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第76話 散る光、芽の気配
近づいたあとほど、
言葉が少なくなることがあります。
心が先に触れたぶんだけ。
「はい、カット」
声で現実が戻る。
風はまだ桜を揺らしている。
監督が近づく。
表情がやわらかい。
「今の、すごく良かった」
ノアールを見る。
「恋に慣れてない感じが、そのまま出てた」
胸の奥が落ち着かない。
レンの方にも視線が向く。
「あの目、止めなくて正解だった」
レンは軽く息を整える。
もう普段の顔だった。
全部、芝居の話になる。
それでいいはずだった。
それから、
二人の会話が少し減った。
目は合う。
でも長く続かない。
近いのに、
どこか慎重になる。
ノアールは分からなかった。
あの感覚が何なのか。
好きなのか。
違うのか。
名前がまだ見つからない。
花びらが勢いよく舞っていた。
さっきまで満ちていた色が、
空へほどけていく。
きれいなのに、
少しだけ寂しい。
終わってしまう形の美しさだった。
風が止む。
枝の奥に、
小さな緑が見えた。
若い芽が出ている。
なくなるだけじゃない。
次が、もう始まっている。
胸の奥も、
それに少し似ている気がした。
芽は、静かに始まります。
気づくより先に。




