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第86話 覚醒ライブ ― 第二夜 ―

覚醒は、歓声の中で終わらない。


光が落ちたあと、

本当に向き合うのは、自分自身。

ステージが震える。


ノアールの足元に、

黒と紫の紋様が浮かび上がる。


鋭い線。

冷たい幾何学。


空気が、わずかに裂ける。


レンが歌い上げる。

挑発するように、煽るように。


ノアールが応じる。


その瞬間——


彼女の瞳が、ふっと赤く染まる。


ほんの一瞬。


観客席最前列、

海斗の体が固まる。


凛の視線が鋭くなる。


音は止まらない。


二人の声がぶつかる。


火花のように。


ぶつかったかと思えば絡み合い、

絡んだかと思えば突き放す。


闇が高く脈打つ。


巨大LEDが反応する。


紫と黒の波が立ち上がり、

空間そのものを飲み込む。


プロジェクションが天井まで走る。


観客は叫ぶ。


「やばい」「神演出」


誰も疑わない。


これはショーだと。


舞台袖。


四本の杖。


言葉は交わさない。


杖が同時に床へ触れる。


白金の円陣が、静かに開く。


花弁のような紋様が幾重にも重なり、

空気を塗り替えていく。


低く、重なる声。


Umbra ad lucem.

Alba memoria.

Sol verus.

Redde veritas.


光が広がる。


押さえ込まない。


塗りつぶさない。


ただ、満たしていく。


赤かった瞳が、

ゆっくりと本来の色へ戻る。


最後の高音。


今度は——


二人の声が、深く重なる。


鋭さではなく、

芯で。


その瞬間——


天井から、本物の桜の花びらが舞い落ちる。


金色の光。


花びらが光を受け、

星屑のように降り注ぐ。


観客は総立ちになる。


拍手と歓声。


誰も知らない。


何が起きたのか。


ノアールは最後まで歌い切る。


息を整え、


目を閉じる。


光が落ちる。


歓声が、ゆっくり遠ざかる。


ステージ裏。


暗闇。


一歩、踏み出した瞬間。


ノアールの中に、すべてが流れ込む。


一気に、押し寄せる。


止まらない。


雨の夜。


海斗の部屋。


触れられた指先。


止めなかった。


止めなかった。


気づけば——朝だった。


桜の下。


泣いているレン。


頬に触れた唇。


「私、大きくなったらレンくんのお嫁さんになる」


魔法書。


唱えた言葉。


一文字、違った。


子役の控室。


凛が小声で言う。


「私、海斗が好きなんだ」


ノアールも笑う。


「私はレン」


「秘密ね」


小さな指で、口元を押さえ合う。


全部、繋がる。


全部、自分だ。


全部、自分がやった。


呼吸が乱れる。


視界が揺れる。


舞台袖で待っていた三人。


海斗。


レン。


凛。


目が合う。


合わせられない。


それでも、絞り出す。


「……ごめんなさい」


涙が零れる。


止まらない。


ノアールは走る。


ヒールの音が廊下に響く。


振り返らない。


光の残滓を背に。

闇は消えました。


でも、消えなかったものがあります。


それは記憶であり、

選択であり、

傷です。


ここから先は、静かな時間です。


ノアールがどう立ち上がるのか、

見届けていただけたら嬉しいです。

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