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第79話 「雨」

台本には、触れるだけと書いてあった。


でも感情は、台本通りには動かない。


雨は、演技を誤魔化さない。

「本番!」


人工雨が一気に落ちる。


冷たい水が頬を打つ。


台本では、軽く触れるだけのキス。


儚く。


一瞬で終わるはずだった。


海斗が近づく。


息が混ざる距離。


ノアールは、止めるはずだった。


でも。


《逃げるな》


胸の奥が静かに凍る。


《欲しがれ》


海斗の手が頬を包む。


強い。


予定より、強い。


《試せ》


雨音が視界を潰す。


《奪え》


次の瞬間。


ノアールの指が海斗の襟を掴む。


引き寄せる。


自分から。


唇が重なる。


深い。


長い。


台本より、ずっと。


海斗が一瞬だけ驚く。


だが、引かない。


腕が腰に回る。


《選ばれるな》


ノアールが一歩踏み込む。


押されていない。


自分から。


《選べ》


息が混ざる。


雨が強くなる。


《綺麗でいるな》


唇がもう一度、重なる。


今度は角度を変えて。


静かな衝動。


遠くで誰かが息を呑む。


《越えろ》


時間が伸びる。


監督はカットをかけない。


かけられない。


雨の中、二人だけが動いている。


やっと声が落ちる。


「……カット!」


静寂。


雨が止む。


海斗の指がまだ離れない。


ノアールの胸は高鳴っている。


後悔はない。


ただ、熱が残る。


視線の先。


レンが立っている。


その目だけが、わずかに揺れていた。

強く触れたのは、どちらからだったのか。


見ていた人と、動いていた人とでは、


きっと答えが違う。


次回、雨のあとの朝。

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