう言って歩いていった。
三人は少し黙っていた。
ショコラが言う。
「……帰ろうか」
三人はそのままマンションへ向かった。
夜。
リビング。
テーブルの上に写真を置く。
「お見合いだって」
ノアールが言う。
ショコラが写真を覗く。
「誠実そう」
「優しそうな人」
ノアールはソファに座る。
「お姉ちゃんの人生だし」
「会うだけ会って嫌なら断ればいいじゃない」
ブランシュは写真を見ている。
「……恋愛結婚したいって思ってた」
少し笑う。
「音楽とかスケートとか芸能活動とか」
「ずっとそればっかりで」
「恋したことないんだよね」
写真をテーブルに戻す。
「お見合いは……」
言葉が止まる。
そのときショコラが言った。
「私ね」
二人が見る。
「好きな人いるの」
ノアールが少し驚く。
「大学の先輩」
「一緒に産婦人科やろうって言われてる」
ノアールは少し考えてから言う。
「お姉ちゃん、好きな人いたとき」
「ドラマの撮影ってどうしてた?」
ショコラは少し考える。
「好きな人がいると、演技できないこともあったなあ」
ノアールが静かに聞く。
ショコラは続ける。
「前にドラマやったとき」
「好きな人のこと考えてたら」
「全然演技できなかった」
少し笑う。
「だから現実は忘れて」
「その主人公として演じることにしたの」
ノアールは静かに聞いている。
ショコラは言う。
「自分じゃなくて」
「その役になる」
「その人がどうしてその人を好きなのか」
「その人として考える」
ノアールは小さく頷いた。
「……なるほど」
ブランシュは少し笑う。
「私は恋したことないから分からないけど」
「いつかしてみたいとは思ってた」
写真を見る。
「お見合いは……」
静かな夜だった。
キャットスターの前座。
そしてブランシュのお見合い。
それぞれの未来が、少しずつ動き始めます。




