第77話 小さな家の灯り
誰かの暮らしを想像したとき、
未来は少しだけ具体的になります。
住宅展示場の特設ステージで歌った。
春のイベントだった。
足を止める人が多く、
拍手もあたたかかった。
うまくいった一日だった。
帰り際、少しだけ会場を歩く。
モデルハウスの窓が明るい。
中がよく見える。
家族連れが入っていく。
子どもが先に駆けて、
親が笑って呼び止める。
「いいな……」
ソレイユが小さく言った。
「何が?」
「ああいうの」
指さす先で、
若い夫婦が間取り図を見ている。
「広くなくていいの。
あれくらいでいい」
両手で小さく四角を作る。
「小さい家でいいから、
好きな人と家族つくれたらいいなって」
照れたみたいに笑う。
「ゆうと君?」
ルミエールが静かに言う。
ソレイユは少し止まって、
小さくうなずいた。
「でも禁止だからね」
軽く言う。
軽く言って、少しだけ寂しそうだった。
夜。
久しぶりにルミエールの家に帰った。
布団を並べる。
距離が近い。
今日の話になる。
「桐谷さん、また来てたね」
ソレイユが言う。
「ルミエールの話ばっかり聞いてた」
「技術の話です」
「それだけじゃないと思う」
少し笑う。
「たぶん好きだよ」
ルミエールは否定しない。
肯定もしない。
そのとき、
ノアールの端末が震えた。
メッセージ。
――今日、少し会える?
レンだった。
「レン君?」
ソレイユがのぞく。
ノアールはうなずく。
「今日は約束あるから無理って返す」
すぐ打つ。
「ちゃんと言うんだ」
「誤解されるの嫌だから」
送信する。
すぐ既読がつく。
――了解。無理させたくなかっただけ。
それだけだった。
「やさしい」
ソレイユが言う。
話が向く。
「で、どうなの?」
「何が?」
「レン君」
ノアールは少し考える。
「分からない」
まっすぐ言う。
「好きなのかどうかも分からない。
役なのか、自分なのかも」
少し間を置く。
「子役の頃一緒だったって言うけど、
覚えてないし」
ルミエールの視線がわずかに動く。
その瞬間、
今度はソレイユの端末が鳴った。
「ゆうとだ」
声が変わる。
やわらかくなる。
会話がそこで切れる。
ルミエールだけが少し考える。
でも口には出さない。
――まあいいか。
ノアールは前に進んでいる。
それが分かれば十分だった。
「明日も早いよ」
「うん」
灯りが落ちた。
未来の形は、
小さな会話から生まれます。




